第27話 世界の広さ、世界の小ささ
まず第一に、博士の死体がまだ残っているかを確認する。
残っているならば、それがどこにあるかを調べる。それからその場所を確認して、出来る限り近くまで行き、それから精霊王の髪の毛を抜く。
それでも尚、誰にも見咎められずに死体に触れられるかどうかは分からないと思った。
まずイルルクは魔術院どころか中央特区にすら足を踏み入れた事がないのである。キリに道案内を頼むにしても、限界があるだろうと。
魔術院の中に光の精霊王にまつわるモノがあればいいのにと願う。
ただ、恐らくは光の魔術師が中央特区にいる筈であった。イルルクは後でキリに、中央特区にいる光の魔術師について聞こうと思った。
精霊王に尋ねれば、自分が魔術を授けた魔術師の所在などすぐに分かるだろうと思ったが、それも自分の為にはならないだろうと考えたイルルクは、質問を飲み込んだ。
イルルクは色々と考えを巡らせた結果、あと一つだけ質問をする事にした。
「炎神様は、どういう方なんですか?」
「炎神? ふむ、
「え、い……意外です」
「そも、彼奴が死者を司る事になったのも、彼奴が勝手に死者の国への門を開いたからであるぞ」
「ええ?!」
「冥界の者たちからどれだけ文句を言われた事か。我らは彼奴の親でも何でもないのだがな。彼奴は自分が何かをする事で、その後の世界が大きく変わってしまう可能性がある事を全く考えない。もう神々は全員諦めたが」
「いいんですかそれ……」
「まあ、世界が一つ滅んだ所で我らには関係ないからな。ここの他にも世界はあるのだ」
「そんな!」
「神と精霊は世界とはっきり切り離されておるのだよ。ただまあ、それなりにこの世界に愛着はあるのでな、だから其方にも力を貸すのよ」
ヤクニジューの外にも世界が広がっている事を知った時ですら衝撃を受けたのに、この世界の他にも別な世界があるだなんて。
イルルクは自分が今、途方もない場所に一人立たされているような気持ちになった。
神々は、そして精霊王は、人間とは相容れない物なのだ。幾つもの世界があって、この世界はその中の一つで、イルルクたちはあまりにもちっぽけな存在だった。
けれど、イルルクは生きている。
今、この世界で生きている。
そしてこれからも、生きていきたいのだ。
今までは死人と共に生きられればそれでいいと思っていた。
けれどヤクニジューを出て、その考えは少し変わった。
森と、イラランケと、他にもまだ世界が続いているのならそれに触れてみたいと思う。
出来るなら、フェルと一緒に。
精霊王はそんなイルルクの心の中を覗いたようにニコリと笑い、イルルクの座っていた玉座を動かして階段の方へと運んだ。
階段を
何の事か分からなかったけれど、フェルと離れないようにと言われた気がした。
イルルクは、自分がこれから先もずっと、死ぬまでフェルと共に在る事を想像して、少し恥ずかしくなるのだった。
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