第4話:地上から来た少年-Ⅳ


「まあ、多少は事情もあるんだが言えないな。俺は今日ここに来た。エアリアルは他人に借りた。もちろん地上にこの技術が広まったわけじゃない。それ以外に答えようがないな」


向けられる目にも気分を害した様子もなく、連也は大きく伸びをしてそう言った。


「・・・・・・いいわ。ただ、私は私なりにこの場所が好きなの。余計なことをしなければ、快適な生活が出来るように協力する。私が世話係だし、何でも言って」


「ありがとう。世話係ってニワトリみたいだな」


「三歩歩いても私の忠告を覚えていてくれるといいんだけど」


天空都市にも人工的に養殖されたニワトリは存在している。

以前に地上から持ち帰ったものが繁殖したとか。


何にせよ、これ以上は押し問答だと感じて律羽は退いた。


本当に天文学的な確率ではあるが、本当に初めてエアリアルを使った可能性もあるので頭ごなしに決めつけるのも失礼だ。


しかし、この少年には何かあると感じたのも事実で、監視はさせて貰おうと決めた。

その程度のことはしておかなければ、天空都市に人を受け入れることはできなかった。


「別に俺だってケンカ売りに来たわけじゃない。善処するよ」


律羽から見て連也は受け答えもはっきりしているし、頭の回転も悪くないようだった。

怪しい所はあれど、騒ぎさえ起こさなければ認められるだけの人間性は垣間見える。



そう、思いたかったのに。



「そうだ、一つだけいいか?気を悪くしたら申し訳ないが」



少年が口を開き、律羽は先程とはわずかに雰囲気が変わったことを敏感に察していた。

聞きたくないと思う気持ちと何を言うのかと期待する好奇心が混ざり合う。



そして、彼女は前者に従っておけばよかったと心から思うことになる。



「この島が本当に君が守るに値する場所だと思うか?」



―――なぜ。



そんな思いが律羽の頭の中を駆け抜けた。

怪しい所はあれど人を救うことを優先した勇気ある人間、その点は掛け値なしに評価していたのに。


なぜ、そんなことを言うのか。



「単に聞いてるだけだぜ。そう思うのか、思わないのか」



そう、連也は訊ねているだけで喧嘩を売る気は微塵もない。

それでも自分がどういう表情をしているのかは理解しているつもりだった。


彼女はこう考えているだろう。



・・・・・・なぜ、この男は愉し気に嗤うのか。



だから、彼女は怒りを抑え込んでゆっくりと息を吐く。



「思うわ。それを笑うなら、あなたは私の敵よ」


「そうか、覚えとくよ」



これが二人の出会い。




幸せか不幸か歴史の一端にその名を刻む二人の出会いだった。



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