お疲れ様…。

小笠原 雪兎(ゆきと)

頑張ったね、お疲れ様…。



 浮気されている?

 金原悠人はそう感じた。車道を挟んで反対側の歩道には交際してもう2年になる雪菜が悠人の親友と楽しそうに談笑しながら歩いていた。


 今日はクリスマスイブ。悠人は明日の雪菜とするクリスマスパーティの為にケーキを買い、これからプレゼントを買おうとしているところだった。


 雪菜と男はまるでカレカノ関係のようであった。事実、二人の横を通る一人の男が顔をしかめたのが悠人にも見えた。


 悠人は思い込みが激しい男だった。と同時に諦めの早い男でもあった。

 だから楽しそうな二人を見て悠人は決めた。


「邪魔になるなら別れて田舎に帰ろう。雪菜もそれを望んでいるはずだ」と。




「お帰り…」


 そう言うのは沢本美香。

 わざわざ悠人の故郷の入り口であるバス停で待っていたのだ。


「あぁ…」


 悠人は短く返事をし、美香の軽トラに乗り込む。


「お兄ぃ…。どうかしたの?」


 美香は運転席に乗り、悠人に聞く。


「何にも無い」


 悠人は無愛想にそう答えた。




「お兄ぃ…あの女は?」


 美香が悠人に話しかける。いつもは必ず悠人の横に雪菜がいた。


「いねぇよ」


 窓の外は雪が薄く積もっている。


「そ…」


 美香はハンドルを切った。向かった先は人気の無いカフェだった。

 悠人を車から降ろし、入店させる。


「どうした?」

「コーヒーでいいよね」


 美香は返事を聞かずに席に着き、コーヒーを頼んだ。


「お兄ぃ…。聞かせて…」

「聞かせるもんなんかねぇよ」

「そ…。じゃあどうしてあの女がいないの?」


 悠人は言葉に詰まった。


「うるせぇよ!関係ないだろ!?早く家まで送れよ!」


 悠人は八つ当たりを始めた。美香はそれを冷ややかな目で見る。


「なんだよその目は!」

「へぇ。その態度じゃ浮気されても仕方ないんじゃない?」


 悠人は目を見開いた。美香は淡々とコーヒーを啜る。


「自業自得よ」

「ふ、巫山戯んなよ!俺が何したって言うんだよ!



 雪菜より早く帰って風呂沸かそうとか、雪菜が食べた言っていった料理を何度も練習した!いろんなことしたんだよ!



 俺は頑張ったよ!楽しませるために頑張ったよ!



 何が!何がだめなんだ!」


 悠人は叫んだ。


「そ…。頑張ったね…お疲れ様」


 美香の言葉で悠人の頬に涙が伝った。

 美香は悠人の横に座った。そして震えるその肩を抱きしめた。


「大丈夫、大丈夫、私がいるよ」


 小さな手がゆっくりと悠人の背中を撫でた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

お疲れ様…。 小笠原 雪兎(ゆきと) @ogarin0914

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ