第7話:教官と新入生
それにしても、やはり律羽は有名人のようだった。
すぐに彼女に声が掛けられる。
「おはようございます。騎士長」
「おはよう。別に敬語じゃなくていいわ。年も同じでしょう」
「あれ、私そこまで騎士長と話したことありましたっけ?」
「たまに授業が一緒だし、前に一度声を掛けてくれたじゃない。それと敬語」
「ご、ごめん。学園の方針として騎士長はここの筆頭って扱いだったから」
「自分を偉いと思ったことは一度もないわよ、普通にしてくれた方が助かるわ」
話を聞いていても律羽の人柄がわかる。
普段はクールで品のある所作だが、話してみると年頃の少女らしい様子も見せる。
そして、ほとんど話をしたことがない相手の名前も記憶しているのは彼女が常に相手と向き合っている証拠だ。
騎士長が学園のリーダーとして認められた高い位、昔で言えば貴族にも等しい。
本来なら話しかけた女子の態度は決して間違っていない。
「こっちが芦原連也。地上から来た客人だけど言語は理解できるから安心して」
「この通り、騎士長に虐められてるから他の友達が欲しい。仲良くしてくれると助かる」
「あれだけ丁寧に色々教えてあげたでしょうが」
「ああ、そうだったな。本当にありがとう。助かった」
感謝と謝罪は絶対に茶化さない、それが連也の信条でもある。
真っ直ぐに礼を言われてきょとんとしている律羽が少しばかり面白かった。
「わ、分かればいいのよ」
だが、すぐに咳払いして誤魔化す彼女がまた微笑ましい。
「ふふっ、なんか騎士長のそういう所、初めて見たかも」
「俺は仲良くしたいんだけど、律羽が友達だって認めてくれなくてさ」
「大人しくしてれば、いい学友になれるかもしれないわ」
「俺をサルみたいに言うな」
「今後の評価次第ではサル扱いも覚悟することね」
そのやり取りを通りかかる生徒が挨拶がてら聞き咎め、くすくすと笑いながら通り過ぎていく。
無論だが律羽があえて溶け込みやすい形で連也を紹介してくれたこともわかっている。
だからこそ、先程も飾らずに素直な礼を述べたのだ。
「ごめんなさい。私はこいつを教官の所へ連れて行くから」
「あ、うん。仲良くね」
「別に仲が良いつもりはないんだけど」
「俺は律羽のこと結構好きだぜ」
「こ、公衆の面前で何を言い出すのかしら。こいつは」
特に下心もなく告げた言葉に律羽は一瞬硬直するが、ため息と共に連也を引き摺って行く。
そんな新鮮な騎士長殿を周りが生暖かい目で見つめていたことにも気付いていなかった。
「あまり取り乱させないでくれると助かるわ」
「悪かった。お前と話していると楽しくてさ」
「あなたとの会話が飽きないのは認めるわよ。ただし、余計なことは言わない方が身の為よ」
その鋭い目から、昨日言ったことを指しているのだとわかった。
“この都市が本当に守る価値のあるものだと思うか”という物騒極まりない質問だ。
「ああ、善処するよ」
「あの発言は聞かなかったことにする。別にあなたの事は嫌いじゃないし、地上からの客人でもあるから」
そう言うと律羽は一つの木造りのドアの前で足を止める。
洋館の扉といった印象の風情ある暗い色の素材を使っている。
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