第13話:戦果

今度も真っ直ぐに放出バーストが来る。

そして予想通り調整アジャストの動作を挟んで、くの字に折れ曲がって再度襲撃して来る。

このままでは連也は回避すらままならないだろうと判断してのことだ。


「・・・・・・ッ!!」


だが、連也は右足の蹴りを放出バーストで加速させて発動する。

とんでもない音を立てて頬を掠めた一撃に東間も一度距離を取った。


「・・・・・・なんだ、今のは?」


予想外の破壊力で繰り出された蹴りに攻め込むかを躊躇ったようだ。


エアリアルの装甲には全身を防御する機能がある。

薄い膜を張って装着者も守るが、その膜は衝撃を反発で散らす効果があるので防御力は高めだ。

無論、まともに喰らえば傷付くが、騎士達が最初に教わるのはまともに一撃を喰らわない方法だ。

正面からの一撃を防ぐことで防御を最大限に活かす、それが全ての基礎だった。


それでも人間が戦う以上は恐怖はある。


そして、その躊躇いの間に連也の準備は完了していた。


「なあ、俺があんたに勝ったらお願いがあるんだけどいいか?」


「はっ、初心者の分際で言うじゃねえか。いいぜ、勝てたらな」


「それは良かった。お手柔らかに頼む」


最初からリターンがなければ、こんな勝負は受ける意味はなかった。

だが、敗北の代償として少しばかり目的の為に働いて貰うとしよう。


連也は特に何も構えもせずにその場に立っていた。


そして、次に東間が動いた瞬間に連也は動いていた。

放出により全身をコントロールし、手にした剣型の貧相な兵装を振るう。


―――目にも留まらぬ速さで。


「なっ・・・・・・?」


東間の手にしていた剣が宙を舞い、地面に落下する時にはそのひび割れた形状が見えた。


「・・・・・・やっぱり、初心者じゃないわね」


下で見守る律羽はその戦況を見ながら呟いた。

有り得ない、あれだけの強度の差を強引に放出バーストで埋めた。

最初から武器は相打ちにするつもりで、東間の体重が乗り切るほんのわずかな瞬間を狙って破壊を成功させた。


それは豊富な戦闘経験が成せる技のはずだった。


「そ、そんなバカなッ!!」


そして、当然のことながら東間も目の前に起こった現実を受け入れられていない。

さすがに連也の手にした武器もひしゃげているが、それでもまだ一度だけ振るえなくはない。

何より、それは完全に撃ち合いを制したことを意味している。


「本当はこんなもの使わなくても勝てたんだけどな。お前にも分かりやすいかと思ってさ」


「てめえッ!!初心者じゃねえな!!」


「さあな。想像に任せるぜ」


もう扱い方にも慣れた連也がこの男に敗北するのは有り得なかった。

速度、精度、全てにおいて連也は明確に東間を上回っていた。


力の差を残酷なまでに見せ付けられながらも東間は向かってきた。


だが、視界から連也は既に姿を消していた。

放出、調整、再度放出、調整、停止。

これだけの動作を瞬時にやってのけて、東間の背後から形状が変わってしまった剣を突き付けていた。


「ここで止めてもいいぜ。何、別にお前を取って食おうってわけじゃない。少し、お願いを聞いてくれればいい」


東間を刺激しないように、耳元で穏やかな声を心掛けて囁いた。


「・・・・・・な、何だよ。そりゃ」


「別にすぐにってわけでもないんだがな。それは―――」


「・・・・・・そんなことでいいのか?」


こっそりと囁かれたことを反芻して東間は怪訝そうな顔をする。

実力差がわかって、交渉する気になったのか覇気がなくなっていた。


「ああ、それでこの戦いは終わりにする。ついでに俺達は仲のいいクラスメートになれる」


「・・・・・・断ったら?」


「実力差はわかってるだろ。お前が潰れるまで戦ってもいい」


そう答えた連也の表情を見て、東間は息を呑む。

冷徹で目的の為なら手段を選ばない悪魔の影をそこに見たからだろう。

頷くと東間と連也の協定は成立した。


「さて、ここら辺にしとくか。いい練習になったよ」


今までのはレクチャーだった雰囲気を出しながら連也は地上に降り立った。

さっきまでの様子が嘘のように東間は黙りこくっていた。


「まあ、とりあえず仲良くやろうぜ。別に俺はお前と喧嘩する理由はないんだ」


「・・・・・・ああ。お前のことは気に喰わないがな」


忌々しそうに答えるが、それ以上は特に反論もなさそうだった。

どうやら信念を持って地上の人間を差別しているわけではないのかもしれない。


何にせよ、目的の為に動いてくれる人間が出来た。


別にこの男の学校生活を滅茶苦茶にする気は全くないが、何にせよ。


これでまた一歩、目的へと連也は進んだ。



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