第18話:普遍的な輝き


「そういえば、葵さんも芦原くんみたいにエアリアルの適性が高かったのよね?」


帰りのモノレールで思い出したように律羽が訊ねる。

三人で寮まで帰宅している最中だ。


「うん、そだよ。わたしもこっちに来る話があった時にレクチャー済みだから、多分動かせると思う。あと、呼び捨てでいいって」


「あ、そうね。じゃあ、そうさせて貰うわね」


二人で示し合わせてそういう設定にしてあった。

怪しまれようとも絶対に確信を持たせなければ、それ以上は無理に追及もできまい。


「芦原くんと同じだったとすると・・・・・・そういうことね」


律羽は連也を一瞥すると大体のことは察したようだった。

連也にどんな事情があろうと、それと同じということだ。

葵のエアリアルの適性は連也とほぼ同等。


どちらかと言えば連也の方が操作技術は高いが、ポテンシャル的には匹敵する。


「大丈夫だって、俺も大人しくしてるし葵もそんなメチャクチャな奴じゃないって」


「そうそう、大人しくね」


明るい笑顔で同調する葵。


「・・・・・・どうしてかしら、不安しかないわ。別に今までのトラブルも芦原くんが悪いわけではないんだけど」


地上から来た人間というだけでも、それなりにプレッシャーはあるだろう。

だが、少なくともしばらくの間は大人しくしているはずだ。

まだ明確に動き出すには機が熟していない。


「まだそこまで恨みは買ってないはずだ。恨みなんてどこで買うかわからないけどな」


「律羽って美人だし、連也が恨み買ってたりして」


「怖いこと言うなよ・・・・・・」


実際に有り得そうで困るが、その場合は東間の時のようにお願いをする絶好の機会となるだろう。


「人の恨みなんてどこで買うかわからないからな。お前の性格なら大丈夫だとは思うけど、律羽は立場的に恨み買ってたりしないのか?」


さりげなく話題を律羽のことに持っていく。


以前の律羽に対する狙撃のことを本人が気付いているのかは知らないが、心当たりがあるなら自然に相談する流れにしたい。

あれは明確な彼女に対する悪意で、彼女を好ましく思っている身としては何とか力になってやりたかった。


だが、それを正面から言ったとして律羽が連也を巻き込まないようにする確率は高かった。


「私の知る限りはないわね。出来るだけ、皆が充実した日常を過ごせるようにやっているつもりだけど、私の能力なんてたがが知れているもの」


「でも、その律羽の努力のおかげで俺は楽しいけどな。まだ、クラスメートには引かれ気味だけど、話しかけてくれる奴も出来た」


「そう言って貰えると嬉しいけど」


「人間間違えるんだから、間違ってたらごめんなさいすりゃいいだけの話だ。少なくとも俺は楽しいぜ」


「・・・・・・あなたって、変な人ね」


くすくすと笑う律羽はどこか嬉しそうな表情だった。

それを首を傾げて見比べる葵。


「不真面目だったり真面目だったり、よくわからないわね。でも、あなたと話していると悩んでいたことがあっさり答えが出る。本当に変な人よ」


柔らかい笑みを浮かべると自分の中に反芻するようにゆっくりそう言った。

きっと、彼女も色々と悩むことがあるだろうと思う。

融通が利いてコミュニティー能力も問題ない、それでも景は彼女が堅物すぎると言ったのはこういう所だろう。


律羽は自覚している通り、正面から悩みを受け止め過ぎる。


だからこそ悩むし、聡明故に様々な回答を得てしまう。

だが、その優秀ながらも良い意味で人間臭い所が彼女の魅力だと連也は思う。


悩んだあげくに得た輝きだと誰もが感じる故に、彼女は慕われている。


「何も考えない方が答えも出ないこともあるからな」


「そうそう、わたしも頭空っぽにすると、すーって答え出たりするもんね」


「お前は頭空っぽなだけだろ」


「な、なんですと――っ!?」


「ふ・・・・・・あははっ、二人とも変な人ね」


律羽が笑いを堪え切れなくなったように失笑していた。

愉しげに、普通の少女のように。


この輝きは守られるべきものだ、と不意に思った。


あまりに普通に生きる律羽という少女の真っ直ぐさを失わせたくない。

優れていながら、他人に寄り添うことを忘れない優しさは理不尽に奪われていいものではない。


まるで美しい路傍の花に意味もなく心揺さぶられるように思いがこみ上げる。



だから、少しだけ成すべきことの前に寄り道をしてみようと思った。

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