第14話 最終回
隣人の言葉に男は驚いた。
たった先程、助けてくれた救世主が、
今まさに自分を殺そうとしている。
男はその時の状況を改めて説明したが、
隣人はそれを落とした500円だと言って引かなかった。
当局のシステムのチェックにもそこが引っかかり、
隣人の証言はそれを確かなものにした。
怒り狂う男だが、500円といえば先程自室にあった事を思い出した。
500円払えばいいんだろう、と先程拾った500円玉を当局員に改めて突きつけたが、当局員は冷静な顔のまま、
”不足しています”
と言い放った。
当局員によると、
自宅にあった500円玉で1時間分の生命維持税はギリギリ認められるが、
"隣人の500円玉を窃盗した罪は別"
とのこと。
その窃盗による生命維持税課税分は、
"30円"。
男は、ポケットに入っている20円をゆっくりと出し、
それ以上は何もいえなかった。
時刻は23時59分を迎えた。
残り10円分、すなわち1分とわずか分を支払う事が出来ずに、
男は当局員と隣人の前で、隣人に向かって、
"鬼、悪魔"
と呟き、死んだ。
隣人は全てわかっていた。
男にハガキが届いたことにより、生命維持税が払えない事。
そして、500円足りない事から今日、死ぬ寸前である事。
そして、窃盗の罪としてなすりつけ、
光を闇に変えしまえる事を。
かつて男の口座から落とされていた500円は、
男の思った通り、
使っていないクレジットカードの年会費だった。
少しの損で済む事が、最終的には大きな影響を与えていた。
この国はというと、
この数年間の間にこの国の人口はかなり減った。
政府は、特殊なシステムで国民の命を計算し、
そして命を取り上げる技術を操っていた。
財政難というのも本音だが、政府にはそれとは別に目的があり、
一度、罪を犯した人間を再度、世の中に放ち、
それにより命が奪われる被害者が出る事、
そしてその罪人の命も生命維持税の計算によって奪える事で、
人口削減を行っていた。
政府はカード会社などにも手を回し、なるべく甘えを許さない状態を作り出していた。
現金の受け渡しをハッキリ把握する装置が完成したのはそれから数年だった。
今もどこかで利用されているらしい。
生真面目な性格のこの国の国民ですらも、
"かなりの数"がいなくなったらしいが、
その詳しい数字は未だ公表されていない。
終わり
500円足りない 南極熊 @kawaii123
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