第11話:空の授業-Ⅱ


授業は結局、歴史や現代の技術についてを解説して終わった。



一応は連也にも配慮した授業の進め方をしてくれたようだ。

授業が終了すると生徒が寄ってくるかと思っていたが、遠くから様子を伺っているだけだった。

地上から来た得体の知れない生徒に最初に誰が触れるかを躊躇うのは不思議ではない。


「転入生、ちょっといいかな?」


不意に声がかけられる。

そちらの方向を一瞥すると、髪は短髪ながら中性的な雰囲気を持つ男子生徒が立っていた。

顔立ちは女性と間違えられるかもしれない程に端麗で、制服が男子用の物でなければ勘違いしていたかもしれない。


「驚いたな、話しかけてくれる奴がいるとは思わなかった」


「少し面白そうだと思ってさ。地上から来たのにやけに堂々としてるから。バカか大物かどっちかなって」


「そっか、多分バカ寄りだぜ」


くすりと笑う男子生徒は毒こそある言葉だったが、その態度は友好的だ。

敵対する気はないと悟って肩の力を抜く。


「僕は藤川岬ふじかわみさき。岬でいい、よろしく」


「俺は芦原連也。不安で仕方がないからよろしく頼むな。俺も連也でいいぜ」


「不安な奴は初対面の人間にそこまで余計なことは言わないよ」


二人して笑い合って、握手を交わす。

岬に対して注がれていた視線に対しても物怖じしない度胸と自信、きっとこの男も優秀な生徒なのかもしれない。


「藤川君、その男には気を付けた方がいいわ。余計なことばかり言うから」


「月崎と連也って結構、仲良さそうに見えるけどね」


「非常に不愉快な批評は止めてくれる?」


「ま、僕はどっちでもいいけど。月崎って相手を認めてるとか簡単には言わなさそうだから」


にやりと笑って、律羽を眺める岬。


そういえば、話をしていて楽しいと言ってくれた気がする。

岬の視線を受けて、律羽は黙り込んで連也に視線を投げる。


「・・・・・・・・・?」


とりあえず笑い返してやる。

コミュニケーションの基本は笑顔である。


「バカなのかバカじゃないのか、本当にわからないわよ」


頭を抱えかねない律羽と能天気な連也を眺めて、くすくすと笑う岬。


「お前ら、結構いいコンビかもね。見てて飽きないよ」


「俺もそう思うんだけど、律羽って結構意地っ張りだしな」


「よくもそうポンポン余計なことばっかり出て来るわね」


律羽が律儀にツッコミを入れて来るが、実際の所は話をしていて楽しいのは事実だった。

彼女はこちらの話を聞いてくれて、真面目にも接してくれるので余計なことまで言いたくなってしまう。

彼女の反応が面白いという子供並みの動機なので、律羽を傷付けないように配慮は忘れないようにしたい。


「二人の漫才を見ているのも悪くないけど、次は実戦だから移動した方がいいんじゃないかな。僕は遅刻したくないから行くけどね」


「前から思ってたけど、藤川君も結構余計なこと言う種族ね」


「お互いはっきり言うのが僕の交友関係なんでね」


事も無げに答えると岬は教室を出て、男子更衣室へ向かう連也はそれを追いかけた。


「ああ、そうそう。今の内に聞いておきたいんだけどさ。ここには当然、地上から来た人間なんてクソだと思ってる奴もいる」


岬がはっきりと告げたのは、最初から想定されていたことだった。

中には異端を追い出そうとする勢力だっていたっておかしくない。


地上から人を招くのは天空都市の総意ではなかろう。


「ああ、そうだろうな」


「だから、連也に余計な手出しをする奴もいるかもしれない。特に実戦となれば、正面から連也を潰そうとする馬鹿もいる。僕は手を貸してやった方がいい?」


「・・・・・・貸してくれって言えば貸してくれるのか?」


「バカよりは連也の方が多分に好感が持てる。僕は優秀だから、蹴散らすくらいはわけないな」


要は連也が危害を加えられるのに手を貸してやると言ってきているのだ。

岬は口こそ悪いが、意外に義理堅い性格なのは何となく伝わってくる。

力を貸してくれと願えば岬は本当に敵対する人間から守ろうとするはず。


「いや、今はいらない。俺もエアリアルの様子を見たいからな」


「そっか、じゃあ襲撃されても見捨てるよ」


淡泊というか、断ればあっさりとしたものだった。

切り替えが早いというべきか、連也は助けを必要としていないことを理解したようだ。

岬が頭脳明晰なのは初めて話をした時から悟っていた。


「お前は優しいんだかドライなんだかわからないな」


「物事の判断が早いだけだよ。今の返事で確信したんだけどね、心得があるんだろ?エアリアルのね」


「・・・・・・随分と鋭いな」


「少しは心得がなきゃこの状況で様子を見たいなんてセリフは出ないさ」


「さあ、どうだかな」


連也は見通すような目線に対して、にやりと笑って返答する。

エアリアルを操れるのは間違いなく、それは律羽にも指摘されていたことだった。

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