第5話:人知れず幕は上がる




ようやく天空都市にたどり着いた。



夜になって部屋に戻ると、連也はベッドに腰かけて息を吐いた。

さすがに初日だけあって色々と疲労が溜まっている。


ここは学生に用意された寮の一室、色々と調べることはある。


「・・・・・・少し言い過ぎたかな」


律羽との会話を思い出してため息を吐く。


言ったこと自体は取り消す気もないが、真正面から相手を否定するようなことを言い過ぎた。

律羽が人々を守りたいと思っていることに、色々な感情が混ざって皮肉めいたことを言ってしまった。

まだまだ連也も大人げない所があるのは否定しがたかった。


彼女には何の罪もない所か、心意気には尊敬すべき所さえあったのに。


そんな反省をしながら連也は部屋の中や窓から見える外の景色を見渡した。

地上から来た人間に全幅の信頼を置いて放置するはずもない。

地上との関係を考えて、大っぴらにはできないだろうが多少の監視は付いていると考えていい。


「別に今日は動く必要ないか」


ざっと確認するとどうやら監視は出入り口、角部屋故に使える小さな庭くらいか。

天空都市にしてはセンサーの精度が高いものを使っているが、この程度なら隠れて脱出も可能だろう。


ここには色々と不審なこともある。


全ては明日から、今日は体を休めよう。



そろそろ、もう一人も来る頃だろうから焦る必要はない。




―――そして、翌朝。



目覚めはそれなりに快調だった。



少しのんびりと持ってきた本、もちろん検品済みだがミステリー小説を堪能する。

親の影響で家にはミステリー系の小説がたんまりとあったのだ。


今まで趣味と言うほどではなかったが、ここでは娯楽も限られるだろうと持ってきた。


程々の時間になったのでシャワーを浴びて眠気を取り、簡単なストレッチも済ませておく。

物陰でリンチされる危険性もある、なんてことの為に早めに起きたわけではなく、単なる習慣だ。


連也の朝はこうして始まる。


そして、シャワーから出た所でドアがノックされる。


「おはよう。起きてる?」


昨日に出会った少女、律羽の声がドア越しにしてくる。


準備よく手配されていた部屋は律羽を含む女子と共同だった。

しかし、館内は男子エリアと女子エリアで区切られており、風呂も無論だが別だ。

その為、別に男女が一緒だからといって激しい苦情が出るわけでもないようだ。


「ああ、シャワー浴びてたから裸だ。ちょっと待ってくれ」


「そ、その報告が必要かはさておき、終わったら下に来てくれるかしら。朝食があるから」


「わかった。わざわざありがとな」


「・・・・・・お礼は言えるのね」


「当たり前だろ、礼と謝罪が出来ない奴はろくな奴じゃない」


「それはそうね。それじゃ、また後で」


天空都市での生活は電気をある程度は制限されている。


地上のように色々な部分から発電して全てを賄うわけではなく、地上にはないエネルギーが存在している。

故に空に満ちる大気の中に資源がある。


そんな所は昨日の内に律羽からレクチャーされていた。


着替えを済ませて、壁に取り付けられた筒状の機器を取り出して、円形のセンサーに触れる。

すぐに温風が送られてくる機械は地上で言う所のドライヤーだ。


こういう生活機器は風力発電やその他の発電施設で得られる電力と、空から得られる空化資源・通称セルを元にしている。


エアリアルを動かしているのもこのセルを凝縮したもので、これ程のエネルギー効率を誇る資源は地上にもない。

こういう独自の資源を奪い取られる危険性もあったので、天空都市は交流を持つのも長く躊躇っていたのだと言う。



「さて、行くか・・・・・・ッ!!」



濃紺の制服に身を包み、気合を入れて立ち上がる。



ここから芦原連也の戦いは始まる。



目的を果たし、天空都市でも当面は上手くやる必要があるので連也の成すべきことは多かった。

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