第10話:空の授業

「そういうわけで、大半はここにいる人間は地上では日本人の血を引いている。芦原も日本人だから、同じ種族ってことになる」


天空都市の発想をした人間達が日本人であり、彼らは国家の支援を受けて天空都市を製造したそうだ。

しかし、いつしか天空都市は自らの浮遊が安定して世界を回ることになった。捕捉する技術もなく、百年が経過する内に天空都市は幻の都市となった。


しかし、ここでやはり疑問が出てくる。


「教官、天空都市の設計者って誰なんですか?」


連也は誰も突っ込まなさそうなので、手を挙げて口を開く。

色々な感情を持った視線が全身に集まるのを感じる。


「発想をした日本人チームの一人かもしれないが、詳細は伝わっていないんだよ」


「・・・・・・成程」


「個人の責任になることを避けた結果かもしれないが、全体的に都市の発想が似通っているから少人数あるいは一人で考えたものだとは言われているな」


これだけの都市を考案した人間とはどれだけの知識を持つ人間だったのか。

そして、何の為にこの都市が開発されたのか。


地球環境が悪化していたので実験都市として生み出されたとか色々な推測はできる。


ただ、どうにもそれ以外にも天空都市にはきな臭い所が多いのだ。

それ以上は景を突いた所で出そうにもなかった。


「随分と積極的に授業を受けてるじゃない」


律羽が意外そうにそう言ってくる。


「まあな。知りたいことは多いからな」


「地上に人がここに慣れるまで時間がかかりそうなんて思ってたけど・・・・・・ここまで抵抗がないと逆に張り合いないわね」


「そうでもないさ、律羽には助けられてる」


「それなら良かったわ。この調子で大人しくしていてね」


半眼で信用されていないことを言われる。

恐らくは連也に不審な点が多いことから、一抹の不安を覚えられているのだろう。

だが、連也が果たそうとする目的に律羽の介入は今の所は大きな障害にならない。

ただ、気高く人の心に寄り添える律羽にこそ、疑問を抱いて欲しかった。


この街には色々な側面があることを知っておくべきだと思った。


「折角だし、エアリアルにも触れておくか。基本にも触れるがブツクサ言うなよ」


しっかりとエアリアルの話を聞いてみたかったので、景に少し感謝する。

授業範囲は広く、景自身の経験を活かした内容にしているようだった。

こういう実戦を経た知識を話してくれる授業は大なり小なり己の為になる。


エアリアルデバイス、通称エアリアルまたは飛翔デバイス。


空を求めた人間が得た力であり、外敵と言われる獣災じゅうさいと呼ばれる空に住む外敵に対抗する為に開発されたシステムである。

セルを活かした技術は生活にも採用されていたが、それを軍事用に転用したものだ。


「システムは放出、停止、調整の三段階を切り替えることで使用可能だ。技術的なことは次の実戦学で話すが、これの切り替えが肝になる」


放出から停止、これを一回行うだけならそう難しくはない。

民間用は出力も高くないし、自転車の運転程度の難易度で操れる。

だが、軍事用となると話が全く変わってくる。


「軍事用はこの切り替えがとにかく大変だ。とんでもないスピードで走るのを止めて、方向転換までも個人で行わなきゃならん」


切り替えは民間用にも着いている、頭の横に固定する小型デバイスを使用する。

それにより思考の速さでの肉体の動きを補助することが可能だ。


例えば、全力で走った後に急停止したいとする。


その場合に早く走りたいと放出のイメージを行う。

そして、肉体の連動を同時に開始することで走るベクトルと同方向にブーストによる加速が働く。

停止にしても同様に、停止したいとイメージすれば思考の速度で停止が行える。

この動作を連続して行い続けるのが軍事用の特徴だ。


それを連続で行いながら攻撃と回避をするのがまた、難易度が高い所以でもあるのだが。


その為には感覚的に一連の動作を行う経験が必要だ。

故に連也が見せた技術を経験者のものだと断定されることにもなったわけだ。

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