第19話 閑話休題

「ふむこれは珍しい、ただの棒きれがこれ程の神気を帯びるとは」

「アハハ木の棒が見事にシャイニングってる、摩訶不思議発見アドベンチャー♬」


 リビングのテーブルに乗っているのは潤子が持って帰って来た木の棒。光で照らす奇妙なそれを、黒音は物珍しそうにツンツンと突く。


 時は少し遡り――。


「じゃあ私はこっちに残るけどさ、アンタたちも気を付けなよー、何事も程々が一番だし」

 ホテルが再び襲撃を受ける可能性はある、防衛の為に残ると告げた消防士達と志津理に見送られホテルから去り、屋十森宅に帰り着くころには時刻は十六時を過ぎようとしていた。


 送ってくれたタクシー運転手ののっぺらぼうに、明日の送迎の手配を頼むと彼? は快く了承してくれた。


「お客さん私もね、今の矢染市に思う所があるんですよ……お化けの側から見てもこの状況は異常だ」

 運転中、彼はそんなことを話してくれた。


 家に入ると天奈はとあることを思いつく。

「そうだ、この光の力でおばさん達を治せないかな?」

 穢れを浴びた人達を癒した稲荷神の神通力じんつうりき、もしかしたら穢れに関係なく衰弱した人達にも効果があるかもしれない。


「試して見ましょうか、天奈様の怪異融合の力がどこまで通じるのか興味があります」

 ホタルの言葉に促され早速、潤子の両親に豊穣の光を当ててみた。


 結果を言えば効果は大いにあった、父親も母親も見る見るうちに体力を取り戻し、ベッドから体を起こし会話ができるくらいまで回復した。

 それと黒音とホタルの事は、とりあえず知り合いの霊能力者と説明すると、ご両親はあっさりと納得してくれた……それでいいのかな?


 そして現在、この光る謎の木の棒に三人一羽の関心は向けられていた。

 謎の変質を遂げた木の棒、ホタルが首を幾度も回しながら端から端までくまなく凝視する。


「稲荷神の覚醒に当てられ、ただの棒が神籬ひもろぎへと昇華した……それではまるで神話の一文そのものではありませんか、ふむふむふむ」

「やっぱり神の力と怪異融合した影響かナー、見方を変えれば神卸かみおろしに類似してるもんネ」


 細部まで観察して何度も触りながら一人一羽は語り合う、思っていた以上に話は長引き、天奈も潤子も声を掛けづらく、そわそわしながら待ち続けた。


「申し訳ありません、珍しい品でしたのでつい時間を掛けてしまいました……一先ず、危険はないと判断します」

 天奈の感じた通り木の棒の安全は証明された、が……。

「そうですね、この木の棒は一種の霊具れいぐ、いや神具しんぐでしょうか……端的に言えばお祓い棒に近い道具です」

 ホタルの言葉は何処か確信が持てずに感じられた。


「やっぱり、私が力を使えるようになったことに関係が?」

「そう考えて良いと思います、あの時、天奈様は穢れを浄化した、その霊気を浴びて何かしらの変化が起きたという事でしょう」

 

 ほうほうと天奈と潤子は一応納得した、すると黒音が木の棒を両手で持ち上げて。

「つまりこれは、稲荷伸の神威かむいが込められた供物、名付けるならそう――」

 そして何故か一呼吸置き。


……ダネ!」


 満面の笑みで自信たっぷりに言い放った。


「霊験あらたかな……天奈の聖なる棒っっ」

 ゴクリとつばを飲み込み潤子は復唱する、額から流れるは玉露の汗。


「愛憎渦巻くこの乱世を救済する為、極楽浄土ごくらくじょうどの彼方より飛来した一抹の希望! それが、“霊験あらたかな天奈の聖なる棒”!」

「おおお!」

 何だろう、黒音と潤子が悪ノリを始めた。


「そしてこれは君が持っていて潤子、この“霊験あらたかな天奈の聖なる棒”を」

「わ、私が“霊験あらたかな天奈の聖なる棒”を⁉」

「ウィ、きっと“霊験あらたかな天奈の聖なる棒”は怪異から君達を守ってくれる筈だ、そう、“霊験あらたかな天奈の聖なる棒”ならきっと――!」


「く、黒音、連呼するのはやめて! と言うかワザとやってるよね⁉」

 

 天奈はたまらず顔を真っ赤にしながら、二人の子芝居を止めに入る。

 

(今日の夕食は煮物、里芋の煮っ転がし……良いですね)

 ホタルは明後日の方向を見ながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。


 ちなみにこの“霊験あらたかな天奈の聖なる棒”は激しい討論の末。

 

霊剣れいけん――アメンボ】

 

 と、命名めいめいされました。

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