第3話:地上から来た少年-Ⅲ
さっきの原因不明の衝撃で右足の状態はやや悪化している。
だが、原因を究明している暇が今はなかった。
「それでも・・・・・・私が守る」
気高き律羽の意志は窮地を自覚してなお輝く。
使える右足のみで鋼の異形を迎え撃とうとした瞬間。
―――襲い掛かろうとした数体が胴を潰されて吹き飛んだ。
「えっ・・・・・・?」
思わず間抜けな声を出してしまうが、その正体はすぐに知れた。
踊る影は一つ、空を駆ける。
目の前に彼女と同じくデバイスを装備した少年が現れたからだ。
「大丈夫か?何だよ、あいつらは」
困ったように頭を掻きながらも声を掛けて来る。
黒髪黒瞳、細身ながらも身体にはしなやかな筋肉がついており、身長は百七十は超えているだろう。
この学校の制服を着ているものの、彼女が知らないという有り得ない少年だった。
「足に怪我してるんだろ?後は俺がやるから少し待っててくれよな」
そして、少年は空を蹴った。
まずは一つ、あっさりと敵の頭を足で吹き飛ばして停止させる。
彼が装備しているのはあくまでも市民用の出力を下げたデバイスだ。
あれで威力を出そうとするのなら、相当緻密な出力制御が必要となる。
市民の移動用に使われるギアは放出の出力が低く、放出で蹴りの破壊力の向上をするのは至難の業だ。
律羽には出来るが、それが出来るのなら少年は律羽レベルの精度を持ち合わせていることになる。
足技のみで敵を蹴散らし、頭を弱点だと踏むなり頭を徹底して破壊しにいく。
容赦はないが、的確な狙いを実現させる実力が少年にはある。
加えて、複数の敵の攻撃を回避する出力コントロールは目を見張るものがあった。
有り得ない、あれほどの技量を持つ人間を律羽が全く知り得ないなど。
有り得てはいけない、装備もろくにしていない人間が戦場を蹂躙するなど。
ものの二十秒程度で少年は全ての敵を粉砕していた。
「さて、手伝ってくれ。まだ逃げ遅れた人がいるはずだ」
彼女に一声かけると、少年はモノレール内に窓から潜り込む。
放心状態だった彼女は少年の向かった先とは別の窓に慌てて飛び込んだ。
こういう現場ではまずは救助優先、初歩的なことだった。
・・・・・・結局、事情聴取含めて全てが終わったのは二時間後だった。
「何で、俺まで事情聴取されなきゃいけないんだよ」
少年は不服そうに愚痴を漏らす。
それもそうだろう、乗客を甲斐甲斐しく外に運び出した少年に駆け付けた警備隊は疑いの目を向けた。
なぜ市民用のデバイスで敵を撃退できたのか、そもそも彼は市民として登録されていなかったのだ。
だが、彼女は見かねて不審な者ではないと身元を保証すると、律羽のことはよく知っていた警備隊は矛を収めた。
律羽も名前を聞いて少年の正体に思い当っていたのだ。
「人助けして疑われるってここの警察はどうなってんだ」
「それに関しては同情するけど。後、お礼を言ってなかったわね。経緯はどうあれ、助かったわ。ありがとう」
相手は人助けをした少年だ、敬意と礼を込めて頭を下げる。
彼女は首席で優秀な人材と周囲から認められてはいるが、自分を偉いと勘違いしたことはない。
「まあ、困った時はお互い様ってな。こっちで聞けって言われたけど、宿舎はどこかわかる?」
気さくに応じた少年は歩きかけて数歩、すぐに首を傾げた。
「ちょっと待って。案内はするわ。ただ、質問したいことが山ほどあるんだけど」
「歩きながらでもいいか?答えられることなら」
何を聞かれるかなんて察しているだろうに連也は快く頷いた。
どうやら性根は悪い人間ではないようだと律羽は内心で思っていた。
人助けを優先する行動力と正義感があり、話してみても人当たりは悪くない。
むしろ、まともな人間のようで安堵している律羽がいた。
ただ、それはそれで不審な点も多かった。
「あなたって地上から来たのよね?どうして、エアリアルを操れるの?」
それは当然の疑問だった。
地上の人間にはその技術はないはずで、流出しているとすればすぐにわかる。
だが、あの飛翔デバイスの操作の巧みさは明らかに熟練した人間のそれだった。
「あのエアリアルってやつは借りものだし、もう返した。マグレだろうが、上手くできてよかったよ」
「そんなことで信じられると思う?エアリアルの戦闘用制御は一度目で出来る程、簡単じゃない」
彼女の口調が少し強くなったのも無理はない。
ただの飛翔ならともかく、精緻にエアリアルを操る為には知識と鍛錬と経験を兼ね備えているのは絶対条件だ。
加えて、
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