薄紅 うすべに

雨世界

1 ……あなたに会いたい。

 薄紅 うすべに


 登場人物


 小坂紅 中学二年生 女子


 桜川卯月 中学二年生 女子


 逢川八重 中学二年生 男子


 プロローグ


 満開の桜の木の下で


 本編


 ……あなたに会いたい。

 

 桜川卯月が、逢川八重に恋をしたのは中学一年生の夏だった。

 二人は世界の片隅にある、とても小さな街の中にある、とても小さな木造の中学校で出会い、そして二人はお互いに、自然と淡い恋心を抱くようになった。

 それは運命の出会いだったのかもしれない。

 それはただの偶然だったのかもしれない。

 どちらかはわからないけれど、……二人は出会い、恋に落ちた。


 告白は、八重くんからしてくれた。

 それが卯月はすごく嬉しかった。(本当は自分から恋の告白がしたかったのだけど、自分からはなかなか告白する勇気がなかったからだ)

 それは卯月が中学二年生のことだった。

 場所は木造の校舎の裏庭で、時間は放課後の夕方だった。……八重くんはその場所に、一人でぽつんと立っていた。

 卯月は赤い色に染まり始めたその場所に一人で向かった。

 そして、八重くんはやってきた卯月に気がついて、「……やあ」と照れくさそうな顔をしながら、(恥ずかしそうに、どこかそっぽを向いて)卯月に言った。卯月は「うん」と八重に言った。


「……大切な用事って、なに?」

 顔を真っ赤に染めながら、卯月は言った。

 卯月は、八重くんから手紙で呼び出されていたから、なんとなく、……実際になにをするのかは、その八重の手書きの手紙にはなにも書いていなかったのだけど、予想はついていた。

 八重から手紙を受け取ったとき、……あ、私はこれから、八重くんに告白されるんだ、と卯月はすぐに気がついた。

(もしかしたら数パーセントくらいの確率で、卯月の勘違いという場合もあるだろうけど、……このころにはもう八重のことが大好きで、八重のことをよく知っていた卯月は、それが絶対にないとちゃんと理解することができた)


 午後の体育の時間が終わると、卯月はすぐに手紙に書いてあった、約束の場所に向かった。

 そして、今、こうしてその約束の通りに、逢川八重くんと校舎の裏庭で、二人っきりで桜川卯月は会っていた。

 ……卯月の心臓は、すごくどきどきとしていた。

(顔もほんのりと赤く染まっていた)

 八重はゆっくりと、でも真剣な眼差しで、そんな俯き加減の卯月のことをじっと見つめていた。

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