第二章
第11話 次なる舞台へ行ってみよう!
迎える屋十森宅の爽快な朝、とはいかず。
結界に遮られてただでさえ日光が弱いというのに今日は曇天、市街地が一層暗い九時過ぎのリビングで、皆は遅めの朝食を終えていた。
「とりあえず今日も犯人捜しに励もうネ、ふー、お茶が
食後のお茶を飲みながら、黒音とホタルは今後の方針を話し合う。
「我々がこの地に詳しくないのが痛いです、数日間闇雲に動き回っているだけですから」
「怪異を狩りまくって、向こうが仕掛けて来るのを待つしかないのがな、うーん今更だけど後手後手ダネ」
一方、天奈と潤子は共にスマホを操作していた。
市で暮らすクラスメイト、そして中学の同級生と無事を確かめ合っている。
「はい、と、潤子、
「こっちも、リンも家族も大丈夫だって」
話す二人にテーブル側の黒音が語り掛ける。
「お友達どうだった?」
「うんみんな家の中でじっとするって、そう言えば矢染市の外とは電話が繋がらないけれど、もしかしてあの結界のせい?」
「ウィ、ビリビリ電波は遮断されてるネ」
「でもこの家の電気は通ってる、電気だけじゃない水道の水もちゃんと出る、どうして?」
実はこの怪異が起きてから、生活において問題になったのは食べ物ぐらいで、電気、水、ガスは問題なく機能していたのだ。
女子高生に詳しいことは分からないがこんな異常事態だ、都市機能が麻痺してもおかしくないと思うが。
「そこがこの術式のいやらしい所です天奈様」
解説バトンタッチとホタルが加わる。
「それらが機能しているのは、他でも無い犯人がそのように結界を調整しているからです、電気、水、大気など必要な分は結界には拒まれず通常通り循環しているのでしょう」
「犯人、私達を閉じ込めた人が? どうして?」
「――人間を死なせない為です」
?? それは余りに矛盾している。
街を閉じ込めて多くの命を奪った元凶が、逆に死なせないように都市機能を維持しているとは。
困惑する天奈のスマホが震えた。
「すみません……委員長から?」
画面を見ると、中学からの同級生で高校でも同じクラスの、委員長の名が写されていた。
「はい天奈です、委員長どうしたの? え? お、落ち着いて何かあったの?」
只事ではない雰囲気に気付いた黒音達の視線が集まる。
「うん、うん、ホテルが? そんな、そこから逃げれないの? みんなで一緒に、委員長? 委員長⁉」
電話が途切れ、焦りの表情を浮かべながら天奈は掛け直すが、繋がることは無かった。
「委員長どうしたの⁉」
潤子が近づくと天奈は青ざめた顔で振り向いた。
「委員長が避難した
その言葉に潤子は戦慄した。
「そこから逃げられないか聞いたけど途中で電話が切れて……ダメ委員長が危ない!」
「ど、どうしよ! どうしよう⁉」
「天奈、そのホテルって避難所か何かカナ?」
湯飲み片手、椅子に肘を乗せ落ち着いた声で黒音は尋ねる。
「う、うん怪異に襲われた人達がそこに避難してるって聞いた」
「場所は分かる?」
「ここから少し遠い、市街から離れた高台に在るホテルなの」
「高台ね、分かった」
そして残りのお茶を一気に飲み干し、元気よく立ち上がった。
「ヨシっと! それじゃあ僕そのホテルに行ってくる、いいよねホタル?」
「主様の望むままに」
「ウィ♪ 委員長さんだっけ? 天奈の友達助けて来るヨ」
優雅にスカートを
「待って黒音! 私も――」
私も一緒に行く、その言葉は喉元を通らない。
(私が付いていった所で何ができるというのか、黒音は強い、でも私は無力)
足手まとい、ただ邪魔になるだけだ。
昨日と同じ、友達の危機に、私は。
「天奈も一緒に来る?」
予想外の誘いが黒音から飛んできた。
「い、いいの?」
「勿論、潤子はどうする?」
「あ、はい! 出来れば私も行きたいです!」
潤子は必死に手を上げ己の意思を強く主張する、それを見ていたホタルが口ばしを開く。
「そうですね、元々その予定でしたし、丁度良いかもしれません……お二人共、我々の協力者としてお力を頂けますか?」
またもや意外な言葉、少女達より遥かに強い彼らが助力を申し出てきた。
「協力者、ですか? 力になれるなら頑張りたいですけれど……私も潤子も戦うなんてとても」
「いえお二人に頼みたいのは、街の案内と市民への仲介役です」
「? 案内は分かりますけど仲介って?」
首を傾げる潤子にホタルは答える。
「見ての通り主様は、男でゴシックファッションで赤髪で、笑いながら凶器を振り回す、傍から見たら只のアブナイヒトです」
「ホタルヒドイ」
残念ながら黒音の嘆きは無視される。
「ですので、市民の方々に主様は危険ではないと説得して頂けますか? お二人の容姿と人柄なら上手くいくと思いますので」
「私、今狐ですけれど」
「可愛いから大丈夫ですよ」
どこか適当なホタルの説明の後、「それに」と黒音が続く。
「天奈達だって蚊帳の外は嫌でしょ、当事者は君達なんだから」
「黒音……」
「僕としてもすぐに守れるから、傍に居て欲しいナ」
天奈と潤子は僅かな葛藤の後、強く頷く。一人一羽はそれを同行の合図と受け取った。
「それじゃパパッと準備しちゃおう! 無駄なくコンコンとね#」
右手で狐を作り、黒音は可愛らしく首を傾けた。
◇◇◇◇◇◇
忙しなく出かけの準備を終えた皆は、住宅街から一番近い国道に足を運ぶ。
家を出る前に、黒音はポシェットから銀色のベルを複数取り出し家中にぶら下げた。
「魔除けのベル。留守の間、怪異の訪問お断り、てネ」
最後はドアに飾り、これでしばらく侵入されないと潤子を安心させた。
怪異の泥が残る人気が無い
「どうするの? ホテルまで結構距離あるけれど、やっぱり徒歩で、」
「ここは国道だヨ、便利な物があるじゃあないか」
黒音はそう言い、歩道から身を乗り出して――。
「hey、タクシー!!」
元気一杯、親指を突き立てた。
……。(通り過ぎるしゃれこうべ)
…………。(目を逸らす浮遊霊の母子)
………………そして、二分後。
小さなエンジン音が聞こえ、一台のタクシーが姿を見せる。
「「本当に来た」」
驚く天奈達を尻目に、古めかしいタクシーは止まりドアが開いた。
車体のあちこちが錆びれ、ガラスにはひびが入った姿に違和感を覚えるが……。
「さっ、早く行こう、ホタルは僕の膝ネ」
「承知しました」
黒音とホタルはいち早く後部座席へと乗り込んだ、そうだここで悩んでる暇はない。
「天奈は後ろね、私が助手席で道案内するから」
「わかったお願い」
現地協力者となり潤子も気合が入ってる、意気揚々と助手席に座った。
「うしっ、運転手さん、野々山観光ホテルまでお願いします!」
『分かりました、所でお客さん――私の顔を知りませんか?』
運転手はのっぺらぼうだった。
「うひゃああーー!!??」
そしてタクシーは、ホテルに向けて発進する。
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