第43話:敵襲
だが、準備を進めていた四人は不意に動きを止めた。
索敵は先程は一匹だけのはずだった。
動きはなく、だからこそ悠長に装備の最終確認まで出来た。
律羽は固有兵装は持ってきているが連也と同じく蒼色の鋼が重なったブレスレット型のままで腕に巻いている。
燃費が悪いのか、汎用兵装のままで戦うつもりらしい。
だが、索敵を告げる赤い点が増加している。
一つから三つ、五つ、二十を超える数へ。
「・・・・・・嘘」
琴音が声を漏らし、全員の間に戦慄が走る。
数は恐らく、百近くまで増加した。
琴音はこの連也達を除けば戦闘経験が浅いらしいので、ここまでの数は初めてだろう。
「落ち着け。この程度なら何とかなるさ」
連也は特に動揺した様子もなく琴音の肩を叩く。
その表情には自信が浮かんでおり、地上から来た人間さえこうなのにと彼女に思わせるには十分だった。
「飛空艇は停止してある。行こうか」
「おう、葵も準備はいいか?」
「うん、楽勝!!」
そして、三人はハッチを開けて飛空艇の天井へと躍り出る。
ここからが騎士としての戦いだ。
まともで出れば気圧で潰れるかもしれないが、エアリアルの緩衝膜が気圧を減少させていた。
目の前には敵の姿があった。
羽が生えた狼、角が生えた豹、様々な異形が無数に待ち構えていた。
まともな精神をしていれば体が震えて当然だ。
牙を鳴らし、爪を風で研ぎ澄まし、硬化した体表は威圧感を対峙する者に与える。
やや紅に近い色をした獣達の瞳には理性などない。
しかし、連也達は騎士だ。
異形を狩るためにここに立っている空の戦士だ。
最初に連也がエアリアルを駆動する。
突き進んできた獣の首を汎用兵装で蹴り飛ばす。
今は燃料の消費を考えれば固有兵装は使うべき時じゃない。
何かがあった時の為に固有兵装の燃料は可能な限りは減らしたく無かった。
同時に葵を踊り出し、二人は強かに複数の獣の顎を瞬時に蹴り上げる。
ごきりと首が折れる音がして獣は力を失って空中に浮遊する。
獣の体には死んで、なお浮遊する力が乗っている。
「葵、そっちは任せたぞ」
「うん、気を付けてね!!」
だが、連也は気付いていた。
まともに首を狙えば折れるが、少しでも外せば生き残る個体もいる。
唸りを上げながら喰らい付いて来る獣を捌いて再び首へ一撃を叩き込む。
肉体を狙うよりも特に多数を相手にする時は首が弱点になる。
いかなる強者でも首をへし折られれば沈む。
異形だろうと生き物である限りは変わることのない絶対の勝利条件だ。
「しかし、それでも・・・・・・多いな」
更に索敵で見たよりも数は増しているだろう。
そして、襲い来る敵が数匹。
一度に襲われないように上手く誘導しながら動いているが、これだけの数となると体力が心配だ。
だが、その獣が壁に弾かれたように吹き飛んだ。
何が起こったのか周囲を確認すると飛空艇の上には琴音が立っているのが見えた。
琴音はまだ固有兵装を持っていないが、汎用兵装に防御を張るものがあったはずだ。
補助型は高い空間認識能力を元に空間に障壁を具現化するイメージを実行しなければならない。
簡単に言えば緩衝膜を遠隔で張ることで他人を防御する。
しかし、ここまでの速度と正確さでそれを行えるとは驚きだ。
姉の言う通り、補助としての才能はかなりのものらしい。
「さて、僕も行きますかね」
空間を走るは火炎、数匹の獣が焼き切られて落下していく。
その両腕には紅と紫色が混ざり合った大型の爪が装着されていた。
獣の爪を思わせる兵装は、恐らくは爪一本でも刃渡り六十センチ程度。
これが話に聞いた岬の固有兵装、アドラメルク。
直接燃焼させる関係で燃費はよくないと聞いているが、腰には何本か燃料のボトルがセットされている。
本当に抜かりのない男で、戦場では非常に頼もしい。
岬の腕が振るわれるだけで大気が燃え、獣の命が刈り取られていく。
やはり汎用型兵装に比べて固有兵装の出力は極端に高い。
これだけの出力を扱える岬は自分でも言う通りの優秀さだった。
「さて、頭は・・・・・・」
岬のおかげで戦場にはかなりの余裕が出来た。
故に連也は景の授業にあったように群れの統率をしている個体を探す。
これだけの数が一斉に狙いすましたかのように襲ってきているのだ。
恐らくは知能が高い個体がどこかにいるはず。
そうして、奥にそれらしき個体を見つけた。
「どうやら、あれが統率をしている個体のようね」
連也に襲いかかろうとしていた個体が衝撃で吹き飛ぶ。
隣には汎用兵装を装備した律羽が浮遊していた。
「悪魔型・・・・・・連絡はしておいたわ。それまで耐えるか逃げるかね」
「俺があいつはやる。律羽は雑魚を掃討したらこっちまで来てくれ」
いかに連也が優れた騎士でも、この群れを一瞬で突破して統率個体を倒すのは少々難しい。
その露払いを律羽に任せたいと言っているのだ。
「いいわ、私を露払いに使ったのはあなたが初めてよ」
今もアドラメルクの破壊力を活かして岬は戦場を飛翔している。
紅の粒子が腕から放たれ、それが燃えた燃料の消費を示す。
あの様子だと燃料の交換のわずかな隙が出来るだろう。
「葵、岬と一緒に戦ってくれ!!」
「了解ッ!!」
さすがは相棒、連也の意図はすぐに伝わったようで葵は岬の周囲の敵をスピードでかき乱す戦法に切り替えた。
多くの敵の目を引くことで岬の負担を減らし、火力は岬に任せる合理的な判断だ。
やはり、葵の土壇場の勘は非常に優れている。
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