「第二章 魔の山に吹く風」あらすじ

   

(「第十八話 リッサの新生活・前編」)


 村へ戻った四人は、まず冒険者組合へ。リッサの登録手続き、女子寮への入寮手続きに加えて、女子寮暮らしのマールとパラも「冒険旅行から戻りました」と報告義務があるのだ。

 治療院に下宿しているラビエスには、そのような手続きはないのだが……。女たち三人が書類を記入している間に、窓口の受付嬢に呼ばれて、リッサの件について釘を刺される。リッサの正体は秘密だが冒険者組合だけは把握しており、同じく秘密を共有するラビエスたち三人に「なるべく姫様の要望には従うように」と言い含めたかったらしい。

 その際、二人がコソコソと内緒話をしているようにも見えたらしく、マールは幼馴染として、ささやかな嫉妬のような態度を示すのだった。


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(「第十九話 リッサの新生活・中編」から「第二十話 リッサの新生活・後編」まで)


 新たに四人パーティーとして活動し始めたラビエスたち。まずは村の初心者向けダンジョンにリッサを連れて行くが、宝箱は空っぽで、モンスターも手応えがないレベルだった。

 それでも「正式な冒険者となって初めての冒険」ということで、それなりに満足するリッサ。冒険者組合にて、窓口でラビエスがダンジョン探索の報告をする間、女たち三人は適当に掲示を見ながら時間をつぶす。

 窓口でラビエスは、ついでのように「伯爵様から頂いた馬車」の話を聞かされる。ラビエスたちが村まで乗ってきた馬車は、城へ戻ったのではなく、冒険者組合で管理されているのだという。ただし御者は帰ってしまったので、そちらは自分で用意して欲しい、とのこと。

 はたして馬車は『呪い』事件解決の褒美なのか、あるいは、冒険の旅に出たいリッサのための親心なのか。伯爵の意図を思案しながらラビエスが女たちのところに戻ると、リッサが興奮した様子を見せていた。

 リッサは、掲示板にあった形式的な依頼書を見て、すっかり本気になっていたのだ。その依頼内容は、教会という大組織からの「四大魔王を討伐してもらいたい」というものだった。


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(「第二十一話 魔王討伐の依頼」から「第二十三話 怪しい旅人・後編」まで)


 そもそも、この世界では『魔王』なんて伝説上の存在だと思われている。それでも神を信奉する教会組織としては、対極的な概念である『魔王』に対して、形だけの討伐令を発布しているのだった。

 だがラビエスたち四人は『魔王軍の幹部』と戦ったことで、魔王は実在すると知らされていた。魔王討伐に乗り気のリッサに対して、マールとパラも賛成の意を示したことで、ラビエスも渋々承知する。

 ただし、どこに魔王がいるのかわからないから、当分は動けない。そう考えたラビエスに、窓口の受付嬢が「魔王軍の幹部と戦ったのでしょう? 何か情報が得られたのでは?」とヒントを出す。

 ラビエスたち四人で話し合って「風の魔王がいるのは、『魔』の気配が濃い山だろう」となったところで、旅人モックが「ちょうど一つ心当たりがある」と話に加わってきた。

 モックは隣村での事件の噂を聞いて、ラビエスたちを高く評価。仕事を頼みたいのだという。

 だが彼の言動は女たち――特にマールとリッサ――から嫌悪され、依頼内容を語る前から拒絶されてしまう。それでもラビエスの取りなしで「話だけは聞く」という形に。

 記憶喪失で気づいたら乗合馬車の中だったとか、行く先々で人々から嫌われるとか……。彼の話を聞いたラビエスたちは「やはり断る」という結論に至ったが、それでも「『魔』の気配が濃い山」の情報を得ることが出来た。

 早速冒険旅行に出かけようと言い出すリッサを、マールが「色々と準備が必要」と冷静に止める。旅に出るまで、まだしばらくの間は、いつもの日々が続くのだ。


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(「第二十四話 治療院の一日 ――リッサの場合――・前編」から「第二十五話 治療院の一日 ――リッサの場合――・後編」まで)


 ラビエスが治療院で働く日に、一回リッサも手伝うことになった。彼女には、リッサにしか使えない白魔法があるからだ。その魔法は、治療院でも有効活用される。

 夕方、フィロ先生の前で、次の冒険旅行の話題になった。その中でラビエスは「すぐには出発できない」と示す意味で「馬車はあるけれど御者はいないから」と口を滑らす。実は今まで、リッサには、馬車の存在も告げていなかったのだが……。

 話を聞いて、リッサは大喜び。「御者ならいるではないか!」「どこに?」訝しむラビエスに対して、リッサは「私だ! 乗馬は貴婦人レディ心得たしなみだから、馬の扱いには自信がある」と宣言するのだった。


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(「第二十六話 冒険者の日常 ――パラとマールの場合――・前編」から「第二十七話 冒険者の日常 ――パラとマールの場合――・後編」まで)


 同日、パラとマールは、二人でダンジョンへ。ラビエスとマールが「第一話 冒険者の日常」で探索したのと同じ場所だ。

 そこでマールは、魔王討伐の冒険に備えて、炎魔剣フレイム・デモン・ソードの試し斬りも行う。最初は『炎の精霊』ほど使いこなせなかったが、魔法士であるパラの助言もあって、剣先から炎と斬撃を飛ばせるようになる。魔法の使えぬ戦士マールにとって、遠距離攻撃の手段を得たことは、大きな意味があった。

 また、ダンジョンの雑魚モンスターが逃走というアクションを示したことで、マールたちは、いつのまにか自分たちが大きくレベルアップしていたことを実感する。


 ダンジョンからの帰り、広場を通りかかった二人は、露店で買い物をするリッサに出くわす。リッサは、彼女自身が治療した縁で知り合った露天商から、髪飾りを買っていたのだ。

 それまで使っていた左右二つのヘアピン――高価そうなアクセサリー――のうち一つは不要になってしまったが、パラが「片側に二つ、まとめて使えば」と言い出す前に、マールが「仲良しのパラにあげたら?」と提案。友情の証として、ひと組の二本のヘアピンを、リッサとパラの二人で一本ずつ使うことになった。


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(「第二十八話 旅立ちの準備・前編」から「第二十九話 旅立ちの準備・後編」まで)


 翌日、冒険者組合へ行き、預かってもらっている馬車を確認する四人。ラビエスたち三人は知らないことを、リッサだけは知っていたからだ。

 案の定、馬車の収納スペースには、この世界のキャンプ道具が一通り揃っていた。テントや寝袋に加えて、簡単な調理器具や食器、簡易トイレの組み立て式キットまで。

 さらに窓口の受付嬢に頼んで、冒険者組合が所有する地図を見せてもらう。目的地の正確な場所を知るために。

 マールの「あと足りないのは食料品のような消耗品だけかしら」という言葉の通り、ほぼ準備は整った。最終確認として、ラビエスは「たとえ魔王が山にいなくても、とりあえず山頂を確認したら村に戻る」「今回の冒険旅行は、あくまでも魔王の居場所を確かめるだけ」「まだ俺たちのレベルでは魔王と戦うのは無理だから、顔だけ見たら戦わずに逃走」と釘を刺す。「魔王の居場所さえ確認できたら、あとは地道にレベル上げをして、強くなってから挑もうじゃないか」という提案だ。

 魔王討伐に乗り気なリッサは不満のようだが、マールとパラはラビエスに賛成。「それならば」と、リッサも皆に従うことを明言するのだった。


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(「第三十話 新たなる旅立ち・前編」から「第三十四話 魔剣の能力と爆炎の威力・後編」まで)


 広場に停車した豪華な馬車は目立つため、人々が集まってくる。武闘家センのような冒険者や治療院で関わった村人たちなど、知り合いに見送られて、ラビエスたち四人は冒険旅行に出発した。

 片道約十日の長丁場。牽引する馬の特殊性のため、馬車に乗っている間はモンスターには襲われない。だがラビエスたちは、毎日一回、わざと馬車から離れて戦闘をこなす。野外のフィールドに出現する雑魚モンスターの中には、村のダンジョンでは出会わないようなレベルの敵も含まれていた。


 マールは、パラの前でしか使っていなかった炎魔剣フレイム・デモン・ソードを、ラビエスとリッサにも披露。ラビエスの探究心により、炎魔剣フレイム・デモン・ソードは「誰が魔力を込めるか」次第で威力が変わることも判明する。

 旅に出て八日目、草原地帯から岩場地帯に突入したところで、今度はパラの『爆炎』のテストが行われる。転生前に合唱を趣味としていたパラは、副次詠唱を『歌』にすることで自身の気分を向上させて、さらに爆炎の威力を高めることに成功。しかし攻撃範囲も広くなり過ぎた結果、かなり遠距離からでないと味方をも巻き込むような魔法と化してしまう。

 フィールド上の雑魚モンスターならば話は別だが、それほど離れたところからボス級のモンスターと戦うことはありえないだろう。これでは魔王との戦いでは使えない、とラビエスたちは落胆する。


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(「第三十五話 山麓の村にて」から「第三十八話 おみやげ」まで)


 目的地ガイキン山の麓にある村に到着したラビエスたち。村人の話では、山には『大黒魔竜』と呼ばれるドラゴンが住み着いているのだという。

 はたして、そのドラゴンが風の魔王なのか、あるいは、風の魔王とは別件なのか。大黒魔竜を退治する――あるいは追い払う――という依頼を受けて、ラビエスたちが山に登ったところ……。

 大黒魔竜の正体は、かつてリッサがペットとして飼っていたドラゴン――名前はモコラ――だった!

 ラビエスたちはリッサと知り合った頃、そのペットの話も聞かされていたが(「第十四話 コウモリ城の呪い・前編」)、すっかり成長したモコラは、リッサの話とは全く違って見えた。それでもリッサとモコラの、種族を超えた友情は健在だった。

 モコラを連れて村に戻ったラビエスたち。驚愕する村人たちの前でリッサが「モコラの竜鱗を一枚引き抜く」というパフォーマンスを見せたり、モコラの言葉を通訳したりして、問題解決を強調。モコラが遠くへ飛び去った後、ラビエスたちは村人たちから手厚くもてなしを受ける。

 風の魔王はいなかったが、当初の予定通り、自分たちの村へと戻るラビエスたち。往復三週間の旅から帰ると、村には不穏な気配が漂っており、村の東にある山脈一帯を覆うようにして、不気味な黒い雲が浮かんでいた。


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(「第三十九話 氷の壁を越えて・前編」から「第四十話 氷の壁を越えて・後編」まで)


 ラビエスたちを出迎えた、冒険者組合のいつもの受付嬢。彼女が事情を説明する。

 不穏な気配や暗雲の発生は、一週間くらい前。ちょうど旅人モックが――誰も護衛の依頼を引き受けてくれないので――単独で、東の山脈に向かった時期からだという。

 冒険者組合が調査のために冒険者を送り込んだところ、山道の途中に、行く手を阻む『氷の壁』が設置されていた。誰も破壊できない障壁だったが「かつて西の大森林を焼き払ったパラの爆炎ならば通じるのでは?」ということで、ラビエスたちの帰りを待っていたらしい。

 ラビエスたちは依頼を引き受けて、翌日、東の山脈へと向かう。かつて感じたことがないような、村人たちからの『期待のまなざし』を背に受けて。

 問題の『氷の壁』は、パラの爆炎でも『穴があく』というレベルの、強固な障壁だった。それでも通行可能になり、ラビエスたちは先へ進む。

 東の山脈の中でも「かつて神が降臨した」という伝説の残るウイデム山。その山頂でラビエスたちは、旅人モックと再会する。

 以前とは態度の違うモックが「余は、思い出したのだ」と言い出したので「記憶を取り戻したのか? モック、お前は、いったい何だったんだ?」と尋ねるラビエス。それに対して、モックは答える。

「余は、魔王だった。この大陸を支配する、風の魔王だったのだ」


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(「第四十一話 魔の山に吹く風・前編」から「第四十二話 魔の山に吹く風・中編」まで)


 旅人モックは人々から嫌われていたが、ラビエスやパラのような転生者からは、それほどでもなかった。人々が信心深く、強く『魔』を――神とは対極的な存在を――嫌う世界なだけに、ラビエスはモックの正体に納得する。

 モックは人間観察のために、あえて自分の魔王としての意識を消して、旅をしていたのだという。この山頂で記憶が蘇るような仕掛けも用意した上で。

 さらに色々と語る魔王モック。彼の話を聞くうちに、転生者であるラビエスとパラの二人は、ここまでの冒険で得てきた情報と足し合わせて「この世界で人々が神だと思って信仰してきた対象は、本当は魔王だった。自分たちは神ではなく、魔王の力を借りて魔法を放っていた」と気づく。

 またラビエスは、現在の魔王モックが語る「四大魔王の人間関係」と、かつての旅人モックが語った「旅の中で出会った、水の女神のような優しい女性」の話から「風の魔王だけではなく、水の魔王までもがヒトの姿でこの大陸を闊歩している!」と推察する。

 そしてパラは「『神の正体は魔王』なんてことを知ったら、この世界の人間は戦えないだろう。だから正体を知った上で魔王討伐が出来るのは転生者のみ。つまり転生者は、魔王に対する刺客として、真の神によって、この世界に送り込まれたのではないか。魔王は四人で魔法は六系統だから、六神のうち二神は、本当に神様のはず!」と考えて……。『私やラビエスさんのような転生者にとっては、魔王討伐こそが使命なのです! 転生してきた意味なのです!』という結論に至った。


 一方、魔王の方でも、ラビエスとパラが転生者であることを見抜いていた。そんな魔王に対して、ラビエスは敵対の意を示すが……。風の魔王は、配下の幹部『炎の精霊』がラビエスたちに倒されたこと、及び、その事件の中で『呪いのもと』――風の魔王の自信作――をラビエスが解呪したことから、ラビエスを高く評価。「ラビエス。余の部下になれ」と誘う。

「さあ! 幹部の証となる風魔剣ウインデモン・ソードを、受け取るがよい!」

 そう言われたラビエスは「研究者時代の自分ならば、この誘いに乗っただろう」と思いながらも「今の俺は研究者ではなく冒険者だ」と、改めて決意。風魔剣ウインデモン・ソードを貰うだけ貰って「冒険者は、魔王の部下になったりはしない!」と宣言するのだった。


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(「第四十三話 魔の山に吹く風・後編」から「第四十四話 そして風は風に還る」まで)


 ラビエスの宣言により、最終決戦が始まった。

 風魔剣ウインデモン・ソードの二刀流で戦う風の魔王には、マールもリッサも迂闊に近づけない。ラビエスやパラが魔法を連打しても、ダメージを与えられない。

 相手は風の魔王であり、風系統の魔法の源。だから二人とも、風系統の魔法は使えなかった。つまりラビエスは、いつも以上に役立たず。

 パラの爆炎魔法ならば通じる可能性もあるが、一度使用すれば魔力が尽きて、パラは行動不能となってしまう。しかも、現在の戦闘距離では、最大火力の歌唱バージョンの方は使えない。

 どう戦うべきか思案に暮れるラビエスたち。風の魔王からの攻撃で傷つく中、リッサが叫ぶ。

「ならば! 私の切り札を見せてやる!」

 魔王クラスの敵とも渡り合うために、リッサが考えていた手段。彼女はモコラの竜鱗を手に念じることで、転移魔法を応用して、戦いの場にモコラを召喚したのだった。


 転移魔法が召喚魔法として使えることは、ラビエスもマールも知らなかった。パラはリッサから話を聞いていたが、当時の話では、リッサには無理な芸当のはずだった。それが今回、モコラの竜鱗のおかげで可能となっていた。

「モコラ、あとは頼んだぞ……」

 魔力を使い果たして、意識を失うリッサ。彼女の頭上でモコラが無数の炎球を吐き出し、それが魔王に炸裂する。

 一つ一つがパラの最大の爆炎に匹敵し、同時に、近くにいるラビエスたちには被害が及ばないという、威力の凝縮された攻撃だった。

 一仕事終えたモコラが去っていき、やがて、爆発による煙も晴れる。再び姿を現した魔王は、大きくダメージを受けていた。

 魔王の攻撃力も、攻撃されたラビエスたちが「さっきより威力も弱まってる」と実感できるくらいだった。

 今が攻撃のチャンスと考えたマールが、炎魔剣フレイム・デモン・ソードに魔力をチャージしてもらおうと、パラに声をかけた時。ラビエスが閃めく。魔力そのものではなく、魔法の方が良い、と。

「パラ! 魔法剣だ! マールの炎魔剣フレイム・デモン・ソードに、魔法をかけろ!」


 転生前のゲームで見たような概念も、転生者同士ならば通じる。パラの渾身の爆炎魔法により、炎魔剣フレイム・デモン・ソードの刀身は、巨大な火柱と化した。

 ずっしりとした重さをマールが感じるほどに、濃厚な魔力が込められた炎魔剣フレイム・デモン・ソード。魔力を使い果たして倒れたパラの傍らで、マールが魔王に斬りかかる。

 斬撃が魔王にヒットした瞬間、込められていた魔力が解放されて、大爆発が巻き起こる。爆風で吹き飛ばされたマールをラビエスが受け止めた時には、衝撃でマールも意識を失っていた。


 再び爆煙に包まれた山頂。一人残されたラビエスの視線の先、晴れた煙の中から出てきたのは、酷い状態になった魔王の姿だった。

「風の魔王! ボロボロのお前を、俺が介錯してやる!」

 ラビエスは、意識のないマールの指をそっと緩めて、炎魔剣フレイム・デモン・ソードを手に取る。

 やはり魔法剣を試みるが、得意とは言えない火系統の威力を少しでも高めるために、パラの副次詠唱を参考にする。ただし「おお魔王よ、炎の魔王よ」と祈りの相手を『魔王』にアレンジし、四大魔王の関係も加味して「なんじの嫌う風の魔王をこの世界から消してしまえ」と頼み込む形で。

 パラほどではないが、それでも普通に詠唱する以上の『炎』の剣が完成する。パラの魔法を真似して、また、今まで見てきたマールの剣術を真似して……。

 ラビエスの斬撃が風の魔王に炸裂し、再び爆発が起こった。やはり爆風で吹き飛ばされるラビエスだが、もう彼を受け止める者はいない。地面に叩きつけられて、そして、魔力も尽きかけて、意識を失う寸前。ラビエスが見たものは……。

 晴れゆく爆煙の中から、またもや姿を表す風の魔王。ただし、その姿は、土塊つちくれか何かのようにポロポロと崩れていく。

「もはや余は、力を失った。これでは、この世界に影響を及ぼすことは出来ぬ。この世界に顕現することも出来ぬ。あとは、魔の世界へ帰るのみ……。そこで大人しく、お前たちと神と、他の魔王たちとの諍いを見届けるとしよう」

 そう言い残しながら魔王が消えるのを見届けて、ラビエスも意識を失った。


 ラビエスが目覚めた時、まだパラとリッサは眠った状態だった。マールは意識を取り戻しており「山道から雑魚モンスターが上がってくる可能性に備えて、一晩中、一人で見張りをしていた」と言う。

 マールはラビエスに、足を伸ばした姿勢で座るように要求して「見張りの交代、お願い。じゃあ、おやすみ」と、ラビエスの膝枕で仮眠をとる。

 入れ替わるように、目を覚ますパラ。パラと二人きりになったことで身構えるラビエスだが、今のパラは、出会った当初の彼女とは違う。身近でラビエスを見てきたことで「たとえ相手が転生者であっても『私も転生者』と直接的に告げるべきではない。互いに察するだけで十分」という考えに変わっていた。

 はっきり転生者だと認めることはなく、それでいて、転生者同士でないと出来ない話題。パラは、以前に誤魔化された質問を持ち出す。

「ラビエスさん。ウイルスって何ですか?」

 ここでラビエスは「パラは本当にウイルスと細菌の区別がついていない」ということ、つまり素直に説明を欲していることに気づき……。彼が即席のウイルス学講座を始めた場面で、物語は幕を閉じる。



 前作URL https://kakuyomu.jp/works/1177354054889084138

   

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