第33話:集団戦のセオリー



固有兵装を扱える人間はそう多くなく、絡んできた東間も汎用型の使い手だった。


固有兵装を使える人間はデータベースでも閲覧できた。

恐らくは律羽が筆頭に名を連ねる理由もこの固有兵装の優秀さにあるだろう。



―――固体名:アイオロス。



律羽のエアリアル・アームの名称だ。

固有兵装を持つ者は、飛行システムそのものと兵装を纏めて固体名で呼ばれる傾向があるそうだ。


果たしてどんな能力か機会があれば知っておきたいものだ。


どちらにせよ、後に律羽と任務に行くことになるはずなのでその時に拝めるだろう。


前では景がいつになく熱意を前面に押し出して授業をしていた。


「例えばだ、俺が百メートルに渡って火を噴射する固有兵装を持っていたとしよう。ここで考えるのは俺の使い道だ」


強大な個体になればなるほど、人間達は複数で敵を叩かねばならない。

犠牲を出さない為には互いにカバーし合うのが最善だからだ。


「銃の兵装使いが十人いても話は同じだ。狙撃系と小銃じゃ範囲が違う。それはお前達も理解しているとは思うがな」


二百メートルしか射程がない銃と一キロまで狙撃できる銃をどこに配置するかでも考えは色々ある。


二百メートルラインに合わせて銃を配置して同時攻撃で怯ませるか。

それとも、一キロの射程を活かして注意を分散するか。


「それを理解する為にも部隊を適切に配置するには何が必要か、思い付いた奴から言ってみろ。お前らの命に関わるから、ここで発言した方がいいぞ」


挙がったのは武器の種類、敵を押し返す前衛の有無、敵の種類の把握等。


「それじゃ、芦原。天空都市に慣れるいい機会だ。思い付くことを言ってみろ。お前は間違えても仕方ないから思い切って言え」


「強さのバランスを考えて配置することですかね」


少しばかり考え込むと口を開く。


「そうだ、いい勘してるな。戦力を固めるか、分散するか。使われる側のお前らには馴染みがないだろうが、集団戦の肝と言っていい」


図を黒板に書きながら景は続ける。

この程度の回答は得られると思っていたから、わざわざ景は連也を指名したに違いない。

地上から来た人間があっさりと回答を出すことで、他の人間の思考を促した。


個々の戦力に差がある場合、これもまた指揮官のセンスが問われる。


指揮官の意図を理解する騎士の育成、そこに意義があると景は言う。


例えば前線一枚に戦力を集中させて侵攻を食い止める壁にするのもいい。

両翼に配置して複数からの攻撃を想定しつつ支援させるのもアリだ。

後方に強力な戦力を置いて状況に応じて救援に行かせるのも考えられる。


それぞれにデメリットもメリットもある。


「指揮官が戦場を見渡すが局所的な判断はお前らが下すつもりでいろ。頭の位置、敵の数、戦力、進行方向。お前らでも見える情報は山ほどある。特に敵の指揮官に当たる個体の位置は絶対に見逃すな」


景も歴戦の猛者であり、英雄に準ずると言われた男だ。

それ故に学園でもそれなりの発言力があり、理事長にも連也や葵の処置を任されたのだろう。


優秀な律羽の指導をしている時点で有能なことは周知の事実だが。


「指揮官に全て押し付けるな。戦場ってのは持ちつ持たれつだ。指揮官を勝たせるのもお前らの仕事の一つだぞ」


景は口こそ悪いが、確固たる理論がある。

戦場で生き抜いた過去があり、単刀直入に言い切る内容は理解し易い。

優秀なのは嫌という程に知っているつもりだったが、改めて優秀さを客観的に認識した。


そして、授業も終わりに近付く。


「最後に言っておく。死んだら終わりだ。お前らも知っているだろうが、英雄と呼ばれた男もそうだ。英雄は名誉の死とされているが・・・・・・最善は死なないことだった」


教本を閉じ、黒板の内容を消しながら景はそう言う。

景は英雄と呼ばれた男のことはよく知っているはずだった。


英雄的な死に酔うな、死ねば終わりだと熱に浮かれかねない生徒に釘を刺したのだ。


批判的な言動に取られかねないが、それでも景は伝えたかったのだろう。


「教本ありがとな。助かった」


授業が終わると連也は隣の席の琴音に話しかける。


「いえ、教科書まだ来てないと思うので」


「別に敬語じゃなくていいぞ。俺の方が後輩なんだから、むしろ俺が敬語じゃなきゃいけないんだけどな」


「あ、あはは・・・・・・大丈夫。それじゃ敬語なしでお話するね。それにしても芦原君って何か凄く堂々としてるよね」


遠慮がちにそう言って、少しだけ笑う琴音。


「俺はバカなんだよな、きっと」


「そんなことない、と思うな。私はいつも自信が持てないから羨ましいよ」


笑ってフォローしてくれる辺りからも彼女の人の好さが伺える。

何か気の利いたことを言ってやりたいが、出会ったばかりでどこまで踏み込んでいいものか。

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