第16話:資源

「まず、私達はエアリアル技術を転用して、遠い未来まで天空都市を支えなければなりません。その為に転用を学んで貰っているわけです」


石流礼いするぎ れい教官は前で参考書を開かずに説明を行う。


教科書はあるにはあるが、それを自分で理解した上で生徒に噛み砕いて説明している。

彼女が優秀なのはそれだけでもわかる。

淡々としてはいるが、授業以外でも優しく慕われている教官だそうだ。


「ここ十数年で解決された問題を挙げてはきましたが、例えば廃棄処理の問題があります。天空都市は広大ですが、一度環境を汚染されれば影響は大きくなりますね」


地上と違ってゴミを埋め立て処理をするのは、天空都市では中々に取りづらい手段である。


環境汚染されれば、すぐに天空都市中を侵食する。


限られた資源を大切にするのは理論的に考えれば当然のことだった。

その辺りは前提として生徒は理解しているだろうが、連也の為に説明を少しだけ変えてくれているようだ。


「ですから、ゴミは汚染をしない形で処理して、できるものはリサイクル。セルに練り込んで天空都市の動力源にすることもありますが、いかに再利用するかも今後は見直すべきでしょう」


「教官、質問いいですか?」


そこで連也は手を挙げて質問した。


「貴方は地上から来た・・・・・・芦原君ですね。どうぞ」


笑みを浮かべて石流教官は質問の時間を取ってくれた。

地上から来たので初歩的な質問や多少はタブーに触れても仕方がない立場をたっぷりと利用させて貰おう。


「天空都市の動力源って物を燃焼させてエネルギーに変える物なんすか?どこに設置してあるものなんです?」


「場所に関しては私も知りません。万が一、事件が起これば数万人が犠牲になりますから、秘匿すべきでしょうね」


これだけ広大な敷地内に動力炉があるのなら簡単に侵入を許してしまう。

そもそも天空都市の心臓の場所を教えないことで、天空都市が滅びる原因を潰す考えは合理的だ。


無論、異常が起こった時に備えて何らかのシステムが組まれているのだろうが。


「動力炉の構造に関しては貴方の言う通りです。直接確認したわけではありませんが、そういった資料は残っています」


「なるほど、ありがとうございました」


これ以上は聞いても無駄だと思って、大人しく元の席に座り直す。


「随分と真面目に受けてるわね。改心した?」


律羽が訝しげに訪ねて来るが、別に改心はしていない。

情報収集のいい機会だという気持ちもあるが、他にも理由はあった。


「地上から来た癖にって言われるのが面倒臭い」


「それは賢明ね。この調子で大人しくしていてね」


「それに律羽が世話係の癖に何してるんだって言われるのは嫌だからな」


「・・・・・・そんなことを考えていたの?」


「あのなぁ、俺だって恩を受ければ返そうとする生き物なんだよ」


二人はそんなことをひそひそと話していた。

律羽は連也が早く馴染むようにと心を砕いてくれていることぐらいはわかっている。

地上から来た得体の知れない男に対して孤立しないように話しかけてくれている。

無償でここまでしてくれる彼女に対しては素直に感謝していた。


まだ二日だろうが、恩義は恩義だ。


「ん、どうかしたか?」


「いや、別に何でも」


視線を感じたので、小声で訊ねるも目を逸らされる。

たまに律羽の気持ちはよくわからなかった。


その間にも授業は進行していたので真面目に受けることにする。


ちなみに前に座学を続けるとお尻がむずむずすると言ったが、とっくにむずむずしていた。


「少し話は逸れましたが、今後はいかに少ないセルから多くの燃料を生み出せるかが最大の課題ですね。人口が増えれば資源も求められますから」


教官の話は続いており、ほとんどの生徒はしっかりと聞いている。


セルは大気中に含まれているが、人間が回収できるのは粒子のような形で見える現象が発生した時だけだ。

発生予測するシステムを使って採取したり、空に生きる獣の体内に含有される。

それらを油等の素材に練り込んで粘り強いペースト状に変化させる。

ここまで加工したものがエアリアルのタンクに入れられたりもするのだ。


エアリアルの授業ではないので、この授業でこれ以上は触れることもなさそうだが。


石流教官の理路整然とした説明はかなり退屈さが軽減されてはいたが、それでも連也にとっては座学の連続は地獄だった。

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