第17話~狙われた術士と陰謀2~
冷却が終わった太陽がそろそろ顔を出そうとしている時間、まだ薄暗く朝靄が掛かる寺の開け放たれた本堂から170cm程の身長に8等身になる小顔、ふくよかな胸、引き締まった腰回り、すらりと長い足で女性は寝起きなのか「あくび」をしながら現れると、今にも閉じて寝てしまいそうな目で体を左右に胸を上下に揺らしながらゆっくりと階段を降り始めた。
ただ女性は寺には誰が見ても相応しく無い格好をしていて、上下の黒い下着が透けて見える膝上の白のレースのネグリジェに、透けて見える体に見合ったサイズの胸は鎖骨の中心と左右の胸のトップを結ぶ三角形が正三角形になる「ゴールデントライアングル」を描き、その胸は日本人の男性なら誰もが憧れる「釣鐘型」を形成していた・・が残念な事に前髪は手櫛程度で左右に分かれ長い後ろ髪は輪ゴムらしき物で首の後ろで縛られ特に手入れをした様子は無かった。
女性は裸足のままで地面に降りるとまたあくびをし大きく背伸びをすると胸の谷間に挟んでいたキセルを抜き指揮者の様に振りながら階段脇に咲く高さが
「そろそろ終わりそうなのはいるかな?お・・1本は数日で帰れそうだね・・よしよしいい子だ」
1番背の高い紫の花を嬉しそうにキセルで突くと何故かキセルから煙が上がり始め女性は降りて来た階段に座り長い足を組むとキセルを吸いゆっくり煙を吐き嬉しそうに「いい味だね」と呟くと煙に上がるキセルを手にウトウトし少しすると眠たそうな顔を正面の寺の入り口に向けた。
「
「この
「食うのか?いいぜ・・食えるならな・・ゲヘヘへへ」
寺の入り口から堂々と現れた赤鬼は連日償払寺に現れ同じ話を繰り返し、秦城を舐める様に見ると卑猥な言葉を吐いていた。赤鬼はいやらしい笑いを浮かべゆっくりと秦城に向かい歩き出すと、秦城真弥と呼ばれた女はキセルの種火を階段の角で落とすと立ち上がりキセルを指揮者の様に構え不敵な笑みを浮かべキセルを振った。
「
秦城が目の前の空間にキセルの煙で魔方陣を描くとそこから目と口が無く体長が2mはあろう餓鬼と秦城と同じ身長で体が炎に包まれた餓鬼が現れると秦城はキセルを赤鬼に向けた。
「さあ、罪を償う時間だ・・」
秦城の言葉に唸り声を上げ「鑊身」は走り出し「無食」は体の炎を赤鬼に放つと赤鬼は向かって来る炎を片手で払い消すと向かって来た無食の拳を両手で受け止めた。
「チッ、また餓鬼の術か・・・・餓鬼のくせに何て妖力をしてやがる・・餓鬼の分際でー」
赤鬼は無食の腕を掴むと蹴りを入れその勢いで腕を引き千切るとその腕を秦城に向かい投げつけた。
「餓鬼程度で俺が倒せると思っているのか秦城真弥」
「罪を償い解放の為の執念に罪償術で強化した餓鬼なら、お前程度の鬼なら十分だと思っているのだが・・お前がここで今まで犯した罪を償うと言うのなら特別に怨餓鬼隊に加えてやってもいいぞ」
飛んできた腕を無食の炎が焼くと秦城は小さな口でゆっくり煙を吸った
「罪を償うだと?俺はお前で慰めてくればOKだぞ秦城真弥!」
「愚かな鬼だ・・罪の量が多ければ多いほど私の罪償術は強くなるのだから・・罪償術、36怨餓鬼隊、出ろ!7番!
赤鬼は走り出すと近くにあった細長い灯篭の柱を掴み引き抜くと勢いのまま秦城に向けて振り下ろした、秦城は煙を吹いて魔方陣を作ると鑊身と変わらぬ黒い体格に長い爪を持った餓鬼が現れ灯篭の柱を長い爪で受け止めた。
「次から次へと変な餓鬼を召喚しやがって」
「変な餓鬼だと?私に使役し手伝う事で罪を償い成仏しようとしている餓鬼のどこが変なんだ?」
「成仏だと?何を馬鹿な事を言っているんだ、餓鬼なんて地獄にいればいいんだ」
「地獄?・・それなら今からお前もそこに送ってやる!罪償術、36怨餓鬼隊、出ろ!33番!
「何だこいつ、糞・・ぐぁー」
秦城は怒りの表情を浮かべるとキセルを振るい魔方陣からよだれを垂らし鉄の首かせを付け体には刀が数本刺さった餓鬼を呼び出すと餓鬼は咆哮を上げた、呼び出された住塚間食熱灰土は月に一度の食事に狂気し物凄いスピードで赤鬼に襲い掛かり赤鬼を捕獲すると右腕に食らいつき腕を食い千切り咀嚼をすると今度は赤鬼の頭に照準を合わせ大きく口を広げた。
「遅いと思い来てみれば・・何を遊んでいる
「
「封印の場所が分からないのなら・・自分でなんとかしろ」
赤鬼の影から猫背の黒鬼が現れ周囲を確かめると最後にチラッとだけで秦城をみると赤鬼の影に吸い込まれて行った。
「クソー闇隠鬼のやつ・・ぐおおおおおお」
猛牙鬼は残った腕で大きく口を開けた住塚間食熱灰土の顔面を殴り倒し脱出すると食い千切られ残った腕を押さえながら入って来た門を飛び越え逃げ去った。
「戻れ、36怨餓鬼隊・・フゥ―・・あの赤鬼に黒鬼・・封印の情報をどこで手に入れたのだ・・」
赤鬼の気配が消えると秦城は呼び出した餓鬼達を戻し煙を1度だけ楽しむと種火を落とし本堂の階段を上り本堂の入り口で立ち止まり中にいる正座をする若い人間達を眺めた。
「これ以上ここで
捜査2日目 依琴は美濃の2人は失踪事件対策本部に籠り資料を見ながら接点を探したが進展も無く時間だけが無駄に過ぎて行きホテルに戻った依琴は進展しない捜査に少しイライラしながらベッドに腰かけ陽光寺に電話を掛けた。
「・・はい、こちら安全・・」
「依琴だけど、かーさんいる?」
依琴のイライラに遮られた庵角は「お待ち下さい」と寂しそうに言うと少しして紅麗が電話に出た。
「何か進展はあったのかい?」
「特に進展は・・」
「その様子じゃ妖の痕跡もなさそうだね・・あ、そうだ餓鬼がいない件だけど・・過去の事件でもそう言った事が書かれている物はなかった・・餓鬼は人間の住む場所ならどこにでもいる妖だ、それがいないとなれば・・多分、餓鬼を集めている妖か餓鬼を食っている妖がいると思う」
予想していた紅麗の答えに依琴はベッドに寝転がり開いた腕で目を塞ぐと。
「集めているならどこかに拠点が・・食うなら少なくとも痕跡は残るよね」
「そう言う事だ・・依琴、現場は回ったのであろう?そこに痕跡が無いのであれば・・捜査の基本は足を使え・・だ」
「うん分かった・・明日県内を回ってみる・・時間掛かりそうだけど・・ありがとうかーさん」
依琴は電話を切るとベッドから立ち上り「イライラ」解消させる為にホテルにある食の戦場に向かった。
依琴は捜査3日目からの数日 鈴島の許可を得るとあてもないI県内を美濃の運転で回り始め美濃が「どうせあてが無いなら」と観光名所巡りを提案され依琴はそれに同意する事にした。
黒い革の応接セットが置かれ長椅子に背をもたれ足を組むグレイ色のスーツの男は煙草を銜えたまま天井を見上げているとシャンデリアの飾りが揺れると声が聞こえて来た。
「杉原さん、放った鬼達からの報告がありました」
「どんな内容だ?」
「まずは文字について・・
杉原が話を聞いていると机に置かれた地図が勝手に開きI県全域で止まると5か所に赤い点が現れ、報告を聞いた杉原は煙草を消すと新しい煙草に火を点け大きく吸い込みゆっくりと煙を吐いた。
「それで償払寺に疫青鬼はいたのか?」
「それが、餓鬼を操る秦城真弥と言う術士が調査の邪魔をしていまして・・行かせた猛牙鬼が片腕を失っています」
「餓鬼を使う術士?そんな術士は聞いた事がないな・・まぁいい4つの寺は引き続き監視させて・・猛牙鬼レベルで駄目なら出ている
羅将鬼と言う名前を聞いて一瞬シャンデリアの飾りが揺れた。
「羅将鬼を呼び戻すのに2日程必要になりますのでご了承を・・それと県警に怪しい術を使う術者がいると報告がありますが・・いかがいたしますか?」
「県警に怪しい術士?・・何故I県に妖対策捜査課が動いているのだ・・」
「その術士を調べましたが・・人間の失踪事件の調査でI県に来ている様で特に問題は無いかと・・」
「それなら餓鬼を集めている妖に市街地に寄らない様に徹底させろ、あいつらに見つかると面倒だからな」
「承知しました・・」
闇隠鬼の気配が消えると杉原は煙草を吸いながら地図の赤い点の周辺を確認した。
「餓鬼を操る術士・・調べる必要があるな・・しかし妖対策捜査課が近くにいるのは気に入らない・・事が終わるまで他に気を逸らせる必要があるな・・」
ほぼ観光名所巡りと化した捜査が2日続き何の収穫も無かった依琴はホテルで報告書を書いていた。
「・・初動捜査日から残り2日内に妖の痕跡が無ければ規定に従って一時帰還っと・・妖が集まりそうな観光名所はほぼ行ったし・・他に集まりそうな場所は・・」
報告書を書き終わった依琴はベッドに転がると初日にタクシードライバーに貰った「観光名所」と「隠れた観光名所」のパンフレットを順番に眺めながら引っ掛かる餓鬼の存在を考えていた。
「何故餓鬼がこの辺りにいないのか・・餓鬼が居なくなる何かがあるはず・・ん?ここはまだ行っていないな・・」
「隠れた観光名所」のパンフレットに書かれた「歴史マニア必見・I県の古い歴史とその跡地探索」のページに目が留まると、そこには「観光名所」には載っていないマニア向けの観光名所がいくつか紹介されていた。
翌日、依琴は美濃に「隠れた観光名所」のパンフレットを見せると「今日はこのパンフレットの場所をお願いします」と言うと美濃は「今日は海沿いの道をかっ飛ばしに行こうと思っていたんだけど・・もしかして麻薙さんって歴史マニア?」そう突っ込まれた依琴は眼鏡を押し細い目で美濃を見ると「違います、捜査です」とけん制した。
「隠れた観光地」に書かれている場所は過去のほどほど有名な人物の生まれた家の跡地やほどほど有名な名将が戦前に寄った寺など現在は別の建物が建てられ「跡地です」と書かれた立て札だけがちょこんと立てられていた。
「麻薙さん、時間も遅いしそろそろ戻らないと」
「分かりました・・次で最後にします」
立ち寄ったいずれにも妖探波の反応も無く依琴は諦めていた。
夕日が海に沈みかけその日最後に寄った「ここは貯水池ですか?」と言う小さな池には立て札すらない水の色が赤く見える名前だけが立派な「地獄池」だった。
地獄池に着いた依琴は美濃を車に残し他の場所と同じく妖探波を使い周辺から池に向かい順番に妖の痕跡が無いか調べ始めると池の縁から池に向かって使った術に反応があり依琴は車に戻ると窓を開け美濃が顔を覗かせた。
「美濃さん池の中心辺りに何かがあります」
「何かがあるって・・本当に?地獄池だから妖がいたりして・・ハハハ」
「妖探波の反応が返って来ない場所があって・・定かではありませんが封印か何かで妖ではありませんが調査したいのですが・・」
「妖じゃないのか・・残念・・調査ねぇ~ボートか何かあればいいんだけど・・あったかな?」
依琴に言われた美濃は車を降りるとトランクのドアを開け使えそうな物を探し始めた。
「美濃さん車から離れて!」
依琴が空から飛来する何かに気が付き美濃を突き飛ばすと直径1mはあろう石が車のフロントを圧し潰し車の後部が跳ね上がると石の間から水蒸気を噴き上げた。
「な、何が起きたんだ・・あぁ・・お、俺の車が・・」
「美濃さんそこを動かないで下さい」
依琴は水蒸気を上げる車に近づこうとする美濃を制すると妖視で周囲を探り民家の屋根伝いに逃げ去る妖の背中を見つけ、「このままだと逃げられる」と「妖降術」を使おうとすると「ドルンドルン」とバイクの音が聞こえて来た。
「チッ・・やろう逃がすか・・」
「西宮さんどうしてここに?」
「暇だし2人を尾行していたら・・そんな事はいいから後ろに乗れ、追いかけるんだろう麻薙さん」
「はい、お願いします」
西宮が中型バイクにまたがり黒いヘルメットに黒い革ジャン姿で現れると依琴を乗せ妖が逃げた方向に走らせたが緊急車両では無いバイクでは到底追い付かず妖を見失うと依琴と西宮は池に戻り車を見ながら呆然とする美濃を慰めながら県警に報告を入れ署に戻った。
「報告を聞いたが・・それで妖がいたのは本当なのかね?」
「はい、人型の妖がいました・・種族は特定出来ていませんが・・」
「署長、マジだって俺も美濃も見たし屋根の上を跳ねて逃げたんですよ・・そんな事人間には真似できませんよ・・それに美濃の車を見たでしょ?」
「そうですよ・・僕の車に石が落ちて来て・・まだローンがあるんですよローンが・・」
「美濃の車両は見たが・・妖が石を投げたのを見たものは?・・まぁ普通の人間が出来る芸当では無いのは分かるが・・妖がやったと言う証拠がだな・・」
「鈴島署長、あの池には何かがあると思われます・・急ぎ池の調査許可をお願いします」
「許可は県に申請中だから許可を待ってからじゃないと手が出せん、こんな時間だから明日には・・」
「県の許可が必要って・・人間と違って妖は待ってはくれません・・迅速な対応をしないと何かあってからでは・・」
「麻薙さん、対妖捜査課ではそうかもしれないが・・我々県警では・・」
「・・分かりました池の件は許可を待ちますが・・妖が確認できたので私はこれより対妖法に元づき対妖捜査課の許可を取り独自の捜査に移りますのでご了承下さい・・決してI県警にご迷惑を掛けませんので・・それでは準備があるので一度ホテルに戻ります」
妖を見たと言う2人の部下に鈴島はまだ信じられんとばかりに言いながらも早々に池の調査の申請をするが被害がまだ美濃の車両1台と少ない事から今日の捜査を見送ろうとしていた。
長く続いたイライラとようやく見つけた妖の痕跡に依琴は細い目で鈴島を見ながら事の重要性を訴えたが埒が明かない状況に対妖法を持ち出すと失踪捜査本部を後にした。
日も落ち薄暗い空に1番星が見え始めた頃、依琴はホテルに戻りタブレットで「全ての術使用の許可」を取ると動きやすい格好にオレンジのカーディガンを腰に巻くと必要な物をバッグにしまいホテルを出ようとしていた。
「・・おう分かった美濃は高橋さんとそっちの件に回ってくれ・・こっちは・・麻薙さんが来たからまた後で連絡する・・・・麻薙さん自体が変わった・・I県内で失踪者が6人同時に保護された」
「失踪者が6人同時に・・何でこんな時に・・」
ホテルの入り口で西宮はバイクにまたがり美濃とやり取りをすると依琴を見つけ動き出した失踪事件の詳細を話すと依琴は「不謹慎」な言葉を吐いた。
「どうする麻薙さん?池に向かうなら俺が足になるが・・」
「池は後にします・・一番近い保護された場所まで・・お願いします」
依琴は西宮のバイクに乗ると目的地に向かった。
夕日が落ちるのを待っていた秦城は朝と変わらぬセクシーな姿のまま本堂から降りると本堂の脇に鮮やかに咲く紫の花を順番にキセルで突いていた。
「罪を償う為に来てくれたのに申し訳ない・・ここは戦場になりお前たちを守ってやれる自信が私には無い・・残った罪は元に戻り自分達で償ってくれ・・そして2度と私の前に現れない様に・・約束だいいね」
秦城は紫の花を全て摘むと本堂に戻り中で正座をしている6人の前にその花を置きキセルを胸の谷間に刺し1人また1人と正座をする人間の前で術を唱えると紫の花が霧になり正座をする人間に吸い込まれると花と同じように霧になり消えて行った。
「これでよし・・後は第2の封印をどうにか
人間を送り出した秦城は本堂の入り口の柱にもたれると胸の谷間に挟んだキセルを抜き種火を熾すとゆっくりと吸い込み薄暗い空に漂う煙を眺めた。
黒い革の応接セットが置かれ長椅子に背をもたれ足を組む杉原は煙草を銜え古い書物を見ていると天井のシャンデリアから声が聞こえて来た。
「杉原さん問題が起きました・・地獄池の見張りの鬼がI県警の術士に発見されました・・申し訳ありません・・」
「お前のミスでは無いから謝る必要はない・・それより餓鬼を使う術士の詳細は分かったか?」
「そちらも申し訳ありません・・ただその術士は寺に居た若い人間達を先ほど全て寺から出した様で・・私には何をしているかがいまいち分かりませんが・・」
「我々を脅威に感じ人間に被害が及ばない様にでもしたか?・・もしそれなら疫青鬼はそこに封印されている可能性が高くなってきたな・・それなら4か所の封印を破壊してみれば何かが掴めるかもしれないな・・全ての封印を破壊しろ」
「了解しました・・それとI県警の術士はいかがいたしますか?」
「あの妖降士の事か・・県内を飛ばしていた式神で確認をした」
「ようこうし・・ですか?初めて聞く名前の術士ですな」
「妖を使役してその力を使い我々と対抗出来る人間だ・・以前この地神を手に入れた時にも私の邪魔をした術士だ・・そうだな今回は邪魔出来ぬ様に集めた全ての餓鬼共をI県警周辺に放て」
「なるほど・・分かりました餓鬼の方も手配します・・では」
杉原は机に置かれた地神を入れた箱を見ながら以前あった事を思い出し苦虫を噛むと煙草の火を点けその味を消した。
依琴は保護された場所の周辺に「今にも消えそうな妖力」を見つけていた。
「保護されてからまだそれほど経っていないのに残留妖力が少なすぎる・・妖の仕業では無いのか?」
依琴が残っている残留陽気を調べていると
「麻薙さん、高橋さんからで・・今回保護された6人は記憶が無いのは同じで今までと違い『償いの時間は終わった』とか意味不明な事は言っていないらしい」
「鬼の遭遇後に失踪者の6人同時の保護・・人間を使い何かをしようとしていたのか?それとも事が済んだか・・」
依琴はタブレットを見ながら保護された6か所を見ながら事件の関係性を考えていると西宮の携帯が鳴り出した。
「はい西宮、はい・・署長そんな事を俺に行ったって・・分かりました・・聞いてみます・・麻薙さん、今度は県内にある千祭寺、塔覚寺、鏡林寺と言う3か所の寺が何者かに襲撃されたそうですが・・」
「3か所の寺が襲撃?・・西宮さん寺の位置は分かりますか?」
「場所?ちょっと待ってくれ」
依琴はタブレットの地図を差し出すと西宮は3か所に寺にマークを付け、依琴はその3か所を見ながら
「保護された3人は3か所に囲まれた中に・・?」
依琴は3か所のマークを線で繋げ出来上がった二等辺三角形を回していると残りの3人が三角形に入る場所があり丁度最初の二等辺三角形の底辺が重なり正方形が出来上がり最後の1点に「地獄池」があった。
「見て下さい西宮さん、これどう思います?」
「地獄池?偶然じゃないか?」
「何か地獄池に・・」
依琴が掴んだかもしれない情報に向かおうとした時に、また西宮の電話が鳴り出した。
「ちょっと待っていて下さい・・はい西宮です・・え?よく聞こえません・・署長どうしたんですか?・・え?高橋さんと美濃以外の署員が署内で暴動ですか?失踪事件対策本部で立て籠もっているから助けに来い?わ、分かりました、急いで戻ります・・麻薙さん署内で・・」
「急いで戻りましょう」
依琴は西宮の話を聞きながら「鬼の遭遇」「失踪者の保護」「寺の謎の襲撃」と立て続けに起きた事に「I県警の暴動にも何かが関わっている」と判断し「地獄池」を後回しにするとI県警に戻る事にした。
日も落ち暗くなったI県警の正門に戻った依琴と西宮は、署にある街灯に照らされ焦点が定まらずフラフラと歩きまわる警官と署に来ていただろう一般市民達にまるでゾンビ映画でも見ている感覚に陥った。
「西宮さん下がって下さい、餓鬼付きです・・しかも大量の餓鬼が・・」
「お、おう・・俺にも見えるのがいる・・」
「おーい西宮―ここだーここー」
依琴と西宮が声の方を見上げると失踪事件対策本部の窓から鈴島が手を振っていた。
「西宮さんは餓鬼憑きを敷地から出ない様にして下さい、私は中に入って署長達の救出に行きます・・麻薙流奥義 妖降術 来い!舞風、庵角、鎖納」
「ママ~お土産はお米で出来た飴と落雁って言うお菓子の
「依琴さん・・名産の棒茶と海水から作った塩をお願いします」
「つつげきでし(出撃です) ナー?鎖納、
「分かった・・これが終わったら手配する」
妖の3人は依琴の行先をネットで調べ各々が欲しい物をねだり依琴が了承すると長さの違った角が生え背中に黒い翼を広げ袖から鎖がジャラジャラ現れた、妖狩化が終わった依琴は署の表にいる餓鬼憑きを次々と倒し署の正面入り口に着くと中にいた餓鬼憑きが依琴を見るなり一斉に襲い掛かって来た。
「頼んだぞ鎖納!麻薙流 殺手術
「鎖納、ぎゃんぶるでし(頑張るです) ナー」
突き出した両手に袖から垂れる鎖が絡み付き鎖のボクサーグローブを作ると依琴は餓鬼憑きの攻撃をそれで受け人間の体を傷つけない様に餓鬼憑きを倒しながら署の正面を確保すると背後に餓鬼とは違う妖力を感じ振り向くとそこには膝上の白いバスローブを着て適当に結んだであろう硬結びの腰の紐に腕を組み胸元から零れそうなふくよかな胸を腕に乗せキセルで煙を楽しむ赤い色の妖力を見せた女性が立っていた。
「あら?強い妖力を感じたから寄ってみたけど・・妖?いや半妖なのか?」
「この餓鬼を放ったのは貴方ですか?もしそうなら」
「そうなら・・どうする?」
漂う煙をキセルの先で円を書きながら遊ぶ女が笑みを浮かべながら言うと依琴は事件の証拠は無かったが強力に発する赤い攻撃色の妖力と怪しい格好に事件に関わりがあると判断しタブレットを取り出し怪しい女に構えた。
「警視庁 刑事部 妖対策捜査 第2課 所属 陽光寺 麻薙依琴、対妖法に基づき妖使用による人間の誘拐及び公務執行妨害で逮捕する、あなた達には3つの権利と供述は法廷であなたに不利な証拠として用いられる事がある、ただし妖には場合と状況によっては適応しない」
「警視庁?妖対策捜査?・・それよりあなた何で知っているの?あれは誘拐じゃないわよ・・頼まれて罪を犯した人間を償払させていただけだし・・人間界では償払って犯罪になるのかな?それとこの野良餓鬼は私のではない・・私の餓鬼はちゃんと管理している」
「麻薙流 封印術
怪しい女の「餓鬼はちゃんと管理している」の言葉に確信を得た依琴は重心を前に掛け術を唱え怪しい女の手足に風輪を作り束縛すると怪しい女目掛け跳ね勢いのまま鎖の拳を繰り出した、怪しい女は風輪を付けた腕を何事もないかの様に動かすと目を細め依琴の正拳をキセルの先で受け止めた。
「ナッ!」
「証拠も無しに逮捕って人間の世界も豪い世の中になったのね」
この異常事態に依琴が一瞬体の動きを止めると怪しい女はキセルで拳を弾くと依琴の顔目掛け突いて来た、依琴はとっさに腕を交差させ受けるがそのままの体勢でアスファルトを滑りながら10mほど下がると、それを見た怪しい女はキセルで指揮し始めた。
「
宙に漂っていた煙が集まり円を作りそこから黒い塊が飛び出すと形を変え2mほどの人型の餓鬼が現れ咆哮を上げ依琴に向かって走り出した。
「麻薙流
依琴は妖力の差を詰めるべく術を使うと風が依琴の集まり風音が鳴り始め呼び出され向かって来る餓鬼の一撃に体をかわし避けるとバネを戻す様に体を戻し足で地面を蹴ると鎖の腕に風が集まり拳を突き上げ餓鬼の顎を捕らえ餓鬼を怪しい女の前まで吹き飛ばした。
「麻薙流 殺手術
着地した依琴はビリビリする腕を数度か振ると怪しい女に構え直した。
「半妖だとしても鑊身をここまで吹き飛ばすなんて・・あらまぁ・・餓鬼のくせに失神している」
怪しい女は目の前に倒れている餓鬼の前にしゃがむと嬉しそうに餓鬼の頭をキセルで突きだした。
「半妖では無い!わ、私は人間だ!」
依琴は眼鏡を押し細い目で何故か抗議してしまった。
「人間ならその妖力は何だ?どう見ても半妖にしか見えないが」
失神している餓鬼を煙に戻すと怪しい女は立ち上りキセルの先を突き種火を作るとゆっくり吸い依琴の方に煙を吐いた。
「私は妖降士、妖の力を借りる術士」
「ようこうし?ようこうし・・あぁ~まだそんな術士が人間界には存在したのか・・あ!火種が・・勿体ない勿体無い」
怪しい女はキセルを吹かしながら考えると何かを思い出しキセルを持った手で「なるほど」と手を叩きその勢いで種火が落ちてしまった。
「あなたは妖ですか、それとも人間の術士ですか?」
怪しい女の強さと拍子抜けした行動と先ほどまで赤かった攻撃色が今まで見た事も無い「黒色」を発していて依琴はどうするか躊躇っていた。
「私か?・・そうだな・・人間から見れば妖だと思う・・けどただの妖では無い・・詳しくは言えないが頼まれて罪を犯した人間を償払させに人間界に来ている」
「頼まれて?人間界に?どう言う事ですか?許可は取っているのですか?」
「許可?依頼人からいいよって言われているから許可は取ってあるのだろう?人間界の許可かどうかは知らないが・・」
「そんな事が・・」
「半妖人間ちょっと待て・・・・」
「半妖人間・・って私は人間の術士で麻薙 依琴と言う名前が・・」
「そうか麻薙依琴か・・私は秦城真弥だ・・チッ奴ら獄門寺の封印に気が付いたか・・半妖人間!急ぎの用が出来た話はここまでだ・・ついでにこいつらの妖力は貰って行くぞ・・」
秦城真弥と名乗った女はキセルで依琴を制すると独り言を始め依琴の話を聞いているのか分からないまま話を切るとキセルを振り術を唱え署にいた餓鬼付きを外に集めると纏めてキセルに吸い込み別の術を使うとその場から姿を消してしまった。
秦城真弥の気配が無くなり目の保養と同時に縮まった寿命の天国と地獄を味わった西宮と妖降術を使っても倒せなかった妖に悔しさが残る依琴は急いで署内に向かった。
「麻薙依琴です・・鈴島署長、高橋さん、美濃さん、助けに来ました」
「本当に麻薙さんですか?」
「美濃何をやっている邪魔だどけ!ドアを開けろ・・もういないな・・麻薙さん助けに来てくれ・・て!」
「あ、すいません・・妖が他にいたら困るので妖狩化の解除はしていません」
ドアが少し開くと鈴島が頭を出すと先ほどまでいた餓鬼憑きのいた通路を確認しホッとしながら依琴を見るなり後ろに下がってしまった。
「見慣れない物ですまない・・暴動と言うか変なのが・・」
「人間に付いていたのは餓鬼付きと言う妖です・・そして暴動を起こしたのは大量の餓鬼と思われますが・・こんなに大量の餓鬼が一斉に沸くなんて例がありません・・それと秦城真弥と名乗った妖の事も気になります・・鈴島さんここで何があったか詳しく聞かせて下さい」
鈴島の話では署内が数分の間停電になり明かりが戻ると3人以外の署員と部外者がゾンビの様になり3人を襲って来ると慌てた3人は何とか失踪事件対策本部に立て籠もったと言う事だった。
「もしかして・・私らは護符を持っていたから平気だったのか?」
高橋が舞風特性の護符キーホルダーを手にボソッと言うと鈴島と美濃はポケットからキーホルダーを出すと「ゴクリ」と唾を飲んだ。
完全に陽が落ち街灯の明かりも無い元獄門寺・・地獄池。
池の水は干上がり地面には建物の屋根の一部が露出していて、それを囲む様に赤く眼を光らせる人影があった。
「闇隠鬼これが封印なのか?埋もれているじゃないか」
そう言ったのは片腕の無い赤鬼の猛牙鬼
「これで間違いない・・猛牙鬼達は封印の破壊をしろ・・我はここ以外を確認してから最後の疫青鬼の封印破壊に向かう」
猫背の黒鬼はそう言うと暗闇の地面に沈み姿を消してしまった。
「
猛牙鬼は残った鬼達に指示をするとむき出した屋根を破壊し建物の中に侵入すると元獄門寺の破壊を始めた。
秦城真弥は元獄門寺の中で無残にも破壊された封印の札をキセルで遊ぶ事も無く眺めていた。
「これで第一の封印は解除されてしまった・・残りは2つ・・1つは
真弥は札を捨てると胸元からキセルを抜き火種を熾すと大きく吸い煙を吐きながら術を唱えた。
I県警に設置された失踪事件対策本部の看板にマジックで「兼 対妖対策本部」と書かれた部屋で会議が行われていた。
部屋には署長の鈴島、高橋、西宮、美濃、そして依琴の5人に加え鈴島に徴集されたI県警の暇な刑事達5名の10名が席に着いていた。
「それでは捜査配置を発表する。」
鈴島は席に座ったまま口頭で伝え失踪事件担当に高橋、美濃とI県警の暇な5名の合計7名、対妖捜査を依琴、西宮の2名に決まり両捜査の指示統括を鈴島が行う事になった。
決定後に依琴は危険なので1人で十分と訴えたが鈴島の「見てしまった事実」と、もしもの時の報告連絡役兼「依琴の足」という事で話は却下され会議はお開きとなり今日は帰宅を命じられた。
時刻も20時を過ぎ西宮のバイクで送られた依琴はホテルの部屋に戻るとシャワーを浴び着替えると濡れた髪を乾かしながらベッドに置いたスマホを足で器用に操作すると今日起きた事を整理しながら陽光寺に電話を入れた
「・・はい、こちら安全・安産祈願から各種お祓い、怪奇現象に至るまで承っている「陽光寺」貴方の担当の「
「依琴だけど、かーさん帰っている?」
「依琴さんか、ちょっと待って下さい・・
「どうした庵角?」
「えーと、最後まで・・ありがとうございます」
「何が?」
「い、いえ何でもないです」
電話口からいつもと違い嬉しそうな庵角の声にため息をつきながら待つと受話器を取る音と共に紅麗が電話に出た。
「報告は聞いた・・ちょー強い妖と戦ったって・・しかもI県警の前で・・そして逃げられたとか・・」
「かーさん・・嬉しそうに聞こえるのは私の勘違い?」
「いんや、それでどんな妖だったんだい?」
依琴は不愉快ながらも秦城真弥と名乗った妖について紅麗に説明をした。
「ん~餓鬼を操る術士ねぇ~見当も付かないな・・一応調べてみるけど・・それといない餓鬼の件はI県警の件を考えると誰かが支配している・・じゃないかな?根拠は無いけど・・
依琴が追い掛けた鬼は情報が少なすぎて論外・・鬼と言えば関係があるか分からないけど京都府警からの情報で妖を無差別で殺す鬼の集団がいるらしいんだけど数日前から何の動きもないらしい・・」
「鬼の集団?」
「今回の件と繋がっているかは不明だけど・・数日前からと言うのがどうも引っ掛かる・・タイミングが良すぎないか依琴?」
「分かった・・その情報は頭に入れておく・・」
「ところで依琴・・危ない橋は渡るなよ・・ちょー強い・・あ、依琴?ちょっと話を聞きなさいよ・・まったく最後まで話を聞かない娘だな・・」
途中で電話を切られた紅麗が乱暴に受話器を置くと受話器が跳ね床に当たる前に庵角が掴むと戻しながら嬉しそうに紅麗を見上げた。
「紅麗さんとそっくりじゃないですか依琴さんって・・特に短気なところとか」
「庵角・・この場で死ぬ覚悟は出来ているんだろうな?」
「あー丁度煮物の出来上がりを見ないと・・あー忙しい忙しい」
逃げる庵角を見逃し黒電話の横に置かれたコップに入った日本酒を一口飲むと紅麗は頭を掻きながら呟いた・・
「私に似ているのか依琴は?それとも私が依琴に・・どちらにしても・・やばいな・・」
電話を切った依琴は次の戦場に向かうと秦城真弥との戦闘を思い出しながら対策を考え皿の高層タワーを築いていた。
「考えて食べると・・お腹がいっぱいにならないな・・主食は飽きて来たから・・次はデザート・・」
依琴はところ狭しと並ぶ皿のタワーの上に箸を置くとデザートを取りに席を立ち他の客の目を気にする事も無くデザートの並ぶ棚に向かうと新しい皿を片手に持てるだけ持つと透明な「
そこにはブドウ、スイカ、柿、梨、桃、栗、無花果、ブルーベリーと鮮やかに並び「聖櫃」を飾っていた。
全種類を皿に乗せ何時もの澄ました無表情の最上級な笑顔でゆっくり席に付くと手を合わせた。
「いただきます・・」
「しかし、良く食べるな・・半妖人間」
依琴は聞こえない振りなのかスイカを手に取ると一口食べてから眼鏡を押すと
「いつからそこに?」
「そうだな・・私が皿のタワーで見えなくなったあたりから・・」
「食事の邪魔をしに・・まさか一緒に食事?・・それとも・・ここで先ほどの続きをしに?」
依琴がスイカを食べ終わり爪楊枝で桃を食べ始めると皿の高層タワーがモーゼの海割りの様にゆっくり割れ煙を楽しむ秦城真弥の顔が現れた・・しかもバスローブ姿のまま。
「ところで半妖人間・・本当に警察なのか?」
「麻薙依琴です・・はいこれ」
依琴は残った桃を口に入れると手を拭きポケットから可愛い手帳を取り出し開いた机に立てると今度はブドウの房を取り下から順番にずっしり重い実を食べ始め真弥は何故かある灰皿にキセルを置くと立てられた可愛い手帳を手に取ると中を見始めた。
「警視庁 刑事部 妖対策捜査 第2課 所属 陽光寺 麻薙依琴・・写真写りが悪いな半妖人間」
依琴は特に気にする事も無く無花果を割ると細い目を真弥に向け
「私は・・あ・さ・な・ぎ・い・こ・と・です・・それより秦城さん・・」
「どうした麻薙依琴?」
依琴は目を戻し無花果の半分を頬張ると
「何でその恰好なんですか?公然わいせつ罪の現行犯で捕まえますよ?人間なら刑法174条の適用で罰則は「6月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留です・・妖の場合は・・」
「シッ!・・・・安心しろ多分見えているのはお前だけだ」
「そう言う問題じゃないです!それより私に何か用ですか?」
真弥は指で鼻頭を押さえ周りを確認しながら言うと依琴は目を細め残った無花果を放ばると今度は梨をシャリシャリ食べ始めた。
「そうだ頼まれて欲しい事がある・・決して怪しい事では無いから安心しろ」
依琴は半目でズレた眼鏡越しに真弥を見ると眼鏡を取りレンズを袖で拭き眼鏡を掛け真弥の方を再度見ながら。
「十分怪しいです・・が・・話だけは聞きます」
「そうか頼まれて・・」
「まだ何も聞いていません」
「チッ・・冗談の通じない人間だな・・隣町で
「アンティークショップか駄菓子屋?それより何で私が行く前提なんですか?」
「行ってくれると私は信じている」
「その自信はどこから・・それよりこれは?」
真弥の差し出した手には住所が書かれた紙とリップクリームの様な円柱で透明な素材の中に妖力を発する青白の石が入り乗っていた。
「おしえない・・と言ったら殴られて断られそうだから・・」
「・・・・」
半目でジーっと見る依琴に真弥は種火を灰皿に落とすと真面目な顔で話し始めた。
「奴らは疫青鬼と言う封印された鬼を解き放とうとしている・・3つの封印の内1つはもうじき解かれ残り2つの封印も解かれれば大変な事になる・・そしてこれが封印の内の1つだ・・これだけは奴らの手に渡す訳にはいかない・・もし渡ってしまったら・・」
「どうなるのですか?」
「この辺り・・いや人間界に疫病が広がる」
「人間に危害が出ると言うなら事件として私が手伝うと言うのはどうですか?ご存じかどうか分かりませんが私個人が術を使い妖に関わる事は妖法上出来ませんが・・これを妖事件として扱うならば話は別ですが・・」
「麻薙依琴が手伝ってくれれば・・いや・・既にその時間は無い」
「・・話は分かりましたが・・まず私にその話を信じろと?・・と言うよりもどうして私なんですか?」
依琴が最後に残った栗の殻を割り始めると真弥が少しイライラな表情を見せた。
「封印が解かれ疫青鬼が現れれば嫌でも信じてもらわねばならないが・・それと麻薙依琴は人間を守る警察の妖降士なのであろう?」
「秦城さん・・事が終わったら今回の事件の内容を話して頂けますか?」
「・・わ、分かった・・事が終わったら話そう」
真弥が根負けしたかの様に言うと依琴は全ての栗の殻を取り終わり1粒口に入れると残りの皿を机の中央に差し出し真弥は小さな粒を取り口に放り込んだ。
「それでは最後にお聞きします・・秦城さんが言うその奴らとは誰ですか?」
「聞いて分かるのか?」
「秦城さんが味方なのか敵なのかどうかも分かりませんし、詳細とか分かればこちらで調べる事も出来ますし対応策も・・それに奴らがもし私の見方だった場合は断らなければならないので」
依琴は冷たくなったお茶を飲み始めると真弥がある人物の名前を出した。
「
「ゴッホゴホ・・じょっどまっでぐだざい・・」
依琴は以前取り逃がした術士と同じ苗字にお茶を喉に詰ませ咳き込み少しして落ち着くと細い目を真弥に向けた。
「杉原大眼って言うんですねその術士は・・」
「そうだが・・それがどうした?」
「ちょっと待ってください・・確認しますので・・」
真弥が目を丸くしていると依琴はポケットから呪符を出し器用に人型を作り机に置き通信の術を使うと机にスウッと立った。
「
「ナー聞こえる・・もうネグリジェ(寝るところ)です ナー」
「そうか済まない・・寝る前に聞きたい事がある・・」
依琴は真弥に杉原の詳細を話させると鎖納が少しして
「ナー杉原呼ぶナー大眼し―ないナー・・おばさんナー似ているナー・・合ったナー炎灯聞くナー分かるナー依琴ナー問題無い?ナー?」
「ありがとう鎖納・・もう寝ていいよ、おやすみ」
「あい、依琴~鎖納ネグリジェ~(寝ます)バイバイ ナー」
「何気におばさんとかネグリジェとか聞こえたが・・私の事を言っているのか?」
依琴は鎖納が言葉を覚え始めた妖と言う事を話すと先ほどの鎖納の話を翻訳し始めた。
「えーと・・皆が杉原さんって呼んでいたけど名前が大眼かは分からない・・でも杉原の特徴は合っていて面識のある炎灯に聞けば多分分かると思うと鎖納は言っていました・・炎灯は以前の事件で杉原と言う術士に従っていた黒鬼で今は収監されています」
「なるほど・・それより依琴はナーばかりの今の会話だけで理解出来るのか?」
「言葉を教えているのは私ですから当然です・・」
真弥は「へぇー凄いじゃないか」と褒めると依琴は視線を横に流すと頬を赤くした。
「ところでどうする?黒鬼に確認している時間はないぞ」
「・・分かりました・・この杉原大眼が以前逃がした術士の杉原なら・・捕まえるチャンスですから」
依琴は皿に残った栗を全てたいらげお茶で流し込み真弥の手から青白の石が入った物を受取ると真弥はキセルを胸の谷間に刺し笑顔で
「もうこんな時間・・私は急ぐから頼んだよ・・麻薙依琴」
「あ、は・・」
「お、お客様、そろそろお時間が終了いたしますので」
「あ、はい、すみません・・」
依琴が真弥に返事を返そうとすると不意に肩を叩かれ振り向くとレストランの支配人が声を掛けて来て支配人に返事をしてから前を向くとそこに秦城真弥の姿は無かった。
妖降伝(youkouden) 肉まん大王(nikuman-daiou) @tkibook2
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。妖降伝(youkouden)の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます