第4話 信じぬ
血液型占いが嫌いだ。
理由は単純明快で、何の根拠も無いからである。
血液型占いは、統計学によって明確に否定されている。つまり嘘だ。嘘っぱちだ。たった四つの血液の種類だけで人の性格を分類できるわけがない。そもそも人の性格なんて本人の置かれた環境でいくらでも変化する物であるし、親の遺伝子によって産まれる前から決まる血液型で分類など絶対に出来ない。
おまけに壊滅的なのが、血液型占いは何も面白くない事だ。ジョークの一種として、話のネタとして面白ければ何も文句は言わない。よくある心理テストのように、どんな結果が出るのかワクワクして待ちながら、出た結果で当たってる当たってない等と一喜一憂するのは、信じているかは別としてそれなりに楽しい物だ。
だが血液型占いにはそれがない。何度占おうが血液型は変わらないし、その先に行ってもA型は真面目、B型は変人、O型は大雑把、AB型は二重人格、といったテンプレの結果にしかたどり着けない。
しかしこのテンプレ分類どうなのよと思う。A型の真面目、B型の変人くらいまではまだわかる。O型が大雑把ってダジャレなのか???AB型が二重人格ってただアルファベットが二つ入っている事からの連想ゲームだろ!!!もっとちゃんと考えてくれ。
せっかくだから、ジョーク占いとして、もっと各血液型の特徴を極端にすべきだと思う。例えばB型は変人なので何を聞かれても「もはや核戦争しかない」しか言わない。O型は大雑把なので春夏秋冬四六時中グレーのパーカー一枚しか着ていない。AB型は二重人格なのでおちんちんが二つ付いている。A型は真面目なので、そんなB型、O型、AB型を引き連れてサーカス団を経営している。一体僕はなんの話をしているのだろう……
こんな面白くない血液型占いだから、面白くない人達が群がってくる。殆どの人は本気で信じているわけではなく、コミュニケーションツールの一つとして利用しているだけなのだと信じたいが、中には本気で信じている人達もいる。そんな人達の中でB型はすこぶる評判が悪く、B型の異性とは結婚しない!なんて事を公言する人がリアルにいるらしい。地獄そのものである。
B型の人は悲惨だ。何の根拠もない俗説によって、一生もの間小馬鹿にされ続ける。生まれつき前科を背負っているような物だ。僕から言わせれば、B型の人よりも、血液型占いを信じている人の方がよっぽど変人なのだが。
もし自分がB型だったらと思うとゾッとする。こんなしょうもない占い如きで自分を否定してくる社会や人々を心の底から恨むだろう。そしてきっとこう思うのだ。もはや、核戦争しかない。
長々と血液型占いを否定してしまったが、こんな事を言うと、血液型占いを信じている人は「針生さんはA型?」と聞いてくる。
残念、僕はO型だ。馬鹿め。馬--------------------------------鹿!!!!!!!!!!!!
つまりそういう事なのである。
別に血液型占いを廃止しろ!などと言いたいわけではない。信じたい人は勝手に信じてればいい。何も悪い事ではないし、僕は何も気にしない。興味も無い。「何型?」と聞かれて、「O型」と答えた時に、「あー」と微妙な反応をされると、「何があーなんだよ!大雑把にぶん殴るぞ!」等と思ったりするがその程度だ。
だが覚えておいて欲しい。血液型占いを信じるというのは他の占い、タロット占いや水晶占いや占星術を信じる人達と同じカテゴリーに入るという事だし、霊感がある人、アブダクション(宇宙人との遭遇)の経験がある人、透視能力がある人と同じカテゴリーに入るという事だ。あなた達はオカルティストなのだ。
誤解されないように最初に言うが、僕はオカルトが大好きだ。オカルトといっても多彩なジャンルがあるから、中にはあまり興味のないジャンルもあったりするが、子供の頃から怪談や都市伝説は大好きだし、UFOやUMAの映像を流す番組があると絶対に観てしまう。オーパーツや超古代文明や世界のミステリーの情報を仕入れては、ワクワクする心が抑えきれない。
だがオカルトが好きだと公言すると、きまってこのように言われる。
「へぇー、じゃあ超能力とか宇宙人とか信じてるんだ!」
その時の人々の目と言えば、ひどく僕を蔑んでいる感じがする。見下した、ああ、こいつヤバい奴なんだな、という嘲笑と憐れみの目だ。そういうのも良いと思うよ私は、偏見とか無いし。等といった感じを装っておきながら、心の底ではオカルトというマニアックでニッチな趣味を持つ事が発覚した僕に対して心理的マウントを取り始めているのだ。
何も理解できていない。
断言しよう、幽霊UFO超能力、占いオーパーツから陰謀論まで、数多あるオカルトのジャンル達を、僕は殆ど信じていない。信じていないが、オカルトが好きなのだ。
オカルトが好き=オカルトを信じているというのは言わば、ロック=不良、ミリタリー好き=人殺しが好き、アニメオタク=脂ぎったメガネデブ、等と殆ど同義だ。まったくもった偏見である。
確かにオカルトを本気で信じている人達も居るし、そういう人達がオカルトを盛り上げている側面もあるのだが、全員が全員、オカルト好きがオカルトを信じているわけではない。本気で信じている人も居るし、本当は信じてないけど信じているスタンスを取っている人も居るし、信じてないしそれを公言しているけどオカルトは好きという人も居る。僕は中者と後者の真ん中くらいのスタンスだ。
この全員の見解がごっちゃごちゃなのがオカルトなのだ。仮に全員が信じたらそれは宗教になってしまうし、全員が否定したらそれは科学になってしまう。その中間であやふやな存在だからこそオカルトなのであり、だからこそ面白いのだ。
例えば同じUFOの映像を見ても、信じている人達の観方と僕の観方は違う。そしてどちらも面白いしどちらも興味深いのだ。その幅の広さと懐の深さ、そしてそれが事実であろうが創作であろうが激しく好奇心を刺激してくる感覚。これらがあるから僕はオカルトが好きなのだ。きっと伝わらないだろうなあ、伝わらないから、オカルトを好きと言っただけで勝手に信じてる認定してくるんだろうなあ。
別に伝わる必要は無いと思っている。伝わらないからニッチな趣味なのだし、伝えたければこちら側がもっと伝える努力をすればいい。全員が同じ物を好きになるわけでもないし、これでいいのだ。自分の好きな物を他人に強要するなど、愚の骨頂である。
だがどうしても納得いかないのだ。他のオカルトは眉唾物、低俗な物として見ているのに、血液型占いの話は楽しげにする人達が。何度も言うが、同じ領域の物だ。どちらも同じ温度感で見ていないとおかしいのだ。
これは僕の主観に過ぎないが、奴らは「幽霊を信じている」と言うよりも、「宇宙人を信じている」と言う方がヤバい奴認定してくる傾向があるように思う。まったくもって意味が解らない。科学的に言えば、幽霊が実在する可能性よりも宇宙人がUFOで地球にやってくる可能性の方が断然高い。だから確率論的には幽霊を信じている人の方がヤバい奴なのだが、多くの人々は幽霊はどこか信じている節があるし、宇宙人の話をすると怪談よりも真面目に聞いて貰えない。
世の中は所詮そんな物だ。何の根拠もない血液型占いで盛り上がり、夏になれば怪談や肝試しでキャーキャー騒ぎ、オーラの見える番組や、人を地獄に落とす事と改名させる事が得意な人がズバリ言う番組を有難がって見ている人が、宇宙人やUMAやその他超常現象の話をしている人を勝手にヤバい奴認定していく。
結局君たちのイメージでヤバいヤバくないの選別をしているだけじゃないか!何の根拠も無く!
前回、特撮作品を観るときの僕が非常に冷めた、捻くれたガキであった事を書いたが、オカルトを基本的に信じないスタンスを取っているのも、大体理由としては一緒だ。
特撮とオカルトは元々セットのような物である。特撮オタクは大体オカルトの話題が好きだし、オカルト好きは大概特撮作品を観て育っている。だから僕も必然とオカルトの世界に行き着いた。小学校中学年頃の事である。
きっかけが何かはあまり覚えていない。学校の図書室にUFO関連の本なんかがいくつかあって、それをよく読んでいた記憶があるが、そこから興味を持ったのだろうか。
いずれにせよ、やはり当時の僕は純粋にオカルトを見てはいなかった。丁度その頃、テレビでは捏造が発覚した超常現象の特集などをよくやっていて、その影響もあったのだろうが、当時からオカルトを本気で信じては居なかった。
UFOの写真や映像も、それこそ特撮の技術の応用によって捏造られた物が大半であると知っていたし、映画業界に自分のスキルを売り込む為にフェイクのUFO映像を作成する人々が沢山居たという時代背景も知っていた。ジェームズ・ランディというマジシャンが百万ドルもの懸賞金をかけて、科学と手品のトリックで解明できない超能力者の挑戦を待っているのに、五十年以上経っても解明不可能な超能力者が一人も出てこない事も知っていた。そういう裏側を知る事に当時の僕は夢中になっていた。
僕が楽しんでいたのは、オカルトのディティールだった。名も知らぬ何者かが世に放った小さな作り話。それが様々な人を介する中で増殖し増殖し、他の話とも結びついて、噂話として出来上がっていく。そこに対する九十九パーセントの創作物としての尊敬と、一パーセントのもし本当だったらというリアリティ。それが僕のオカルトに対する全てであり、本当かどうかなど、僕にとってあまり興味のない事だった。数々の宇宙人事件、UFO事件、UMA、怪談、陰謀論たちが、創作物として僕を楽しませ、また知的好奇心を刺激した。
ひょんな事から観始めた特撮、そしてオカルト。これらに濃密に触れる中で出来上がっていった僕の感性は、言うならばザ・アンダーグラウンド。普通の人ならば眉をひそめ、目を背けるような低俗、眉唾、陰鬱たちに、いつしか心も体も慣れきってしまっていた。
オカルトに魅せられ、それを信じたが為に破滅していった奇人たちの話に心奪われ、そこに深い哀愁を感じながらも、やはりそれらはどこか滑稽で可笑しく、それは僕にとっての笑いであり、面白さなのであった。あの図工室の一件も、そんな僕の価値観が出来上がっていく過程の、ほんの一コマの出来事だったのだろうか。
そんなアンダーグラウンドな感性から、僕は未だに抜け出せていない。それどころか、長年鬱屈した精神の中で培養されたその感性は、年々膨張を続けている。
肥大したアンダーグラウンドな感性が、僕の心の中で叫んでいる。血液型占いをコミュニケーションツールにして盛り上がる人達に向けて叫んでいる。
あなた達は、面白くない。
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