第28話:蠢く影

「とりあえず当分の行動指針は決まっただろ」


誰もいない学園の応接室に一旦避難すると、景は更に口調を崩してそう言った。


「ああ、まずは宴会とやらを楽しみにしておこうか」


宴会になれば会場で逆に動きやすくなる。

いかに連也と葵が主賓と言ってもそれなりに広くなるだろう会場の中には人が多い。

そこが最初に連也が動く場になるだろう。


「・・・・・・いよいよ、だね」


葵が緊張した面持ちで告げる。


彼女は最初はこの計画に参加するかを迷っていたし、そもそも連也が実行することも躊躇っていた。

だが、葵にも戦いに参加する理由があった。

加えて連也を放っておけないという気持ちが葵を突き動かした。

無論、参加しなくてもいいと言ってはおいたが一度決めたら彼女は聞かなかった。


「ああ、俺はこの為にここに来たんだからな」


「くれぐれも慎重にな」


景も当然ながら宴会の日に失敗が許されないことは理解している。


「まずは日にちが決まったら景にも俺にも伝わる。詳しいことはその後だな」


「ああ、連也。もし夜に出歩くならこいつを持っていけ。頼まれたもんだ」


「よく作れたな。ダメ元だったんだが」


「この街にも裏稼業ってのはあるんだよ。もちろんバレないようにしてあるから安心しろ」


一枚のカードを渡されて連也は景の手際の良さに驚く。

作れたらでいいと頼んでおいたのだが、本当にやってくれるとは予想外だった。


結局、その後は少しだけ打ち合わせをして解散となった。



葵と二人で部屋まで戻ってくる。


「それで当日までに何かすることはないの?」


「あるさ。今夜はお前は寝てろ。俺が行く」


「行くって・・・・・・もしかして」


クローゼットを開くと下に敷かれた板をぐっと押してゆっくりとずらす。


普通にスライドさせただけでは開かず、服で隠れているので見つかりにくい。

そのスペースには布で包まれた連也の力ともう一つ、汎用型のエアリアルの簡易装甲。

腰にするバッテリーとベルト及び周辺機器、足の装甲のみだが十分に飛べる。


「ちょっと夜の学校にお散歩をな」


「でも見つかったら終わりじゃないの?」


「俺が三日で何もしなかったと思うのか?」


まずはデータベースから蒼風学園のマップを印刷して持っている。

既に頭に叩き込んだので自分の庭のように出歩けるようになった。


さて、ここで問題はセキュリティの厳しさだ。


地上になく知らない技術で捕捉されようものなら終わりだ。

しかし、連也にはどうしても確認しておかなければならないことがあった。

その為に景にセキュリティに関して聞いたのはもちろん、東間を人のいない時間にも関わらず裏手に呼び出したのも裏手の監視状況を自然に確認したかったからだ。


視認できる限りではカメラの台数は把握した。


どちらにせよ、自由に動けないようでは今後の計画も破綻するので失敗するなら今の内だ。

今ならまだ何も事件は起こっていないので、白を切れる可能性がある。


「つーわけで、夕食済ませたらちょっと行ってくるわ」


「コインランドリー行くみたいにあっさり言うねぇ・・・・・・」


「お前も連れていきたいが、二人とも捕まったら終わりだし俺の方がこういうことは慣れてる」


「いいけど、絶対に帰って来てよね」


「わかってる。ちょっとしたら戻ってくるさ」


不満そうな葵に笑いかける。


連也と葵は一種の家族のような絆で結ばれている。

きっと連也に何かあれば葵は酷く嘆き悲しみ、生きる希望すら失うかもしれない。

だから、ヘマをするわけにはいかないのだ。


連也に葵が必要なように葵にも連也が必要だ。



そして、夕食を済ませて辺りが暗くなった頃。


消灯時間を過ぎた窓際で蠢く影があった。

部屋の窓からするりと外に出るとセンサーの死角を巧みにすり抜けて飛ぶ。


そして、寮の裏口のカメラも空から抜けた影は裏路地に着地した。


「ふう・・・・・・案外、一苦労だな」


連也は無事に寮を抜け出すと学園の方へと進んでいく。

顔を見られないように布で覆ったまま、空を飛んだり歩行を繰り返して目撃者がいないように人通りのない場所を選ぶ。


そして、無事に学園へと辿り着いた。


「・・・・・・ここからだな」


小声で気合を入れると最初の侵入は正面口からだ。

裏からの侵入は当然ながら警戒されている。

正面口ならばカメラ数台を躱せば侵入できるだろうと踏んだ。


改めて確認するとカメラは思ったよりも台数がない。


そして、学園へと塀を超えて乗り込んだ。



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