笑顔の盾

黒羽カラス

第1話 壊す

 わたしは今日も学校にいく。

 でも、その前にすることが。

 鏡にむかってにっこりと笑う。

 今日はうまくできなかった。

 もう一回、試してみる。今度はきれいに笑えた。

 これならだいじょうぶ。

 ランドセルを背おって元気に部屋を出ていく。

 ママが玄関に立っていた。心配そうな顔で待っていた。

 わたしはにっこりと笑う。

 ママも少しだけど笑ってくれた。


「いってきます」


 声が震えないように大きな声を出した。

 今日は良いことがありそう。

 青い空を見てそんなことを思った。

 前のほうにクラスの女子が歩いていた。

 わたしはにっこりと笑う。


「おはよう」


 声を待たないでわたしは走る。

 小学校が見えてきた。ドキドキして門を通った。

 一番、うしろのドアを開けて教室に入る。静かにランドセルをおろして真ん中の机においた。

 イスに座ると少し痛かった。でも、だいじょうぶ。

 わたしはにこにこしてランドセルの中身を机の中に入れた。

 一時間目の国語が終わると、わたしはゆっくりと教室を出た。

 笑顔のまま、トイレに入ってスカートをパタパタさせる。引っついていたガビョウが落ちた。


「子供なんだから」


 わたしは笑って言った。

 時間ギリギリで教室に入る。イスに座る前に下を見てほっとした。

 机の中から算数の教科書とノートを取り出した。

 ヒゲの先生が入ってきた。みんなが教科書を開く。わたしも同じように開いて、すぐに閉じた。

 先生に問題を当てられないように、ずっと下を見ていた。

 今日のわたしは運が良かった。授業が終わって、すぐにゴミ箱のところにいって見つけた。


「びっくりしたよ」


 笑顔を忘れないようにしてゴミ箱から拾いあげる。自分の机に戻って教科書の間に挟んだ。次の授業の用意を始める。

 ノートにはひどい言葉がいっぱい。

 別の教科書も破られていた。

 給食はひとりで食べた。

 休み時間に足を引っかけられた。

 掃除はひとりでがんばった。

 帰る時はランドセルをけられた。クラスの男子が笑いながら走っていく。

 わたしも笑った。トボトボと歩いて帰る。

 公園にいた女子達に呼ばれた。にこにこしていくとペットボトルのジュースを頭にかけられた。


「濡れちゃったよ」


 わたしがにこにこしていうと、みんなはゲラゲラと笑った。

 公園を出て真っすぐに家に帰る。

 玄関で靴を脱いでいるとママが驚いた顔をした。

 その顔を見たわたしはうまく笑えなくなった。


「ママぁ、もう、無理だよ……」


 ママはわたしを抱きしめてくれた。

 ごめんね、の声にわたしは安心して泣いた。

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