第15話:天空都市の座学
彼女を狙っている何者かがいる可能性が高い。
そいつはあの狙撃を外したのか、あえて敵に殺させたかったのか、負傷させたかったのかはわからない。
それでも、彼女の存在を快く思わない人間がいるのはほぼ確実だった。
「そういえば、もう一人の地上から来た人は大分遅れてるね」
ふと、思い出したように岬が訊ねる。
「ああ、身辺整理にも時間がかかるみたいだし、二・三日かかるかもな」
「ちなみに連也とは知り合いなわけ?」
「ああ、一応な。いい奴だから特に律羽は仲良くしてやってくれよ」
「芦原くん二号でないなら、一安心だけどね」
「ちなみに俺はかなり気が合う」
無論、昔馴染みなのもあるがお互いのことはほとんど知っている。
連也に感性自体は近い物はあるが、心優しい点で連也より人間的には良好かもしれない。
「・・・・・・頭痛薬と胃薬を買い溜めしておいた方がいいかもしれないわね」
「そもそも地上を捨てて天空都市に飛び込もうって人間は、ふてぶてしくなきゃやってられないだろ」
「それはそうだ、僕なんて地上行けって言われたら絶対嫌だね」
「そういうわけで肝は据わってるのは間違いないってだけだ。俺より大分マシなはずだ」
実は既に彼女がこちらに転入するのは明後日だという連絡は来ている。
それはつまり、計画の最初の段階はクリアしたということに他ならない。
実は彼女は既に天空都市に入っている。
注目を浴びやすい連也の代わりに街の情報収集しているのだ。
天空都市で動くには街の知識が要る。
二人で学園の知識を吸収するよりも分担した方がお得というわけだ。
彼女が合流すれば、心強い味方になる。
エアリアルの特性は連也に近いレベルであり、戦力的にも申し分ない。
少し抜けている所はあれど、高い行動力と機転で土壇場に強いタイプである。
「自分でマシって言うのもどうかと思うわ」
「そういえばそうだな。すまん」
「・・・・・・段々、あなたのそういう所に慣れつつある自分が嫌ね」
ため息こそ吐くがこうして行動を共にしてくれているのは本当に有難かった。
だから、もし律羽が危機に陥るとしたら、連也は危機を跳ねのける為に力を貸そうと決めていた。
受けた恩は義を以て返すのが人間としての人情というものだ。
「そういえば、次の授業は何だ?」
「転用技術学だよ。セルを利用したエネルギーの使われ方をあれこれ説明される座学さ」
「・・・・・・戦士には休息も大切だと思うんだよ」
「何言っているのよ。転用技術学は私達の今後にとても大切なんだから真面目に受けるべきよ」
それは連也も聞いただけで理解したつもりだ。
天空都市ではエアリアル以外にも多くの技術でセルは使われており、そのエネルギー効率は少量でも絶大だ。
人間を浮かせるエアリアルを軽量化できたことでも、その有用性は明らかだ。
同時にその技術はこの天空都市を支える生命線でもあった。
天空都市を浮遊させているシステム、エアリアル、全てがセルによって賄われているらしい。
その未来ある技術を活用する幅を広げるのは今後の天空都市の発展には必要不可欠なのだ。
「この授業、課題が多くて嫌なんだよね」
「課題ってどんなのが出るんだ?」
「ちょっとした論文気取りの文章提出するだけ。資料館とか図書館で調べれば軽いけどね」
教室に入りながら、岬は面倒臭そうにそう告げた。
今の連也は学園の情報が入った場所にある生徒用IDを所持してはいるが、仮の状態だ。
だから、図書館には入れるが様々な過去のデータベースとなっているらしい資料館とやらには入れない。
まだ製作中とのことだが、恐らくは情報を渡す可能性のある場所には入れずに様子を見たいのだろう。
つまり、正式なIDが支給されたときには信用された目安となる。
本当は目的の為に早めに資料館を活用したいのだが、それも本来は出来ない。
その為に対策は講じてあるので使おうと思えば裏道はある。
「席に着きなさい。授業を始めますよ」
まだ年齢にして三十過ぎであろう女性教師が入って来て皆を静かにさせる。
さすがに今回は景教官の担当ではないらしい。
そして、連也と目が合った瞬間にわずかに値踏みするような目を向けて来たことを連也は察していた。
どうやら、完全な信用を勝ち取る為にはまだ時間がかかるらしい。
そして、連也の嫌いな座学が始まった。
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