異色、現実、蓋をして

キジノメ

異色、現実、蓋をして


「面倒なことだ。なぜ僕らは繋がり合おうとするのだろうね?」


 彼の目に、私はどう映っているのだろう。彼の目は、薄らと赤い。私に覆いかぶさっているから、影ができて、多少の黒を混ぜた目が、すんと私を見つめている。いつもみたいにニヒルな笑みを浮かべた唇、少しこけた頬。

 答えずに私は頬に手を伸ばした。

「君はいつも僕の頬を触るね?」

「……そうだっけ?」

「そうだ。頬に手を伸ばして僕らは見つめあって、それからキスするんだぜ」

「分析するなんて、無粋ね」

「僕がこういう奴だと知らなかったっけ」

「いいえ、知ってた」

頬をするりと撫で、手を降ろす。目を見つめても彼は、今日は身体を屈めない。だから私は好きに手を伸ばすことにした。瞳に、手を伸ばす。彼が目を瞑る。瞼を優しく撫でた。

「あなたの目は、まるで篝火」

「僕は君を導けはしない。同じ世界を見ているって誰が言える?」

「私たち、触れ合えるわ。同じ次元に立っている」

「それは身体的な話だ。心まで同じ次元とは言えない」

綻ぶように、目が開く。やはり薄ら赤い、瞳だった。

 私はあなたを、ただあなたとしてしか見ていないつもりだけれど、それすらあなたとは違うのでしょうね。

 それは悲しいことかしら。同じ次元で生きるものとして、面倒なことかしら。

「面倒だ。そしてどうしようもないほど悲しいことだ。たとえ僕ら繋がっても、夕焼けの色は違う色に見えるんだぜ」

「ひとつになるというのは、そんな違いを乗り越えてしまうんじゃないの?」

「善がって僕らひとつになれたねって鳴くか? そんなもの、刹那だろう」

「刹那の繋がりを求めたいのよ。きっと私たち、同じ色を見ているって」

「君も?」

息が詰まった。君も? そうね、ひとつになれてあなたと同じ色を見て、繋がることが出来たらどれだけ生きるのが楽か。

 でも私とあなたは、心の底で冷めている。永遠なんてないって、繋がるなんてありえないって、認知の外側で理解してしまっている。

「……私が見る赤と、あなたの見る赤は違う」

「結局それが答えだ。だから僕らは、こんな関係から一ミリも動けないんだ」

自嘲、自責。知っている。だからそれに蓋をして、私はあなたの首に手を絡める。

「……忘れましょう」

「賛成だ」

重なった身体から鳴る心臓の音はどうしても同調しなくて、やっぱり私たちはひとりずつだった。


 恋人同士の曲なんてひとつも入っていないCD、世界の理想論なんて捨て去った本棚。

なにもかもが現実の匂いがする部屋で、私たちは繋がろうとする。いいえ、繋がる。身体的に。

 違う色を同じだねって空論で話しながら、それを嘘だと分かりきって、私たちは刹那だけ、全てに蓋をする。

 ひとつになれればこんな面倒なことはなかったのにねって、それを思って私は泣くのだ。

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