「冒険者って何ですか?」――元ウイルス研究者の異世界冒険記――

烏川 ハル

これまでのあらすじ(前作未読の方々のために・その1)

「第一章 コウモリ城の呪い」あらすじ

   

(「第一話 冒険者の日常」から「第四話 私の新生活!」まで)


 渡米してウイルスの研究をしていた男は、ハイキング中に崖から落ちて意識を失い、次に気づいた時には異世界の人間に転生していた。『ラビエス』という冒険者の体に、魂が憑依していたのだ。

 こうして彼は、四大大陸の一つである東の大陸で――剣と魔法のファンタジー世界で――冒険者として生きることになった。『ラビエス』の幼馴染であるマールを相棒として。「中身が変わった」とは知られないよう、彼女には転生の件を隠しながら。

 ラビエスとマールは、冒険者といっても、村内のダンジョンでモンスターを狩って回るだけ。だから冒険者としてはパッとしないラビエスだったが、副業の治療師としては、それなりに評価されていた。特に魂が別人になってからは――現在のラビエスになってからは――、ウイルス研究の知識・経験を活かして、村人から「腕のいい若先生」とまで呼ばれるレベルになっていた。


 そんな時、村に新たな転生者がやってきた。高校時代は地味で人見知り、でも大学入学を機に自分を変えたい。そう思っていたら入学早々、転生してしまい――異世界の少女『パラ』の体に魂が憑依してしまい――、大学デビューが異世界デビューになってしまった女子大生だ。

 元々の『パラ』が十二病――『中二病』に相当する単語だが中学校がない世界のため十二歳児の言動に基づいて『十二病』と呼ばれる――と認識されていたため、彼女もそうした振る舞いを余儀なくされて少し困りはしたものの、無事に魔法学院を卒業。ラビエスたちの村で、現在のパラは、いよいよ冒険者としての生活を始めるつもりだったのだが……。

 彼女が村で最初に会話をした人物は、ちょうどラビエスに治療されたばかりの露天商だった。その露天商から『腕のいい若先生』の話を聞いたパラは「彼は転生者なのではないか?」と疑う。

 そこで、表向きは「こちらに腕のいい白魔法士がいると聞いてスカウトに参りました!」という理由で、実際には「転生者同士で仲良くなって語り合いたい」という魂胆で、彼女は、ラビエスが働く治療院に乗り込んだ!


――――――――――――


(「第五話 転生者同士の邂逅」から「第六話 日曜の礼拝」まで)


 転生とは無関係な人物――治療院のオーナーであるフィロ先生――も同席していたため、パラは、自分が転生者であることを直接的に明かしはしなかった。だが露骨にほのめかしてきたため、すっかりラビエスはパラを警戒してしまう。転生の件をマールに知られては困るラビエスにとって、パラは絶対に遠ざけておきたい人物となったのだ。

 ところが翌日の日曜日。パラの女子寮の部屋が、マールの隣であることが判明。その縁で、せっかくの休日を三人で行動することになってしまう。

 そして昼食の場において「あくまでも今日だけ」と思うラビエスが、グイグイ酒を飲んでいるうちに、マールが「パラが冒険に慣れるくらいまでは一緒にダンジョン探索に行きましょう」という話を決めてしまった。


――――――――――――


(「第七話 西の大森林・前編」から「第九話 事件の後始末」まで)


 翌日、三人が向かったのは『西の大森林』と呼ばれる初心者向けダンジョンだった。

 互いに使える魔法の確認をしたり、ヒト型モンスターに対するパラのためらいを見たりする中で、ラビエスは「治療師の活動だけではなく冒険者の生活の中でも、転生前の経験が活かされている」と改めて思い知る。

 一方パラは、マールから「十二病っぽいのに、呪文詠唱の前に副次詠唱は加えないの?」という疑問を投げかけられた。元の世界の中二病を思い出し、それっぽい独自の詠唱文を、本詠唱の前に付加したところ……。

 元々の『パラ』由来の十二病の魂に火がついたのか、得意の火炎魔法が『爆炎』というレベルにまでパワーアップ。魔法の炎は、モンスターを消滅させるだけでは飽き足らず、大森林にまで燃え広がった!


 武闘家センなど、他の冒険者たちの協力も得て、火事は「森の一部が消失、ただし人的被害はゼロ」という程度で収まった。

 それでも、冒険者組合では叱責されるラビエスたち。「今後はパラさんから目を離さないように! 三人パーティーとしてプロフィールに記載しておきますから!」とも言われ、パラが正式に仲間ということになってしまう。

 名前は知らないが顔は見たことある女性冒険者から「手頃なダンジョンだったのに、ごっそり削られちゃった」と嫌味を言われたように、女子寮暮らしのマールは、さぞや肩身の狭い思いをするに違いない……。そう心配したラビエスは、ちょうどフィロ先生から聞いた噂話「隣村で新しい病気が流行している」を思い出し、冒険旅行を提案する。ほとぼりが冷めるまで村を離れて、隣村で調査などして過ごそうという計画だ。

 その際、すっかりパラのことを忘れていたラビエスだが「パラも連れて三人で、って話ね?」とマールに言われてしまい……。

 こうして、三人で旅に出ることになった。


――――――――――――


(「第十話 旅立ち」から「第十三話 呪いのウイルス」まで)


 農作物を運ぶ馬車に同乗させてもらい、隣村に到着したラビエスたち三人。

 噂とは異なり、謎の病気で苦しんでいるのは一人だけだった。しかも、それは病気ではなく呪いだという。体が透明になって動けなくなる、という呪いだ。

 宿屋で突然パラが泣き出すというハプニングを経て、一泊した翌朝。三人は、同じく『呪い』に関心を持って村に来ていた冒険者、リッサと知り合う。

 リッサも白魔法には自信があったのだが、前日に彼女が治療を試みても『呪い』には歯が立たなかった。そんなリッサに案内されて、ラビエスたちは病人の家へ。そこでラビエスは、持参してきた検査器具や転生前の知識などを駆使して『呪い』の部分的な解除に成功する。

 完全な治療ではないが、それでもリッサは、ラビエスを見直した。そして「この『呪い』が蔓延しているのは、村ではなく城だ。自分は問題解決の糸口を探して、城から来た者だ」と告げる。

 こうしてラビエスたちは、今度はラゴスバット城――この地域を治める伯爵の居城――へと向かうことになった。


――――――――――――


(「第十四話 コウモリ城の呪い・前編」から「第十五話 コウモリ城の呪い・中編」まで)


 途中で「実は、自分はラゴスバット伯爵家の一人娘だ」と正体を明かすリッサ。それでもラビエスたちは、彼女を『姫様』ではなく『冒険者』として扱うことを約束し、リッサは居心地の良さを感じる。

 城に着いたラビエスたちは、まず城の賢者を治療。部分的に解呪された賢者から、近隣の洞窟に住む精霊こそが元凶であることを聞き出す。

 問題の洞窟へと向かうラビエスたち。そこで待ち構えていた『炎の精霊』は、自らを風の魔王軍の幹部だと言い出した。さらに、人間たちの魔法の分類を再編しろ、と要求する。「攻撃魔法であるはずの系統の魔法が、黒魔法ではなく白魔法として扱われている」、この点がの魔王軍の幹部としては気に入らないらしい。

 理解できないラビエスたち。そもそも、伝統的な魔法の分類を変更する権限など、彼らにあるわけがない。その意味で「出来ない」と返答したのだが、モンスターである『炎の精霊』は「そうする意思がない」というニュアンスの「出来ない」に受け取ってしまう。

 そして、戦闘状態に突入する。


――――――――――――


(「第十六話 コウモリ城の呪い・後編」から「第十七話 ウイルスって何ですか?」まで)


 初めて戦うレベルの強敵『魔王軍の幹部』を相手に、苦戦する四人。それでもラゴスバット家の秘伝の魔法が使えるリッサや、反則レベルの『爆炎』が放てるパラがいたおかげで、なんとかラビエスたちは『炎の精霊』に勝利することが出来た。

 不可解な言葉も多い『炎の精霊』だったが、その武器だった炎魔剣フレイム・デモン・ソードもドサクサ紛れに入手して、四人は城へと凱旋する。

 この時点で、魔力を使い果たしていたパラとリッサは意識がなく、城で治療に尽力したラビエスも、魔力消費が著しくて疲労困憊。彼らは、ゆっくりと休養をとる。

 パラとリッサは深く親交を結び、また「私自身が褒美!」という理屈で、リッサが正式に冒険者となってラビエスたちのパーティーに加入することも決まる。

 なお、ラビエスは「噂の『隣村の奇病』と今回の事件とでは時系列が合わない! これは別の事件だった!」と今頃になって気づいたが、そっと自分の胸にしまっておくことに決めるのだった。

 新しい生活に胸躍らせるリッサを含めて、四人は、伯爵家の用意した馬車で村へと戻る。いざ村が見えてきたところで気が緩んだラビエスは、今回の事件を振り返る中で『ウイルス』という言葉を――この世界には存在しない単語を――口に出してしまう。

 これぞ転生者の証ということで、パラが笑顔で――ただし『笑顔』の意味はラビエスの想定とは異なっていたが――「ウイルスって何ですか?」と質問する場面で、第一章は幕を閉じる。



 前作URL https://kakuyomu.jp/works/1177354054889084138

   

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