第44話:敵襲-Ⅱ
「行って、芦原くん」
そして、律羽は連也の前に躍り出る。
敵の数は不自然なまでに増加しつつある。
これはただ群れと遭遇したというレベルじゃないと律羽も判断している。
「こういう消耗戦だと私の固有兵装って使い辛いのよ」
「俺も手を貸した方がいいか?」
「冗談が上手いのね。私はこんなでも騎士筆頭よ」
二人で不敵な笑みを浮かべると連也は律羽が露払いを完了させてくれると信じる。
そして、敵の統率個体へと目を向け直す。
「ん・・・・・・?姿が消えて―――」
さっきまでいた敵の姿が掻き消えている。
その瞬間、連也の勘が警鐘を鳴らす。
周囲を見渡すがその姿はないが、次第にその感覚は強まってくる。
そうなれば導き出される答えは一つ。
「芦原くんッ!!」
「上だろ・・・・・・!!」
凄まじい速度で叩き下ろされた一撃を辛うじて捌く。
バキンと腰の装甲が割れる音がして、わずかに全体の制御が緩む。
この汎用兵装では不意打ちは捌き切れないか。
目の前には他の個体よりも小さな人型が立っていた。
全身は赤黒く変色・硬化しており、両肩と側頭部からは禍々しい角が生えている。
まさに物語の世界で出会う悪魔にふさわしく、ルビーを思わせる紅の瞳が連也を捉えた。
一見すると獣と変わらないが、戦場での勘がいい。
このままではどちらにしろ連也が本体の元に辿り着くのを察して不意打ちで潰そうと試みた。
「さすがにこのままじゃ時間稼ぎしかできそうにないな」
本来は汎用兵装で悪魔型を倒そうとすれば、複数で連携を取って倒すのが普通だ。
単機でこの悪魔を倒そうとするならば。
それ相応の力が必要になってくる。
だから、連也は力の名を呼んだ。
「———個体名:ゲオルギウス、起動」
漆黒と黄金の混じった腕輪型デバイスは凝縮された設計図だ。
天空都市で標識などにも使用される技術が具現化である。
予め、製造済みの物体であればサイズを何分の一に凝縮して持ち歩けるわけだ。
製造段階で具現化前提の特殊金属を使用するので、エアリアルの固有兵装以外にはそこまで出回っている技術ではないようだ。
言い換えるならば設計図の具現化になる。
「さて、存分に相手してやるよ」
肩と右腕を覆うは西洋鎧を思わせるガントレット。
漆黒を基調に黄金の装飾が覆っており、荘厳ささえ見る物に抱かせる。
脚や左腕にも装甲は絡みついており、出力を増強させるシステムが組まれている。
固有兵装のブースト機能は飛翔に使う為に装着した汎用エアリアルの出力を制御、大幅に上昇させる。
故に固有兵装を装着することがそのまま速度や出力強化に繋がる。
それを見て一種の危機を感じたのか、悪魔は駆ける。
汎用エアリアルだけの葵よりも間違いなく速く、一瞬で目の前に紅に燃える瞳が迫ってきた。
それを連也は側頭部を蹴り飛ばし、そのまま離脱して
凄まじい破壊力の蹴りを喰らい、吹き飛んだ後に辛うじて体勢を立て直す悪魔型。
エアリアルもしていないのに自在に動けるのは制御の役割を果たす角のおかげか。
出力の調整は背中の羽でやっているようだ。
やはり、エアリアルに構造的に似ている。
「まあ、どっちでもいいけどな」
周囲は律羽や岬と葵が制圧しつつある。
琴音も的確な援護を送り、それぞれの隙を消していて抜かりがない。
「いいチームだ、そう思わないか?」
意志が通じるか怪しい悪魔に語り掛けると連也は右の拳を前に差し出した。
そして、そのまま拳を握る。
先程、側頭部を揺らした影響で簡単に回避はできまい。
「ガ・・・・・・ッ!!」
まるで悪魔型の首が握られているかのように空中に固定される。
連也の持つゲオルギウスの能力は空間の圧縮だ。
空間把握能力が並外れていなければ成立しない規格外のシステム。
連也がマップを見ただけでわずか一日で学園内を把握できたのもそれに起因する。
ゲオルギウスには補助型に近い、遠隔での具現化システムが積まれていた。
故に連也は多少の隙こそあるものの、範囲内の空間を文字通り握り潰せる。
空間そのものを縮めることで隙さえ見出せれば、首だろうと脚だろうと破壊できるのだ。
「思ったよりも固いな、まともにやり合ったらもう少し違ったかもな」
連也の拳がぎりっと握り締められる。
同時に連也の耳が、首の骨がへし折れる後味の悪い音を聞いた。
「さて、助けにいってやるか」
律羽達が優秀とはいえ、数も多かったのだから助けは多いに越したことはない。
念の為に悪魔型の角をへし折って回収し、腰のケースに収納した。
連也の考えでは後に何かの役に立つはずだった。
「えっ、まさか・・・・・・もう倒したの?」
律羽は驚きの表情で連也を迎えた。
恐らく見ていない一瞬でアイオロスを起動したのだろう。
敵の姿は大きく数を減らしていた。
加えて悪魔型の破壊が全体にも広がりつつあるのだろう、退却する個体やまだ戦う個体と統率を露骨に失った。
一戦士としてならそれでいいが、悪魔型はまだ前に出るべきではなかった。
統率個体を失えばどうなるかはわかっていたことだろう。
そもそも、この戦場に姿を現したことがミスであるとしか言えない。
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