第12話:初戦
辿り着いたのはドーム状の屋根の下にある体育館のような場所だった。
地面はあらゆる場面を想定してか、土が露出している場所と鉄の場所が半々だ。
「それじゃ、実戦学始めるぞ」
今回の担当も景教官のようで、簡単に説明を始める。
最初は恒例の模擬戦する時間を設け、その後に基礎的なことを学ぶらしい。
普通は逆だが、学んだことをいきなり試合でやれと言っても難しい上に変な癖がつかないようにとのことだ。
練習を活かした模擬戦がしたければ自分で練習してから来いという話のようだ。
「さて、それじゃしばらくは好きにやれ。妙なことやったら止めるからな」
教官は用意していたパイプ椅子に腰かけると欠伸などし始めた。
相変わらずやる気のない男だ。
さて、相手は律羽にでもして貰うことにしよう。
初心者と思われる連也が相手を探すには時間がかかるだろう。
そう思っていたのだが、相手はもっと簡単に見つかった。
クラスメートの男が三人ほど近寄ってくる。
「よう、地上人。ちょっと相手してやるよ」
早速来たかと思われる程に典型的な絡み方だった。
短く刈り上げた髪にピアス、地上でもよくいる不良のイメージとぴったり重なる。
周囲には取り巻きらしき男子生徒が二人。
だが、最初に声を掛けてきたボスは特に取り巻きに意見を求めたりもしない。
それなりに自分の力には自信があるのだろう。
どう取り繕ってもクズの類であるのは間違いなさそうだが。
「地上にはエアリアルがないって知ってるよな?」
「ああ、だから叩かれて覚える方が早いかと思ってよ」
「そうか、気遣い痛み入るな」
遠巻きに見守る生徒の中には岬もいて、目が合うと“助けようか?”とアイコンタクトを送ってくる。
“いらん”と首を振って返すと再び不良共に向き直る。
ここで戦いを避ける方法は簡単だ。
「
剣呑な雰囲気を察して駆け付けた律羽が、不良のリーダーの東間というらしい男に声を掛ける。
正義感の強い彼女がこの状況を放っておくはずがないので、任せれば簡単に逃げられる。
ただ、ここで逃げるのはよろしくない。
この場を彼女の力で収めた所で、むしろ僻みを買うことになりかねない。
それにここの学生のレベルを理解しておきたかった。
「俺達は心細い新入生に教えてやろうって言ってるだけだぜ。同性のがやり易いだろ」
「それなら、そういう態度で臨むことね。暴力でいたぶろうとするのなら―――」
鋭い眼差しに男はやや怯む。
律羽の実力に裏付けされた眩いばかりの正義感は日陰者にはあまりにも眩しい。
「律羽、こいつらがエアリアルの使い方を教えてくれるって言うからさ。別にケンカじゃない」
だが、その心意気を今回ばかりは受け入れられない。
驚いた顔で見つめ返す律羽に一つ首肯を返した。
「教えてくれるって・・・・・・まあ、いいわ。そこまで言うなら観戦しているから」
ここで上手くやるには最低限の実力を示す必要がある。
それに、連也の目的の為にはそれなりに優秀だと認知させる必要も出て来る。
律羽も連也本人に言われては無理に止めるわけにもいかなくなった。
「お前、エアリアルはないんだろ?こいつを使えよ」
取り巻きが持ってきた、汎用型と思われる灰色のベルトと足の装甲を装着する。
「一応、汎用タイプの兵装は“起動”の言語キーで起動するわ」
ベルトのバックルを叩いてエンジンを起動させる。
全身を包む浮遊感は起動した証で、空中を飛び回るには一度だけ
「基本動作の説明は必要か?」
やや馬鹿にしたように訪ねて来るリーダー格の男。
「いらない、基本的な所はレクチャー受けてるからな」
「そりゃ頼もしいな。お互いフェアに行こうぜ」
「そうだな。さて、“起動”っと」
律羽に言われた通りに言語キーを呟くと手にした兵装が起動する。
木刀を鉄にしたような何とも頼りない武器だ。
それに対して、東間の兵装は弓なりに曲がって長剣で明らかにこちらよりも装飾が多い。
全身の装甲も厚く、基本性能にも差があると考えていいだろう。
互いに
「おっと・・・・・・危なかった」
ガクンと連也の全身が傾く。
どうも、この汎用性は癖がなさすぎて操りにくく感じて苦手だった。
最初の内は癖がない方が楽だが、自分の型があるとやりにくくて仕方がない。
「はっ、下手糞が。初めてにしてもセンスが感じられねえな」
「ああ、下手糞だからたっぷり教えてくれよ」
連也を笑う東間にも飄々と返答をしながら自分のエアリアルの様子を確認する。
まだまだこの感覚に慣れそうにないし、これ以上は相手も待つ気はなさそうだ。
「そんじゃ、行くぜッ!!」
間違っても初心者に向かって放つ威力の一撃ではないが、思ったよりも東間という男は実力もあるようだ。
「わっ、と・・・・・・とッ」
何とか回避には成功するも、再びバランスを崩しかける連也。
「避けてんじゃ・・・・・・ねえよッ!!」
再び風を巻いて鋭く重い一撃が連也を襲った。
律羽と出会った時の市民から借りたエアリアルよりも、中途半端に重いせいで扱いづらい。
「ちっ・・・・・・どうやら避けるのだけはマシらしいな」
だが、今度はそうも行かないだろう。
今度は確実に
男の実力ならその程度は難なくこなすと、一目見ただけで大体の技量はわかった。
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