第8話:教官と新入生-Ⅱ


観島みしま教官、連れてきました」


表の札に応接室と書かれた部屋に入ると、ソファーに腰かけた男が顔を上げる。

まだ若い男で茶色がかった髪に、顔付きはやや精悍な男だ。

早くも欠伸をしている所から良くも悪くも親しみ易さが伝わってきた。


「ああ、ご苦労だったな。初めまして、俺は君のクラスを担当する観島景みしまけいだ。よろしく」


やる気がなさそうな面があれど、観島教官はそう言って手を差し出してくる。


「ええ、不安なことも多いですが宜しくお願いします」


「程よく礼儀が出来てるのはいいことだ。そこの騎士長は少し堅物な所もあるからな」


「教官が抜けているだけだと思いますが」


敬語を丁寧に使う連也を宇宙人でも見るような目で見ていた律羽だが、我に返って反論する。

別に連也は相手に敬意を払わない男ではない。

目上の人間で敬意を払うに値しないと判断した人間、いわばクズ以外には敬語は使う。


「ははっ、そう言うな。地上の人間で色々言われるかもしれないが、俺や月崎に相談してくれ」


「はい。色々、相談させて貰いますよ」


「俺は芦原と少し話がある。個人的な話にもなるだろうから、月崎は教室に戻ってくれ」


「はい、そうします」


ややぞんざいな扱いをしつつも教官相手なのは弁えていて、少し頭を下げて律羽は教室を出て行った。

地上から来た人間と二人で込み入った話をするのは当然だ。


「彼女はいい子だろう。少々、堅物ではあるが優秀かつ奢らない。優れた人間とはかくありたいものだ」


「ええ、そうですね」


確かに律羽は優秀なようだが、周りに慕われているのはよくわかった。

そして、そこまで会話した所で教官の口調が変わる。


形式ばったところをわずかに残していた口調が更に力の抜けたものになる。


「今更だが久しぶりだな。この部屋の監視は切った。慣れない敬語で疲れただろう」


「ああ、まさかお前が教官とはな。驚いたよ」


それに答える連也の口調もまた、旧知の者に対する時のものだった。


「地上から来たお前をわざわざ担当する物好きもいなかったんでな」


「そりゃ、そうだろうな。わざわざ厄介事に首を突っ込む奴はそうはいない」


地上から来る人間の面倒を見るとなれば明らかに厄介になる。

コミュニケーションはどの程度通じるのか、人格に問題はないのか。


それらの問題に真正面から向き合う立場になっていく。


進んで火中の栗を拾う教官はここにもいないらしい。


「改めてよく来たな。指示を受けた物はお前の部屋に運んでおいた」


「ああ、助かる。お前にも協力して貰うぞ」


「無論だ。お前は存分にやれ。骨は拾ってやる」


二人は笑い合うとそんな会話を交わす。



―――そう、二人は以前からの知り合いだ。



別の言い方をするのであれば、とっくの昔にグルだ。


年齢は教官をしているだけあって景の方が上だが、彼には連也に全面的に協力する理由があった。

連也の目的は景の目的でもあるのだ。


更に協力者も到着することになっているし、体勢は整いつつある。


「まずはお前はここについて知ることだ。そうだな、三日程は大人しくしておいた方がいい」


「ああ、わかってる。監視の体制はお前に聞くとして、色々と調べたいこともある」


「何かあれば用立てておくからな。それと、明日の放課後は開けておけよ。理事長と会う時間を作る」


本来ならば理事長と先に会って話すはずだったのだが、どうしても外せない用事で明日になった。

その間に学校に少しでも慣れさせておくべく担当の景が先に話をしている。



・・・・・・という名目になっている。



「俺も立派な共犯者だからな。お互いバレないように上手く立ち回ろうぜ」


そして、二人は入学後の手続きについても話を進めた後に部屋を出た。

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