由来

「私は仇討ちよ。」

 ある時、刈谷初未は言った。その日もカレーだった。すらっと伸びた赤髪と胸元のエメラルド色の石は一際目を引く。彼女は異国召喚時、育ての親である祖父母と幼い頃走り回った家はまるごと消失した。初未はその時、たまたま街へ出ていたという。幼い頃の景色が異国の緑々した世界に上書きされた心情は想像を絶する。

「おじいちゃんとおばあちゃんの骨もないの。」

 そう言うと彼女は唯一の形見らしいエメラルド色の石を指先でいじった。

「だから適正があると言われた時は喜んだわ。私にもなにかできることがあるって思えたもの。」

しばらく重苦しい空気になったが剣介が口を開いた。

「お前はどうなんだよ。」

 士郎はいきなり話を振られてドモってしまった。二人のようになにか恨みや思いがあるわけではない。ただ田舎の父母と兄弟を思った。今でこそ訓練されて鍛えられたものの、当時は運動も勉学もからきしだったし、自分がなにかをできるとも思えなかった。落第であるいは世の中の何者にもなれないような気すらしていた。

「僕には他にできることがない。」

 士郎は静かに応えた。向かいの二人は息をのんだ。

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異界大戦 山川一 @masafuro

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