第2話:地上から来た少年-Ⅱ
「無理なら早めに出て行って貰うのも止む無しね」
この都市が完成されたのは、まだ百年前程度だと言われている。
薄型携帯電話と呼ばれる物が普及したのが百二十年前なので、技術的には発展しつつあった時代のものだ。
だから、百年の間にこの島にも色々な噂が伝承されたりもする。
―――例えば、異端の素質がある者を幽閉した都市だったとか。
それはさておき、地上の人間の一部は天空都市に気付くや否や交流を申し込んできた。
独自の技術に人類の発展を見たのだろう。
対して天空都市が妥協した末の結論は、提供する機器で計測を行って適性の高い学生を二人まで受け入れること。
ただし、直接的な情報流出等の行為は当然禁止。
その学生が長期的に過ごせれば次の交渉にも応じるし、天空都市に来た二人に安全確認以外の干渉も禁ずる。
地上でもこの事実を知る者はごく一部。
天空都市側にも地上の人間を受け入れるメリットはあるが、天空都市の情報を横流しされるのも許せない。
扱いに困るというのが正直な所だ。
「今更になって何を言い出すんだって話よね」
乗客もまばらな車内でこっそりと呟く。
天空都市の人間は地上に降りることが出来なかった。
この都市は誰かが操縦しているわけではない。
無論、進行方向を変更したり停止する方法はあるが、基本的に下に降りることができない。
故に降りようとすれば個人で降りるしかない。
個人での降下を成功させたとしても、地上に行くリスクは高い。
天空都市の個人用の移動手段の技術は、間違っても地上に渡せる物ではないのだ。
実は、それこそ天空都市の謎だった。
この都市、そして独自の技術の開発者は誰なのか。
この都市の動力は本当に授業で習うようなものなのか。
考えれば疑問は尽きないが、生活を不自由なく送っている人々はいつしか疑問を追求しなくなった。
それが正しいか正しくないかはともかく、現実としてこの都市は上手く回っている。
もうあと一駅で目的地に到着する。
律羽は一息吐くと窓の外の薄っすらと雲がかかった街並みを見据えた。
その、時だった。
ガクンと激しくモノレールが激しく揺れる。
社内にいた客が一斉にドア方向へと叩き付けられる。
さすがの律羽も床に叩き付けられるも咄嗟に頭を庇って受け身を取った。
だが、それが逆によくなかったらしい。
「痛ッ・・・・・・!!」
足首を捻ったらしく、激痛が足に走る。
しくじったと歯噛みするが、後悔しても後の祭りだ。
それでも、自分の出来ることをしようと彼女は持っていたバッグを探った。
咄嗟の衝撃でもそれだけは放さなかった。
体を縮めて靴の上から靴よりやや大きい程度の装甲を装着し、腰にはバッテリーの入ったタンクを巻く。
同時にブレスレット型の輪にグローブが付いたものを右手に装着する。
慣れた動作なので準備はものの数秒で済む。
「本格的な起動は無理ね・・・・・・」
あくまでも現状の装備は念の為にと持ってきていた最低限のものだが、これでも十分に動けるだろう。
彼女は腰に装着したバックルの側面を叩く。
バッテリーの駆動を促すサインであり、彼女が飛行を行う為の条件だ。
同時に民間用と軍事用で出力が異なるものの、人々が移動する手段の一つがこのエアリアルデバイス、通称はエアリアルとか飛翔デバイスだった。
「落ち着いてください。私は訓練生です!!」
まずは現場を鎮静化することから始めようと声を掛け、傾いたモノレールの窓から脱出した。
訓練を受けている学生ということ、彼女の所作が自信に満ちていることに引っ張られて乗客は少しずつ落ち着きを取り戻す。
モノレールの側面を飛翔して声を掛けて回る。
一車両に時間を割くわけにも行かず、一度車両の中央まで戻る。
何が原因で車両が傾いたのかを究明する為に高度を上げる。
―――そして、律羽は呆然と空中に立ち竦んだ。
確かに外敵と呼ばれる存在は天空都市にはいる。
森にも海にも危険な生き物がいるように空にも敵はいるが、この場合は全く違う。
確かに眼前には外敵がいる。
だが、彼女の知っている敵は断じて目の前にいるような鋼と機械が入り混じった異形ではない。
獣に近い形はしている化け物が、そもそも如何なる手段でここまで入り込んだのかと考える間に敵は跳躍していた。
数メートル先にいる彼女へ一跳びで届く跳躍力、それを彼女は怪我をしていない左足で無造作に蹴り飛ばした。
一般的には外敵と戦う為に
だが、迂闊にも彼女は出迎えだけのつもりだったので兵装までは持ってきていなかった。
メンテナンス中だったこともあり、彼女が大抵のことは簡易装甲で何とかなる身体能力を持っているからでもある。
「何よ・・・・・・こいつら」
襲ってくる一匹を蹴り飛ばして、獣の足が潰れても構わずに向かってくる。
続けて、三体目の頭を潰して乗客を案じて目線を向けた瞬間だった。
それはわずかな油断だっただろう。
不意にガキンと鋼がぶつかり合う音がして、彼女の履いた脚部装甲が弾かれる。
「えっ・・・・・・?」
意識を外した瞬間の有り得ない方角からの衝撃、完全に足元を崩された状態で視界の隅にはモノレールの影から踊り出す異形が見えた。
数にして見えるだけでも十体を超える。
それでも彼女は驚異的な身体能力と“
並みの操空士ならここで詰みだが、彼女の筆頭という肩書は伊達ではなかった。
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