第15話 貴族の振る舞い
その日の食事はルドリスが頼んだのか貴族たちが使う食器の類が勢揃いしており、イルルクはフェルと共に、大人たちからテーブルマナーを叩き込まれたのだった。
一口で食べてしまえそうな可愛らしい突き出し、前菜は冷たい物と温かな物が一つの皿に乗っている。とろりとしたスープに魚料理。
その後でシャリシャリとした甘い物が出てきて、それで終わりかと思えば肉料理が出てくる。菓子と果物、そして温かな飲み物が出てきて、終わりだった。
イルルクはいくつも並ぶ食器たちを目が回りそうになりながら必死に覚え、使った。
味は美味しかったのかもしれない。だが、あまりに必死になっていたのでちっとも記憶に残っていなかった。
そういえば前に、似たような食事をしている光景を誰かの記憶で視た事があったなとイルルクは思い出す。フェルは前にファミリーで何度か教わった事があるらしく、イルルクより数段落ち着いた様子で食事をしていた。イルルクは懸命に覚えながらも、寝る前に記憶で復習しようと思った。
一度に何もかも覚えられる訳はないと励まされていたものの、この村に長居する訳にはいかない事はイルルクも良く分かっていた。
なるべく早く、貴族としての振る舞いを身に付けなくては。イルルクは死の瞬間を視ないように注意しながら、テーブルマナーだけではなく、他の色々な事も記憶に焼き付けるのだった。
イルルクたちが村にいる間、村人の数人が見張りを引き受けてくれており、ルドリスは追っ手らしき集団が幾つか森に入ったが、村に気付く事はなくそのまま森を抜けていったと云う報告を受けていた。
何日かの猶予はありそうだと判断し、イルルクとフェルは貴族としての振る舞いを身に付ける事になった。そうして、特訓の日々が始まった。
村人たちの献身的な指導により、貴族らしい歩き方、話し方を身に付け、更にダンスも踊れるようになった。
イルルクは一人になれる瞬間を見付けては、死人の記憶を辿って復習をした。間違えて死ぬ瞬間まで視てしまわないように、慎重に。その甲斐あって、暫くすると身体が勝手に動いてくれるようになった。ルドリスもイルルクの成長ぶりを褒め、イルルクはますます頑張るのだった。
それらの特訓の合間を縫ってイルルクとフェルはぬいぐるみの改良を重ね、イルルクのぬいぐるみはフェルに似た、フェルのぬいぐるみはイルルクに似たものになった。ヤクニジューで初めて作ったぬいぐるみとは比べものにならない程の完成度だった。
イルルクたちは設定を決めていた。
父、ルドリス。長女であり姉、フェル。長男であり弟、イルルクだ。
名前はそれぞれルース、フェリーシャ、ルーク。
母はイルルクを産んだ時に亡くなった事にする。
フェルとイルルクは仲の良い
ルドリスとイルルクの名前はルドリスが考えたが、フェリーシャと云うのは本名なのだとフェルは言った。
「ファミリーに入る時にボスに挨拶して以来だなあ、フェリーシャって名乗るの」
数日の内に殆ど完璧な女性になってしまったフェルに、イルルクは少し、落ち着かなかった。
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