-2 徳島港→和歌山港→九度山
7時20分、7-8割方の席を埋めたバスは徳島港へ向けて徳島駅を発った。徳島⇔大阪間は淡路島経由の高速バスを使えば2時間20分程度で着いてしまう。シェアは圧倒的であり、高松岡山周りの鉄道などは勝負の舞台にすら立てていない。しかしもう一つ、船便という手がある。かつて明石海峡に橋が架かるまでは、和歌山徳島間の船便は徳島までの主要ルートであったという。徳島港⇔和歌山港の正規料金は2000円であるが、落ち込んだ旅客利用を少しでも取り戻すためか、乗船券に難波もしくは高野山までの南海の片道乗車券の付属したセットが同じ2000円で販売されている。今回はそいつを使ってみようと思う。
20分ほどで港に着く。バス同乗の客で窓口が一時的に混雑していたため、空くまで売店などを見回してみると、なんとこんなフェリー会社でもオリジナルキャラクターがデザインされているではないか。「阿波野まい」「高野きらら」という2人がそのキャラクターであり、ちゃっかりキーホルダーやタオルといったグッズが販売されている。徳島市はマチアソビをはじめ、アニメ等のサブカルチャーを利用しての町おこしに長く取り組んでいるというから、その余波がこんなところにまで及んでいるのだろうか。
船は8時丁度に徳島港を出港した。今日の最高気温は21度まで上がるというから上着の枚数を減らしてきたのだが、流石に甲板の上は風があり肌寒い。振り返ってみると正面に眉山のなだらかな山容が見えた。徳島にはこれまで3度訪れたが、いずれも夜遅くに到着して翌早朝に発つという訪問の仕方しかしていない。当然眉山にも一度も上っていない。いつかしっかり観光してやらねばならんなぁとは思うのだが。
肌寒い甲板から降りて船内に戻るが、船内は意外と混雑している。100-150人ほどはいるだろうか。高野山へ向かう団体の一行が休憩スペースで寛いでいる。私も座席について読書などはじめてみるが、前日の寝不足もありつい微睡んでしまう。船内放送で起こされると、もう和歌山であった。徳島港から和歌山港までは2時間10分である。近鉄特急の名古屋大阪間が丁度そのぐらいだが、この2時間という時間は一眠りするのに丁度いいのだろう。10時10分和歌山港着。和歌山港のフェリーターミナルは南海の和歌山港駅と繋がっている。もっとも南海電車の大半は隣の和歌山市駅折り返しであり、こちらには1日11-13往復しかやってこない。とはいえフェリーとの接続はとっているのか、次の難波行き特急サザンは10時23分と好接続である。
今日はこのあと高野山麓の九度山へ向かう予定だが、よく考えてみると和歌山港から九度山に向かうのに南海電車を使うのはいかにも遠回りである。和歌山線を使えば直線距離では50km程度であるが、南海で天下茶屋回りだと110km以上になり30分ほど余分にかかる。フェリー券についてきた南海電車の切符があるからタダではあるが、JRもどうせ九度山からの帰りに18きっぷを切るから変わらない。とはいえここは南海電車を使うことにした。和歌山線は大回り乗車や18きっぷでいつでも乗れるが、南海電車は使いやすいフリー切符の類が乏しいからこういう時でないと乗る機会が無い。
特急サザンは8両編成であり、4両がロングシートの自由席、4両がクロスシートの指定席であるが指定席車両はガラガラである。名鉄の自由席4-6両指定席2両の特急を見慣れていると指定席が過剰に思えるが、長らくこの編成を維持しているところをみると通勤や行楽での一定の需要はあるのだろう。
1時間ほどで天下茶屋に着き、高野線に乗り換える。金剛までは住宅街が広がっていたが、河内長野を過ぎると緑が増え、丘が迫ってきて紀見峠越えに入る。三日市、美加の台、天見と登っていき、紀見トンネルに入り、トンネルを抜けてすぐの紀見峠駅から先は再び和歌山県である。紀見峠駅を出ると右向きのにカーブが続くが、突如左手にこんな峠道には似合わぬほど大きなマンションがぬっと姿を見せる。それも一棟ではなく丘一面に広がっている。南海の開発する橋本林間田園都市である。ニュータウンといえば、多摩をはじめこんなような丘のあちこちに点在しているようなものではあるが、緑溢れる峠越えのトンネルを抜けた直後に出くわすと、なんだか別次元に迷い込んだかのような感がある。ここは南海の拠点駅でもあり、1時間に1-2本程度当駅折り返しの列車がある。ニュータウンを抜けると下り勾配となり、御幸辻駅、そして終点の橋本駅に着く。基本的に橋本で運転系統は分断されており、高野山方面はここで乗り換えとなる。昨年の台風の影響で高野下~極楽橋間は未だ運休しており、高野山へと向かう客はここからバスの代行輸送を利用することになる。高野山へ向かうとみえる外国人観光客が数組、改札へと向かっていった。近年は高野山や、更に奥の熊野のあたりまでも外国人観光客が多く訪れるという。交通の便が悪く日本人ですらロクに行かなさそうなところであるが、紀伊半島の奥地といえば十津川郷や大台ケ原など国内屈指の秘境地帯でもあり、秘境愛好家や登山家には人気だという。
橋本を出ると大きく右に90度カーブして紀ノ川を渡り、さらに右に90度カーブして紀ノ川沿いの山の端を進む。2つ目の学文路駅は、毎年受験シーズンになると縁起を担いだ入場券を求める客で賑わうという。学文路の次が九度山駅で、12:43着。
一昨年の大河ドラマでも舞台の一つとなったからご存知の方も多かろうが、ここ九度山町は信濃の戦国大名真田昌幸・信繁(幸村)父子が関ヶ原の戦い後に流された場所であり、家々の軒先には真田六文銭や赤備えになぞらえた飾りが連なっている。真田ゆかりの史跡としては真田父子が暮らし、昌幸の墓所もある真田庵のほか、真田父子の九度山時代のゆかりの品を中心に展示している真田ミュージアム、真田紐の工房などがある。ドラマ放映中に催された真田まつりには昌幸役の草刈正雄らも駆けつけ大変な賑わいをみせたという。放映から1年経ち、九度山の町は昔ながらの落ち着きを取り戻しつつあるようであった。
#1 @polyphenol
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