線路が家の傍を通っていたから、僕は、家の窓から最終の汽車を見送った。長い長い汽笛を静かな夜の中、響かして、走り去って行った。その時、ライトに照らされていた三分咲きの桜がとても綺麗だった。まだ三分咲きだというのに、どうしてこんなに綺麗に見えたのだろう?

 その日の夜、夢を見た。

 夜の駅での夢だった。

 「今でも待っている?」そこにいた美知代は僕に訊いた。

 「今でも待っている?」

 「何を?」

 「何でもいい」

 「そりゃあ、誰だって何かを待っているんじゃないか?」

 「じゃあ、あそこまで来てくれる?」

 「あそこって何処だよ」

 「星の似合う場所」

 「はぁ?」

 「じゃあね」

 「ちょっ、きちんと質問に答えろよ!」

 「がんばってね」

 「はぁ?」

 「——」彼女は汽車に乗ってしまった。

 その車内には美知代や洋平、裕子や修一が乗っていた。

 そして、星の似合う場所って何処だろう、と一瞬考える。

 でも、どうして……。

 「どうして、先にいったんだよぉっ!」僕は叫んだ。「俺を置いていくなよぉ!」

 汽車はテールライトしか見えなくなり、やがて、それも、闇へと吸い込まれた。

 どうして、僕だけが……。

 そこで、目が覚めた。

 布団から跳ね上がっていた。

 冷や汗が出てたから、袖で拭った。

 今日から四月だ。

 僕も中学生になった。それが、何故か、少し寂しく感じていた。


◆  ◆  ◆


 僕は、引越しのために新しい街へと向かう父さんの運転する車の中でまどろみながら、思い出していた。

 あの冬の、あの日の事。そして、それからの事。

 初めて、例の夢を見てから三年が過ぎたけれど、何回も同じ夢を繰り返して見ている。きっと、これからも、見続けることだろう。正直なところ、あまり、それは嬉しいことではない。でも、それは、美知代たちの事を忘れたいということじゃない。僕は覚えておかないといけない、絶対に。

 さようなら。

 忘れない、絶対に。

 この町も、事故も、友達も……。

 いつの時でも……。

 どこにいても……。


 「グット・ラック」窓から見える、住み慣れた町に向かって、僕は呟いた。「きっと、また来るから」

 車は不規則な揺れを続けながら町へと走り続けていた。

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汽笛を聞いた夜 - All starts at dream 雪夜彗星 @sncomet

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