第17話 魔道具店
宿の部屋は、寝室が二部屋付いている広い物だった。フェルがいる為に二部屋はどうしても必要だったし、変に安い宿を取って怪しく思われる事は避けたかったからだ。
イルルクは部屋に入るなり仮面を外し、キリに魔道具の店について聞いた。
「紙とインク、買えるかな」
「ああ、それなりに品揃えの良さそうな店だったしね」
「じゃあやっと本物の魔方陣が描けるね」
「ああ、そうだついでにフェルも一緒に行っておいで」
「オレも?」
フェルはイルルクたちだけしかいない空間では今までと変わらぬ口調で話す。
その度にルドリスが顔を顰めるが、それにイッと歯を向けて、フェルは構わずキリに話しかけた。
ルドリスは部屋中を確認して回っている。高い金を払っていても、それだけで無条件に安心出来る訳ではない。
「でもオレが行っても何も分かんねぇけど」
「多分、店に各属性の守りが込められた護符なり何なりがあると思うから、触ってみて暖かいなと感じた物を買っておいで」
「なんで?」
「君にも魔術が使えるかもしれないからね」
「本当かよ!」
「どれにも何も感じなかったら、諦めてね。光と闇の魔術を手に入れるのは多分無理だし」
「ああ、勿論。っつーか使えると思ってなかったしな!」
「俺は無理なのか?」
そう言ってルドリスも会話に混ざってくる。部屋の確認作業は終わったらしい。
キリは少し唸り声を上げて考えた。
「成人の儀の時、魔術に適性があるなら魔術院に一度は呼ばれる筈なんだ」
「へぇ、俺、成人の儀受けてねぇんだよな」
「成人の儀を受けない奴がいるのか?!」
「そんな多くはねぇと思うけどよ。俺はガキの頃に死んだ事にされてな」
「住人としての登録が抹消されているのか」
「そういう事」
「なるほど。それなら可能性はあるな」
結局全員で魔道具の店へ行く事になった。
店に足を踏み入れた瞬間、店内に並ぶ商品たちが一斉に動いた気がして、イルルクは思わず入り口で立ち止まった。
店の奥でガタガタと音がして、店員らしき男が慌てて駆け寄ってくる。
「おいおい、やべー魔力量だな。魔道具が壊れちまうよ」
「ご、ごめんなさい」
「いや、えーと、そうだな。悪いけどちょっとこれ付けててくれるか」
色々な方向に飛び跳ねた濃い茶色の髪を揺らし、大きな眼鏡を掛けた男はイルルクに銀色の金属で出来たブローチを渡した。イルルクはそれを受け取り、その瞬間に自分の中にある魔力が急激に小さくなってくのを感じた。
身体が重くなり、息が苦しくなってきた気がして、イルルクは不安げな顔で男を見る。
「ああ、それは効いたか。良かった」
「これ、なん、です、か」
「呪いのアイテム」
「は?」
「魔力を底なしに溜め込むんだよね。外せば還っていくから安心して。とりあえずその状態なら店に入っても問題ないよ」
イルルクは重い身体をルドリスに支えられながら買い物をした。
買い物と言っても、羽根ペンにインク、紙を束で買っただけだったが。
ルドリスは土の護符を、フェルは散々護符と格闘し、結局どの護符からも何も感じずに落ち込んでいた。
イルルクにブローチを貸してくれた男はナキニと名乗り、店主だと言った。イルルクの瞳を仮面越しに楽しそうに見つめ、何故かフェルを呼んだ。
ナキニはフェルにぽそぽそと何かを伝え、それから一対のピアスを差し出した。フェルは先程までの落ち込みようはどこへ行ったのかと聞きたくなる程に目を輝かせ、ルドリスに頼んでそのピアスを買っていた。
ピアスはナキニの、眼鏡の奥の瞳の色と同じ色をしていた。
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