第19話:作戦会議
学園から港はさほど遠くはない。
三人が寮に戻ると葵への説明も兼ねてもう一度、律羽が説明してくれた。
律羽が務める騎士長とは地上で言う生徒会長を更に格上げしたものだ。
戦いになれば指揮を執るが、律羽は寮の責任者の一人でもあった。
本来は戦いにおいて勇敢さと英知を見せよ、という立場だが彼女の面倒見の良さはそれに留まらない。
無論、他にも責任者がいる分業制なので一人に負担がかかることはない。
「それじゃ、あまり遅くまで入り浸らないようにしてね」
本来は男子エリアに女子が夜にいるのはよろしくないのだが、二人の積もる話もあるだろうと律羽は目を瞑ってくれた。
真面目という意味では堅物の気はあるが、一般的な意味の頭の堅い人間ではない。
「へー、いい部屋だね」
部屋に入ると葵はダンボールと棚とベッドしか置いていない部屋を眺める。
トイレと風呂は別で十畳分程、確かに一人で住むには十分な広さだ。
「この部屋って盗聴とかされてないよね?」
「ああ、全部調べたから問題ない」
地上から運んで来た物の中には色々と便利なものがある。
景が上手くやってくれて幾つかの荷物は厳重なチェックを免れた。
盗聴を気にしていては何も出来ないので、手早くチェックできるアイテムを持ち込んだ。
それと、景が手配してくれた最も大切なもの。
「こいつも使えるし、何とかなりそうだな」
ダンボールに包まれて手配されてきた布で包まれた何かを手に取る。
これは葵とは違った意味での連也の相棒、戦う為の力だった。
「あ、それ直ったんだ。わたしのは?」
「安心しろ、一緒に届けてあるよ」
別の包みを指さすと早速彼女はその中身を改めて、満足そうに頷いた。
再び包みをし直すと彼女はベッドの端に腰かけた。
「一回情報の確認しない?わたし、結構頑張ったんだからね」
「ああ、そうだな。まずは調べて来たことを教えてくれ」
この街の簡易的な地図も入手でき、地図を広げて今後の計画を練る二人。
今のこの街を二人はあまりにも知らない。
そして、今後の行動をそう取るべきかも街の情報によって変わってくる。
徐々に準備は整い始めている。
「大体、こんな所かな。わたしもここに知り合いがいるわけじゃないから、このくらいが限界だったよ」
「いや、この短期間で十分だ。ありがとな」
あまり長い間、転入もしないで嗅ぎ回っていると疑われる恐れがあったので情報取集にあまり時間は割けなかった。
それでも、葵は十分に情報を集めて来てくれた。
この場所で相手にするべき敵の姿は見えて来た。
「そういや、明日は景と一緒に理事長に会うことになってるんだ。お前も来いよ」
「うん、そだね。わたしも一度会っておきたかったし」
理事長と会う時間は有効に使わなければならない。
そこで有益な情報が得られる可能性は非常に高いし、景も手を貸してくれるだろう。
「そういえば景ちゃんと会うのもわたしは久しぶりだなぁ」
「あいつ教官になってるのを知って驚いたよ。それなりに自由にやれるくらいの立場は目指すとは言ってたけどな」
「景ちゃんの授業受けてみたいなー、あとで色々言ってやろ」
「面倒臭い生徒を持つと苦労するな、あいつも」
「大丈夫、迷惑はかけないって。知り合いだってバレないようにするし」
教官である景と二人の繋がりは絶対に知られてはならない。
今は天空都市にいる教官と地上からの生徒という全く共通項のない間柄と周囲からは見られているのだ。
いずれ、動く時に景の存在はとてつもなく大きい。
今それを失えば計画が瓦解する恐れすらあった。
「久しぶりに飯でも食いにいくか。門限に間に合えば問題ないしな」
寮の門限は八時になっており、事前に申請した理由があれば門限が過ぎてから戻っても何も言われない。
「あ、律羽は誘う?」
「律羽はどっちにしろ弁当注文してたし、久しぶりに二人で行こうぜ。ついでに買い物もしたい」
寮には価格としては安めの弁当を届けてくれるシステムがある。
門限内であれば配達時間は問題ないそうだ。
「お、それってデート?」
「それぐらいでデートって言うのもどうかと思うが、好きにしてくれ」
「じゃ、デートがいいな」
「暑苦しい、くっつくな。ほら行くぞ」
ひっついてくる葵を引き剥がして二人で部屋を出る。
騒がしいが、葵がいるとやはり楽しいし安心する自分がいた。
そうして、葵を迎えた最初の夜は更けていったのだった。
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