第3章 イラランケ

第16話 仮面の街

 村からは馬車でイラランケへ向かう事になった。

 村には以前奪ったという馬車が二つ程、綺麗に管理されていたのだった。貴族の格好をして森を歩いて行く訳にはいかなかった為、イルルクたちは感謝の言葉を述べて馬車に乗り込んだ。御者役は、まだ一度もイラランケに行った事のない村人が務めてくれた。

 イルルクもフェルも馬車に乗るのは初めてだった。そわそわと落ち着かない様子の二人にルドリスが苦笑いを零す。


 暫く馬車に揺られていると、馬の嘶きと共に馬車がゆっくり停まった。村人が降りるように声を掛け、イルルクたちが降りるのに手を貸してくれる。

 馬車を降りたイルルクたちの目の前には、キラキラと言うよりはギラギラと言った方が正しいと思う程の輝きが広がっていた。

 街中が娯楽施設と云うのは間違っていなかったのだなとイルルクは思わず溜息を吐いた。 中央特区にも似たような施設はあったが、それの比ではない。

 街の入り口で村人に別れを告げる。馬車が走り去って行くのを見送り、街へ入る為の手続きを済ませた。

 イラランケでは今、丁度祭りの真っ最中だった。暦上の特別な行事と云う訳では無く、街の有力者たちがお遊びで始めた祭りで、自分の家以外では皆、仮面を付けるのだとか。

 入り口から足を踏み入れれば仮面を付けた人々が街中を闊歩していた。入り口付近には多数の仮面を売る露店が立ち並び、無数の仮面が陳列されていた。

 イルルクたちも勿論、仮面を買った。顔が隠れるのは好都合だったからだ。

 顔の鼻より上が隠れるタイプの仮面と、顔全体が隠れるタイプの仮面があった。値段は当然のように全体を覆う仮面の方が高く、店主たちはこぞってそのタイプの仮面を薦めてきた。

 街中を見回すと、顔半分が隠れるタイプの仮面を付けている人の方が多いように見えた。しかし、服装や装飾品から金持ちなのだろうと思われる者たちは大抵が、顔全体を覆う仮面を付けていた。仮面の装飾も、金を持っていると云う証明の如く豪華だった。

 イルルクたちは、金持ちだと思われる方が好ましい事もあり、顔全体を覆う仮面を買う事にした。顔を隠せる仮面を身に付けても変に思われず、むしろ上位の人間だと思われやすいのだから渡りに船だった。

 イルルクたちはそれなりに装飾の施された仮面を身に付け、まず宿を探しに行くことにした。


 宿を探して街を歩きながらイルルクは少しの違和感を覚えた。

 街には大勢の人がいたが、子供が殆どいなかった。

 娯楽施設、と言ってはいても、その殆どが金を賭けた大人たちの遊技場である事は聞いていた。だから大人たちが沢山いる事は変な事ではない筈なのだが、それにしても子供がいないのだった。

 イラランケは、他の街から訪れる者たち相手の商売で大きくなっていった街だ。だが、だからと云って街の住人がいない訳では勿論ない。当然街の入り口の逆側、街の裏側と言えるような位置に、この街の住人たちの家々が並ぶ居住区はある。

 そして宿屋も居住区の側にあり、住人たちが日常生活を送る為の様々な店も同じく、居住区を囲むように存在していた。

 派手な歓楽街を抜けて居住区の方へやってきて尚、子供の姿も声も無かった。

 そんな事はあるのだろうか。この街の事を良く知らないから不思議に感じるだけなのだろうかとイルルクは思う。

 ただ、魔道具を扱う店を見付けて、イルルクの興味は一気にそちらへ向けられた。イルルクはキリに音で合図し、店の方を見せた。


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