第5話 香昏歯(かぐれは)姉妹強襲

林間学校二日目の朝、人口ジャングルといえど相当な暑苦しさで朝起きると汗だくになってしまったのもあり、三人で人工泉に浸かってからそのずぶ濡れのままでジャングルに食料調達のため向かった。

それにしても一つ昨日から気になっていることがある、一応この人工ジャングルには十数もの別の組が居るはずなのに、誰一人として私たちの組以外の生徒を見ていない。それに昨日は随分長い間歩いていた。このジャングルは草木が生い茂っていて歩こうものなら必ず音が鳴る、草に体が当たる音だ。それすら聞こえなかった、この人工ジャングルはどれだけの大きさなんだろう。

だけれど、他の組と遭遇していないということは結構良い事だ。この林間学校はあくまでサバイバル。敵は凶暴な動物たちばかりではない、当然他の組も敵だ。すぐに脱落するとあれば苦しい罰が待ち受けているのもあり、やりたくないからといってドロップするなんて選択肢は無い。なので他の組と遭遇でもすれば、与えられた女尊全卑ナイフとゴム弾の入った拳銃、この二種類の武器で戦闘になる。ゴム弾の装填された拳銃で生徒を撃っても特殊シャツもあって致命傷になることは無いが、どうやら特殊シャツ側にダメージとして衝撃が蓄積されていくらしいし、それが一定量を過ぎると死亡判定され強制ドロップとなる。シャツで守られている場所に当たればいいかもしれないが、目に当たった場合の危険性というのはまるで考えられていない、そんな点を大きく気にするような学校ではないのだ。

それに相手が女だという点もまた面倒でもある。私たちが普段暴力の授業で学習している格闘術の仮想敵はあくまで男、対女の格闘というのは教えられていない。相手が男ならば、素早く男の急所を破壊する事に特化した雄殺術での対応がまだできるものの、相手が女なら金玉はない。そこの部位をピンポイントで狙えば戦闘不能に追い込むことができるような大きな弱点露出が無い女との戦闘の経験を積むための林間学校というのもあるのかもしれない。この林間学校にそのような意味づけがあったとすればそれはそれで不可解でもある。この学校はマンゲーゲンに対抗するための強い女を育成する場所だ、マンゲーゲンなんて組織に女の戦闘員がいるのか、いや、いないとも言えないか。

そう私はいろいろ考えていたが、最初は何を言っているんだと糖質のキチガイごとくらいにしか思っていなかったマンゲーゲンの存在を信じてしまっている自分に気付いた。私は実際にそれらしき人物と遭遇したわけでもない、追われているわけでもない、何も分からないんだった。


「魅血流、朝だからって随分ぼけぼけした顔してんな」


「いや、いろいろ考えちゃって」


「集中しな、どこからまた昨日みたいなバカでかいゴリラ出てくるかもわからない、それに昨日は見なかったけど他の組が襲い掛かってくるかもしれ」


罪子さんの忠告の途中で、上から木で作られた鋭利なナイフが降って来た。罪子さんの鼻の部分にすこしだけ掠れたそれは、すこしばかりの皮膚と血液を奪い取って地面に突き刺さった。


来た、これが敵襲、他の組からの強襲、恐れていたことにこんなにも早く出くわすなんて。


木の上を見上げて敵の存在を確認しようと試みるも、どこにいるんだ、そんな姿はどこにもない。それに木の上に乗っかっているのなら音がしてもおかしくは無かった、そんな音も一切聞こえてこなかった。にもかかわらず上から鋭利なナイフは降って来た。どこからの攻撃なんだ。


「バカ、上ばっか見てんじゃねーよ、上から落とすように投げてきたわけじゃない、野球ボール投げるみたいに遠距離から弧を描くように投げてきた。見えたんだよ。」


業巣屋さんがそう言うと


「よくわかってんじゃん」


知らない声が聞こえた、業巣屋さんの声でも罪子さんの声でもなかった。敵の声、でもこんなに近くから聞こえるということは、すぐ側に、いるはずなのに姿は見えない。声だけが聞こえる。


「そんだけキョロキョロ周り見渡しても見えないって。バカにもメクラにも見えやしない、バカメクラのあんたらじゃ絶対にわかんないでしょうね」


声が聞こえるのに姿は見えない、近くに居ることは分かっているのに。巨大なゴリラ相手には臆することなく余裕の表情すら浮かべながら立ち向かっていった二人にも焦りの表情が色濃く浮かんでいるのを見る限り、前のように解決することも無いんだろう。だめだ、二人の表情なんて見ている場合じゃない、今はこの敵の姿をどうにか視認しないと。

でもその方法もわからないままあたふたしていると、罪子さんは地面に刺さったままの敵お手製ナイフを抜き取って手首を急に切った。勢いよく血しぶきが上がった、なにを考えての行動なんだ。


「おめー!いきなり手首掻っ切って、ジャングルでメンヘラごっこおっぱじめて何の気だよ!」


「業巣屋お前はもっと頭使って生きたほうがいい、血はこんな風にも使えるんだってな」


血が流れ続けてる手首に罪子さんは唇を近づけてあたり一面に血を吹きかけた、血の霧が空気中に撒き散らされ、私たちの顔にも服にも付着した。そして不可視だった敵の存在も確認できるようになった。血しぶきによって輪郭がはっきりと見える、人のかたちをしている。こいつか。


「なるほどね。ミハヤ、光学迷彩解除。バッテリーの無駄」


そして輪郭だけでなく全てが露になった、目の前に現れたのは鉄仮面を着けた生徒だった。


「お久しぶり、あ、はじめましてだったっけ、まあよろしくね、虎組の香昏歯零子、あんたらは?」


なにをとぼけて、この女。いきなりやられる訳にはいかない、このボケ発言もきっと挑発、二人ならキレてすぐさま殴りかかりそうだけど、輪郭くらいしかまともに捉えられない状態にまたなってしまった、そんな状況で殴り合いなんて明らかにこちら側が不利。血しぶきだって拭いてしまえばまた元の不可視状態に元通り、見えるうちに先手必勝で確実にダメージを与えていかないと。

すぐに銃を取り出してゴム弾を打ち込んだ。6発連続発射、できるだけ早く、できるだけ正確に。


そして全弾命中した。胴に当たったんだ、シャツへのダメージ加算はされているはず。何発当てれば死亡判定になるのかはわからない、少なくともまだあの香昏歯零子に死亡判定は下されてないみたいだ。罪子さんと業巣屋さんが香昏歯零子に向かって走る、拳を腹に殴り込んでもダメージ判定はされる。私は弾が尽きてしまったのでリロードを強いられた。ポケットに入れてある弾を急いで装填しようとガチャガチャやっていると、後ろから草木を掻き分けてこちらに向かってくる音が。


「銃なんて女の武器じゃないね、チンポ野郎の武器なんぞ使ってんのか情けねえ女だ」


そう叫びながらもう一人、豪快な走り踵落としをすんでのところで避けきった、なんだあの靴は。踵に鋭利な刃物、そんなの持ち込んで良かったのか、、、、


「女は卑怯じゃない、女は始末する相手に自分の名前を教えておくもの。私は香昏歯一子、はじめまして、よろしく、アンタも女なら殺される相手に名」


「抜かすな!!!!!!!!!!」


またゴチャゴチャと喋りだす、姉妹かこの二人。自分の名前を名乗ってからじゃないと戦わないなんてなんなんだこの姉妹、舐め腐ってる証拠だろ。それともこいつら、騎士道精神的な美学、やってんのか?そんなものは私には無いけれど。私には無い無いづくしだ、罪子さんや業巣屋さんのような強靭な身体能力も、この姉妹みたいに光学迷彩で透明になれるわけでも、踵に刃が生えてる靴があるわけでもない。

暴力の授業では格闘面ではてんでだめだったけれども、射撃の成績だけはピカイチだった、私には銃しかない。より早くより正確により多く相手の体にゴム弾を打ち込んで死亡判定による強制ドロップを狙いにいくしかない。やれることをやるべきときにやるだけだ。


装填し終わった弾をすぐさま相手に撃ち込みに行く、確実に当てる、当たる自信もあったのだ。


あっただけだった。動揺か?これは本番、授業なんかじゃない、試験でもない、やるかやられるかの真剣勝負だ。私は覇気にやられたか。一発も香昏歯一子のシャツ部分に当たることもなく、腕足額というダメージ判定の無い場所に当たった。そして助走を付けて蹴りを入れてきた彼女の踵が尻に刺さった。刃も刺さった。刺さった刃はモロに普通のナイフのそれだった。鋭い痛みが尻に響く、大量の血と痛みだけだった、射撃失敗の結果は。


「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


声を上げずにはいられなかった。地面に倒れてもがき苦しむ。相当な痛みではあったが、どうやらダメージ判定は無い、刃が刺さった場所が尻だったために、シャツに当たることは無かったからか。


「さすがに殺すと面倒臭そうだ、今すぐイモムシみたいに這い蹲って動くしかできないお前に全弾ゴム弾打ち込んでドロップさせてやる」


尻が痛すぎてまともに動けない、彼女の言うとおり今の私は地面に這い蹲って動くことしかできない。こんな痛みで、こんな出血で。下手に抵抗しようとしたらまたあの踵刃を受けることになるんだろう。殺すと"面倒くさそう"だから殺しはしないという、倫理観も大してなさそうな発言から察するに、場合によっては殺されることもあるかもしれない。もう今の時点で半殺しくらいにされてる気はする、尻が。


でも今このままゴム弾を受けてドロップ、それでいいのか。そんな終わり方でいいのか、こんなクソみたいな意味の分からない頭のおかしい危険な学校行事、それがこの林間学校だけれど、そんな情けない終わり方をしてしまって良いのか。できればしたくない。私はこの姦嬲姦女学院での生活をするにつれて、マンゲーゲンに対抗するための戦士になりたいとは思わないが、強くなりたいとは思う気持ちが育っていった。気持ちばかりで成績や能力にはあまり結びついてはいなかったが、そういう思いは確かにあったのだ。罪子さんも、業巣屋さんも、私よりうんと強い。精神も筋力も、私は彼女たちよりずっと弱い、でも変われる、強くなれるはず。

今までの私はというと学びに長けていたわけでも運動能力に長けていたわけでもなくどちらも下の下、ろくに得意な事なんてとくに無かった。でもこの学校のいかれた授業で初めて自分の拳銃の才能を知ることになった。今回は外してしまったけど、今までの人生で得られなかった自分の能力への自信を初めて感じたのだ。

香昏歯一子は弾を装填していなかったらしく、ポケットからがさごそと弾を取り出して装填部分に弾を詰め込み出した。


「お前さっき姉さんに6発確実に綺麗に当てたけど、あれじゃ大したダメージ判定にはならなかったよな。


でも調子近距離で6発、動けないあんたに打ち込んだらさすがにドロップすんだろうな?」


顔を急に近づけてそう言って来た、憎たらしい奴、踵に刃が生えた靴の持ち込みがセーフならもう何もって来ても良かったんだろう。しおりには輪間学校には関係の無いものの持込は禁止すると書かれていた。この凶器靴は林間学校に関係のあるものとして認められたということだ。もう斧だとか持って来ればよかったんだ。姦嬲姦の瘴気にやられてない私だったので、そこまで考えが及ばなかった。甘かった、ここは姦嬲姦、異常な学校、自分も異常に染まらなければ生き残れないというのに。


このまま撃たれてドロップ、したくない、こんな女に負けてたまるか。少なくとも尻に刃突っ込まれるくらい痛い目は見てもらわないといけない。

尻の痛みなんて今は忘れてしまえばいい、ここで根性で痛みを打ち消して拳銃に弾を込めて、いや、奪ってしまえばいい。今ちょうど装填が終わったあいつの拳銃を、私を痛みでイモムシのように這いずることしか出来ない肉の塊としか思ってないようなあいつの拳銃を。数回弾を当てられたくらいでドロップ認定はされないと分かってはいる、なら着弾の痛みを堪えて果敢に突撃して高慢ちきなコーマン野郎の息の根止めてやるぞと!私を舐め腐った目で見下す奴の目にめがけて指先を飛ばすだけだ!!


「タマキン無くともあんたにも私にもタマはある!おめのツラにくっ付いてるもんがあんだよ!」


「足カタワにしてやってんのに動くんかこのアバズレ!!!!!!!!!!!!!」


大きな射撃音と共に私に向かって放たれた銃弾は私の額に当たった、一発、二発、散発、四発、何発でドロップかわかったものではないけど、分からないなら覚悟決めて攻め込むしか無いんだ。


足刺されている今の私に至近距離のゴム弾射撃、食らって上等!痛み上等!ただしお前の目を貰う!五発目の弾丸が私の目を穿った、ゴムといえどこの至近距離、まともに食らって失明しないわけがあるか。この目の痛みをお前にもと、食らわせるために足を動かす、前に動かす、奴の目にこの指を突っ込んでお前もメクラんなってしまえよ。


ジュグっとした感覚、人の目か!これが人の!私の左人差し指と中指、私の右人刺し指と中指、奴の両目玉に到達したんだ。


「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!

 目をやられた!両目をやられた!零子!!!!助けてくれ!!!!!!!」


「トンチキ、あんたのことにかまけてる暇なんて奴には無い。ヤツ、透明になれても所詮は攻略法がしょっぱなバレてしまっては何の意味も無い。あんたもこれからドロップだ。」


メクラデビューのこいつが叫んで助けを求めていた間に弾は詰めなおした、奴が落とした銃も拾って詰めなおした。シャツ直で食らえよゴム弾。


「出直してこいクシャマン野郎!!!!!!!!!!!」


連射した、奴のシャツに直で、数十発。

赤く点滅し始めた奴のシャツ、これがドロップの合図みたいだ。


「グゲ、、、、なんだこの感触は、何だこれは、シャツからにじみ出るこの液はなんだ、、、、」


ドロップ認定された一子のシャツから妙な液体が分泌されると彼女は息を引き取ったかのような安らかな表情で眠りに着いたらしい。ドロップ認定を下されるとどうやらシャツから出る薬品かなにかで眠らされるようだ。


「魅血流やるようになったじゃん」


罪子さんと業巣屋さんが仮面を付けたモノ、ドロップして眠りこけた奇人香昏歯零子を引きずって私の元に向かってきた。顔は柔らかい土の地面にめり込みながらもそんなことお構いなしで引きずってきたものだかから牛の糞のしぶきでも顔面にくらったようなクソヅラになっている。


「二人は落としたけども、チームは三人。あと一人が既にドロップしているのかはたまた別行動を取っているのかわからないけど、まだ安心はできねーぞ。」


業巣屋さんの言うとおりだ、また一人どこか私たちの近くに潜伏して首掻っ攫う隙を伺っているかもしれない。透明になって攻撃してくるような奴がいるなんて私たちは予想もしてなかった、常識が通用しないこの空間で何が飛んでくるかわかったものではない、安心は決して出来ない。


「待て、三人目はこの仮面、ヘルメットだ。」


「おめーは何言ってんだ?ヘルメットが生きてるとでも言いたいのか?」


「ごちゃごちゃうるさい奴、私について来なよ、このボケどもはここに放り出しておいてもいいだろうしな。」


そう言うと罪子さんは香昏歯零子のヘルメットなんだか鉄仮面なんだかよくわからないものを無理に剥がして持った。どこへ行くのかよくわからないまま、業巣屋さんは文句をぶつくさ言いながらも、尻を刺された私を黙って支えながら罪子さんに着いて行った。


それからしばらく歩くと水辺に着いた。水辺まで連れて来て私たちに何を伝えようというんだろう。


「今からこのヘルメットをこの水に浸ける、それが辞めて欲しかったら今すぐ返事をしろ、ミハヤ。」


ミハヤ、確か香昏歯零子が口にしていた名前だ。


「やめろ!殺しはやめてくれ!私を水に浸す事は殺人と同等の行為だ!」


ヘルメットから聞こえる女の声、これがミハヤ、、?ヘルメットは生きていた?


「なら説明しろ、お前が何なのか。」


「私はミハヤ、香昏歯零子によってプログラミングされた人口知能、感情を持ち、姿はこのヘルメットだがそれ以外は私は人間の女と何も変わらない。配られたシャツもこのヘルメットの裏を空けた部分に入っている。水に私を浸せばそのまま壊れてしまう、どうか頼むからシャツを引っ張り出してそれを痛めつけてくれ。ドロップでいい、香昏歯零子無き今、私はお前たちになんの危害も加えることができない。」


「無害なヘルメットがなんか喋ってるな、魅血流おめーはどうするよ、この人畜無害な人工知能を」


「人工知能は人じゃない、女ですらない、私の尻の傷もこいつがいなければなかったかもしれない。ジュースの缶蹴り潰して心が痛むもんでもないでしょう」


「じゃあ決まったな、ヘルメット人工知能、お前は今からタマだ。人工知能人生最後のロングフライト、精々楽しめ」


三人で息を合わせて憎きステルス鉄仮面を蹴り飛ばした、湖目掛けてずいぶんなロングフライトを楽しんだであろうそれは宙を飛びながらも絶叫していた。随分硬かったサッカータマ、つま先への鈍い痛みは奴を蹴り飛ばした快感の少し後に来た。






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姦嬲姦女学院 高等部 スペルマ @ikazaburou

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