第6話:天空都市の朝
「待たせたな、もう少し早めに支度しておけばよかった、すまん」
「私も寝坊していないかと思って、行くのが早かったからいいわよ。早起きして何かしてたの?」
朝食はトーストとハムエッグとサラダ、地上と食事習慣は特に変わらない。
昨日の律羽の足の怪我も大したことはないようだ。
「ああ、朝に一発済ませとくと一日気分が良くてな」
「・・・・・・お盛んなことで何よりね。別にあなたの事情だか情事だかに口出しはしないわ」
クールなふりをしているが、頬が赤くなっている。
落ち着いた印象こそあるものの、こちらへの配慮をしてくれて口数も少なくないので話していて心地よい。
生徒達から慕われるわけだと納得する。
ついでに、新たな一面を発見してしまった。
「・・・・・・俺が言ってるのはトレーニングの話だけど?」
「・・・・・・・・・」
「お盛んなのはどっちかねぇ?」
つい面白くて、にやにやしながら聞き返してしまう。
それを聞いて気付いたのか、律羽は呆然としたまま顔が更に赤くなっていく。
律羽は何気ない単語から、ナニかを連想してしまう程にむっつりな少女らしかった。
「・・・・・・あ、あなたが誘導尋問したんでしょう!!」
羞恥のあまり、彼女はキレた。
こういう意外とノリがいいというか、会話に付き合ってくれるのは彼女の美点である。
「そうだな、俺が常識がなかったみたいだ。一応、周りの意見も聞いてみたいな」
「・・・・・・こいつ」
赤い顔のまま、こちらを睨んでくる。
「冗談だよ。俺の事情だか情事だかわからない言い方をしたのが悪かったよ。この話はおしまいでいいな?」
「・・・・・・さりげなく馬鹿にされた気がするけど、意外と理解ある人間なのね」
あまり、からかい過ぎても歯止めが利かなくなりそうなので、この辺りで切り上げる。
人を弄るだとか弄らないだとかは限度が大切なのだ。
「さて、食い終わったなら行くか?」
「ええ、そうしましょう」
食器だけ厨房へと持っていくと二人は立ち上がる。
朝食が早かったので、多くの学生がようやく降りてきた所だ。
やはり、騎士長殿と見慣れない顔の組み合わせは人々の目を引くようだった。
学園までは徒歩にしてわずか数分。
それでも学園が小高い場所にあるからか、町並みは遠く見渡せる。
改めて地上とは概ねの慣習は近いものがあれど細部で色々と違う。
「それにしても、まだこの景色には慣れないな」
飛行できる区域では空中に具現化させた標識や道筋で進路が示されている。
具現化に関する技術は天空都市は地上より勝るという事前知識はあった。
加えて、飛行を許可するということは事故も増える。
故に落下物を感知すると緩衝膜を具現化する装置も電柱のように所々に立ち並んでいる。
検知して発動、この程度の動作なら天空都市のセンサー技術でも容易い。
「地上とは環境そのものが違うから」
「ここは精密機械の技術は地上よりも少し古いけど、一部優れるものもあるみたいだな」
特にセルを活かした具現化技術は地上にはないものだ。
大気に含まれるセルは高度が下がると極端に失われる性質がある。
それを避けるには上空で回収すればいいが、地上の人間が上空で回収して使うというわけにはいかない理由があるそうだ。
「意外と目敏いのね。初日とは思えないわ」
「下に慣れてる人間だと気付くもんだ」
そして、ようやく目的地まで辿り着いた。
学園は洋風の白い階段状に見える建物だった。
所々、庭園が見えて、通りには芝が敷かれて整備されている。
地上での学校と呼ばれる施設に比べると明らかに資金が投じられているのが見て取れる。
そして、周囲にはやけに堅牢で高い柵が設けられていた。
少し早めの時間にも関わらず、人はそれなりに歩いていて空を飛んでくる人間もいる。
飛んで通学が許されるならもっと多くの人間がやっているだろうし、何かしら許可がいるのだろう。
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