第38話:ショッピングタイム-Ⅲ



それからは今までとは少し違う時間になった。


律羽が連也に施設の説明をすることはするが、行きたい場所を話し合って訪れるだけだ。


「少し寄り道してもいいかしら」


「ああ、俺は特に行きたい所もないから好きな所に付き合うよ」


「ありがとう、少しインテリアを買い足したくて」


律羽は意外とこういう小物で部屋を飾るのが好きらしい。

そういえば、律羽の部屋にお邪魔したことはなかったので知らなかった。

騎士長の威厳的な意味で周囲にも隠しているだろうし、今は完全にプライベートモードのようだった。


連也には遠慮はとっくになかったが、彼女が自分のことを語ってくれるのが嬉しくもあった。


「ねえ、どっちがいい?」


「どっ・・・・・・右がいいな」


手のひらサイズの犬のキャラクターの置物で迷っているようだった。

もふもふしていて気持ちよさそうだ。

選ばれたのは目付きの悪いやさぐれ犬と愛らしい顔をした犬。

どっちでもいいだろと口から出かかったが、彼女にとって大事なことなのだろう。


「了解、そうするわ」


「両方買えば解決ってものでもないのか?」


「また買いに来るわ。今日はこっちの子だけよ」


まあ、とにかく律羽が生き生きしていて何よりだ。

クールな雰囲気の律羽がこんな顔をすると知ったら学園の生徒達はどう思うか。

意外と受け入れられそうな気がしてならなかった。


「お、あれ食べたいな。腹減った」


「いいわね、私もお腹空いたわ」


地上で言うクレープ・・・・・・と思ったが、律羽に確認すると本当にクレープのままらしい。

地上と違うのは生地がやや厚めなので食べやすい。

本来のクレープとは食感も似て非なるものだった。


外にいると文字通りの雲一つない空で天空都市にいるのだと実感する。


だが、ここにいると本当に地上と変わらない。

違う所と言えば、天空都市にはテレビがないので、ゲームセンターの有無か。

正確には似たようなものはあるのだが、エアリアル

の体験施設のようなものだ。


「あれ、やってみましょう」


視線の先にあるゲームセンター(仮)に律羽も目をやり、引っ張って行かれる。


「やりたいのか?」


「私と来ると、誰もああいう所に誰も行こうとしないんだもの」


騎士長様のイメージからか、あまり羽目を外して貰えないようだ。

確かに同年代から敬語を使われることもある彼女からすると厳しいかもしれない。

騎士長の称号もデメリットはしっかりとあるようだった。


「よし、やるか!楽しそうだしな!」


楽しむ時は楽しむ、それが連也の生き方である。

ゲームセンター(仮)にはゲームで軍事用エアリアルを体験できる筐体があった。

金を入れて、筐体の前にある仮想エアリアルシステムを装備する。

ちなみに天空都市の通貨は日本円とは違って独自の金貨銀貨銅貨式だ。

金銭に対する感覚は同じなので、特に困ることはない。


「意外としっくり来るな」


「ええ、そうね。そこまで違和感がないわ」


足元にある靴型のデバイスを装着し、腕には薄いセンサーを巻く。

これで装着者の動作ベクトルを検知して画面内で動かすようだ。


「普段使っていない装備がいいわね。ゲームだし感覚も狂わないし」


「そうだな、俺は・・・・・・」


ゲーム内では好きな装備を選べる。

剣、槍、斧、銃、弓、ガントレットまである。

この中だとガントレットは単に敵を殴る装備なので外れ装備のように見える。


「私は斧にしようかしら」


普段はこうしてゲーム感覚でプレイすることもないので律羽は新鮮そうだった。

人の命を背負わずに戦えるのは確かに妙な感覚だった。


「俺は・・・・・・ガントレットで行くか」


「変わったものを選ぶのね。まあ、好きに選べばいいわ」


さすがにあまりリアルだと不評になると思われたのか、ゲーム内の敵はほぼ黒一色の影だった。

形状は獣や鳥等あるが、おかげで嫌なことも思い出さずに済む。


「意外と動き操作性悪いわね。私に重量武器は合わないみたいね」


「重量系は対応力落ちるからな。律羽には軽量の方が合ってる」


「ちょっと、芦原くん。どうしてそんなにガントレット使うの上手いのよ」


「悪いな、センスだ」


「・・・・・・おい、初心者もどき」


突っ込まれながらも楽しく二人でゲームをプレイする。

まるで普通の学生のように、デートをしているだけのように。

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