第17話:二人目の新入生




ようやく、座学ラッシュが終わる。


天空都市の歴史やら基礎となる数学やら色々だ。



「顔が死んでるけど大丈夫?」


全ての授業が終わると、岬が席までやってくる。

ちょうど携帯に来たメールをこっそり確認していた所だったが顔を上げる。

地上から持ってきた携帯電話はあまり大っぴらに使用するべきではない。


「俺、やっぱりずっと座ってるの苦手だ」


「ま、座ってれば終わるって考えればいい。それで、暇なら今日は町でも案内してやろっかなって」


岬なりに連也のことは気にかけてくれているようだ。

しかし、今日は少しばかり予定が変わって放課後は空いていない。


「ああ、悪い。俺と律羽はパス」


「何で?デート?」


「デートじゃない。今日、地上からもう一人が先に寮に入りたいらしいのよ。編入自体は明日なんだけど、早めにね」


授業の前日から寮を使用するのは普通は無理だ。

今回は学園側も正式には入学していない生徒を寮に入れるのを特例と判断したようだ。


もう一人の編入生徒となる彼女と実はこっそりと相談した。


そして、本来は予定を早めて転入は明日になるのだが寮に入っておくことになっていた。

その為に律羽が再び迎えに行くことになり、同じ地上から来た連也が同行することに急遽決まったのだ。


予定よりも彼女の情報収集は遥かに速かった。


「編入生か、女子なんだろ?ちょっと楽しみだね」


「見てくれはいいから楽しみにしとけ。さて、行こうぜ律羽。着いたってさ」


「ええ、行きましょう」



岬には街の案内は後日に頼むと謝って、今日は相棒の出迎え優先で動くことにした。


律羽と一緒にモノレールに揺られ、現地へと向かう。

交通費は移住手当というこじつけのような名目で支給された生活費から出している。

後で不正だなんのと言われないように、具体的な用途等は公開情報とされている。

生活費程度の金額でどうこうも言われないだろう。


「まだいないようね」


小型の飛空艇が出られるようになっている港に降り立つと律羽は呟いた。


地上で言う飛行場にイメージは近いが、あれほど売店等が整備されているわけではなく、空港より規模はかなり劣る。

着陸場所にビル一つ付いた程度の規模でしかない。


ガラス張りのエントランスに入り、周囲を見渡しても誰もいない。


到着が遅れているのかと一旦、ソファーに腰かけて待機しようとした時。


「あー、連也だ!!」


底抜けに明るい声が背後から聞こえた。


背後を振り向くと茶色がかった長い髪、整いながらもあどけなさを残した表情、髪には羽根型の銀のヘアピン、そんな少女が立っていた。

白を基調にしたシャツに空色のパーカーを羽織り、スカートを合わせたラフ気味の格好だった。


―――彼女が上城葵かみしろ あおい


連也の昔馴染みにして、相棒と呼べる存在だった。


「よう、葵。無事に着いて良かった」


「ほんと久しぶり・・・・・・な気がしなくもないよ。こっちはどう?」


「五日前に会った気がするが、何とかやっていけそうかな」


「それで、そっちの人は誰?まさか・・・・・・もう彼女作った?」


膨れっ面で連也に詰め寄ってくる葵。

それに対して律羽はため息を吐くと一歩前に出た。


「芦原くんの学友兼世話役の月崎律羽よ。えっと、上城葵さんだったわね。困ったことがあったら何でも言って」


学友の所がやけに強調されていたのはご愛嬌だろう。


「うん、ありがと。わたしも不安だから、色々迷惑かけちゃうかもしれないけど、よろしくね」


律羽の柔らかい笑みを見て、彼女の人柄を認めたらしい葵も笑顔で応じる。

この様子なら二人が仲違いすることもないだろう。


「それで、二人の方こそ付き合っているんじゃないの?やけに仲が良さそうだし」


律羽から見ても葵の態度は連也に対しては特別なものだったようだ。

端的に言えばイチャイチャしているようにしか見えないということだろう。


「うーん、実質付き合ってるレベルの腐れ縁だし、わたしは別にゆくゆくは結婚してもいいんだけどね」


やや照れながらもそんな反応に困る事を言ってくる。

彼女もどうやら天空都市に来たことでそれなりに気分が高揚しているようだった。


「俺を前にしてぶっちゃけるね、お前」


「いいんじゃない?お互いのことを理解してるなら。お幸せに」


意外と律羽は反応が素っ気なかった。

別に地上人同士が恋愛関係にあろうと興味がないのかもしれない。


「葵は意外とがさつだし部屋汚すしで結婚したら絶対大変だから嫌だ」


「な、なんですとーっ!?」


ボロクソに言われてキレる葵。

二人の間に付き合おうとかそういう話になったことはほぼない。

連也が前に進むためには果たすべきことが邪魔をしているからだ。


それが済むまでは、そんなことは考えられない。


「とにかく戻りましょう。いつまでもここにいても仕方ないし」


ため息を吐いて流れを断ち切った律羽に続いて帰路につく。

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