生徒会の矢面
@shida_shima
第1話
広大な敷地。その中心にそびえ立つ真白き校舎。向かう生徒達は皆、桐の花をモチーフにした校章を、誇りと共に胸に掲げる。
ある者は将来を求めて。またある者は、自由を求めて。またまたある者は、青春を求めて、この学園へとやって来る。
ここは、私立
全国屈指の学力かつ、スポーツを始めとした推薦も積極的に行っているという、難関校にして強豪校と言うべき高等学校。
生徒主体をモットーとし、束縛性の無い自由な校則や、勉強やスポーツに心置きなく励める充実した環境、さらには驚異の名門大学進学率。非の打ち所がない、まさに完璧で理想的な高等学校と言えるだろう。
故に、全国から多種多様な生徒達がこの高校を第一に志望し、その一部の生徒のみが入学を許される。だがその生徒の中に、「普通」の者などそうはいない。
桐学に在籍している生徒は、いずれかの分野が必ず秀でていると言い切っていいだろう。それはもう、その辺の一般人とは比べ物にならない程圧倒的に。
計算力、読解力、想像力、話術、語学力、身体能力――それらいずれかの能力、もしくは幾多の能力が、一般人離れしている者。言わば、その道の「天才」達が集まる学園。
それこそが、私立桐神学園。常人には、決して手の届かない学園である。
◆
俺、
憧れの桐学に入学できたことは、素直にめちゃくちゃ嬉しい。俺は特に天才って訳じゃないが、努力を重ねてなんとか合格できた。奇跡と言っても過言ではない。
しかもこの後、俺には大役が任されているのだ。
「新入生代表挨拶、新入生代表、工藤蒼太」
「はい!」
そう。新入生代表の挨拶。なんと桐学の学園長直々に指名されたのだ。この人がまた良い人で……おっと、今は集中しないと。
階段を上り、ステージに立つ。広い体育館には、沢山の新入生が規律正しく並んでいる。きっと、ここは天才達の宝石箱なのだろう。なんて思えてきた。
一人の女子生徒と目が合う。遠くだが、こちらを見ては優しく微笑みかけてくれた。なんか、勇気出てきた。
「春うららかな、この素晴らしい日に、私達は――新入生代表、工藤蒼太」
なんとか噛まずに言い切ったところで、場内からは拍手が巻き起こる。我ながら良くやった。
俺はこの日に、この場所で、新入生代表として挨拶をしたことを、生涯誇りに思うだろう。
◆
「みんなでテニス、楽しいよー!」
「映画製作とか興味ない?」
無事に入学式を終え、中庭へ行くと、二、三年の先輩達が部活や同好会の勧誘をしていた。多くの新入生も集まっている。
桐学は、推薦を中心とした部活の他に、趣味やわいわい系の同好会も多い。さらにそのわいわい同好会にまで、良い活動場所や中々の援助費が提供されるのだ。これも桐学の魅力の一つと言える。
俺も何か同好会に入ろうか、体を動かすのも嫌いじゃないし、何か新しい趣味を見つけるのも悪くない。
そう思い、人混みの中に足を踏み入れようとした時。
「おっと、お前はこっちだ」
誰かに腕を掴まれた。見ると、屈強な男子と、気怠そうな女子が立っていた。どちらも制服を着ているので、先輩だろうか。てか怖い!
「ちょ、な、なんですか?」
「おい、あと一人はどうする」
「おい! 無視すんな!」
「うーん。あ、あいつでいいや」
そう言うと女子の先輩は、人混みの中に入ると「きゃー!」という悲鳴と共に、一人のゆるふわツインテ少女を脇に抱えて戻ってきた。
「そんな簡単に決めていいのか? もっと慎重に考えたらどうだ」
「いい、こいつで十分」
「……そうかよ。俺は知らねえからな」
謎の会話を進める先輩達。脇に抱えられた少女は「はなしてー! うえーん!」と、目に涙を浮かべながら喚いている。よく見ると、入学式の時に目があった女子生徒だった。
「悪いなお前ら。少し付き合ってもらうぞ」
◆
「どこですか、ここぉ」
ツインテ少女が言葉を漏らす。
連れてこられたのは、校内のどこか。他の教室よりも一際大きい二枚扉の前に降ろされる。
何をされるのか、恐怖でビクビクしていると、「立て」と男子の先輩に手を差し伸べられた。
「開くぞ」
「んー」
「ああクソ、やりたくねぇ」
俺とツインテ少女は、二人並んで扉の前に立つ。すると先輩達が、二枚扉の片方ずつを同時に開いた。
「うっ……」
扉の中から光が漏れる。その先にあったのは……散らかった部屋だった。
「……ようこそ。桐神学園生徒会へ」
男子の先輩が、そう言った。
は? 生徒会?
「ぷっ、あははは! 龍ちゃんほんとに言ってやんの!」
「ちっ、じゃん負けの罰ゲームとは言え、そんなに笑うな」
「あなた達が新しい役員? よろしくね」
いや、状況が全く読めないんだが。
隣を見ると、ツインテ少女もこの謎の状況に混乱しているらしく、ぽかーんと口を開けてただ呆然と遠くを見ていた。
「あ、あの、これって一体どういう事なんですか?」
一番近くにいる、ツインテ少女を運んできた女子の先輩に聞いた。すると返ってきたのは、非常に分かりやすい答えだった。
「ん? だからお前達は、生徒会役員になったんだ」
「……は?」
生徒会役員だって? いやいや、何で俺が?
「ちなみに拒否権はない」
「いや、ある」
どっちだよ……。
龍ちゃんとか呼ばれていた男子の先輩は、身内の発言を否定し、なおも続ける。
「あるが……しかしだな」
「しかし?」
使ったら今後ペナルティでもあるのか? そんな理不尽な! 勝手に指名されて、拒否権与えるけど使ったらペナルティなんて、極悪非道の詐欺師の手口じゃねえか!
「しかし…………なるべく使わないでほしい」
「……嘘つけないタイプなんですか?」
「……まぁな」
詐欺師とか言ってごめんなさい。
◆
どうやら俺は、生徒会役員になってしまったらしい。
いや、桐学の生徒会になれるなんて、名誉どころか栄誉ですらあるが、正直そこまで望んでいないというか。
生徒会室は散らかっていて、その大変さが目に見えて分かる。
部屋の中心には、二つのソファーが向かい合うようにセッティングされており、その間には縦長の机。そして奥には社長室にありそうな机と椅子が置かれていた。
その椅子に座ったのが、先程の女子の先輩。
右のソファーに座るのが男子の先輩。そして左に座っているのは、これまた知らない先輩方、男女一人ずつ。
「じゃあまずお前ら、自己紹介」
社長椅子に座る、女子の先輩が言う。
「はぁ……えっと、一年の工藤蒼太です」
「わっ、私は、
ゆるふわツインテの水瀬さん。よし、覚えた。水瀬さんも気の毒だよな。急に生徒会とか言われて。
「お前達は今後、生徒会役員として連携が求められる。仲良くしとけ」
「わ、分かりました。よろしく、水瀬さん」
「は、はい。よ、よろしくお願いします、九郎さん」
「工藤だ!」
それじゃ義経じゃねえか。
「ひっ! ご、ごめんなさい!」
水瀬さんは目に涙を浮かべ、おろおろしながら謝ってきた。やっべ、つい強く言いすぎてしまった。
「おやおや〜、女の子にそんな強く当たるなんて、酷いなぁ九郎くん」
「工藤です!」
「うるさいぞ。私の部屋で大声を出すな。九郎」
「だから工藤です!」
てかここ、あんたの部屋なのかよ! 生徒会室どこ行った! というかこいつら絶対わざとだ!
「本当にごめんなさい! 工藤さん!」
「九郎だって!」
ってあれ?
「えっ? えぇ〜っ? どっちぃ……」
「ご、ごめん! 工藤だよ。く、ど、う!」
「あーっはっはーっ! 自分で九郎って言ってやんの!」
「うるさいですね! あんたらが九郎九郎言うから間違えたんですよ!」
なんなんだこの人達……。これが生徒会だって? 大丈夫なのかこの学校……。
◆
「私が生徒会長の
黒髪ショートの秋山会長。こんな気怠げそうな人が生徒会長で良いのだろうか。
「副会長の
副会長の忍足先輩。スポーツ刈りで、体格も良くて、いかにも格闘技やってます系の人だ。見た目は結構怖い。
「二年会計の
「どう派生したらその呼び方になるんですか」
さっきから俺をいじってきたこの人が、二年会計の冠木先輩。髪型は、まぁその辺の男子中学生の頭って感じ。
「気をつけろ。そいつサイコパスだからな」
「ええ、ほんとに気をつけた方がいいわ。むしろ関わらない方がいいかも」
へぇ、サイコパスなのか。……ってええ!?
「酷いよ龍ちゃん! 和泉! あ、ほんとに違うからね? これは二人の軽いジョークだから。はははっ」
「……だといいですけど」
最後の謎の笑いで、サイコパス感がぐっと高まったのは言わないでおこう。怖いから。
「最後は私ね。私は
書記の和泉先輩。ストレートのロングヘアー。一番まともそうな人だ。
「もしカブに何かされたら言ってね。ホルマリン漬けにしてどこかの研究室に持ってくから」
「なにそれ!? なんで僕にだけそんなに怖いの!?」
前言撤回。和泉先輩が一番怖い。
◆
「なんか話進んでますけど、そもそもなんで俺たちが生徒会に入らなきゃいけないんですか」
「あ、わ、私も気になってました」
忍足先輩が俺を捕まえた時、初めから俺を探していたような口調だったが、その理由は何なのだろうか。
答えたのは忍足先輩だった。
「あー、それはだな。毎年、学園長の推薦と生徒会長の推薦で、生徒会に新しく加わる生徒が決まるんだ。お前、学園長から直々に新入生挨拶の指名をされたろ。つまり、工藤が学園長の推薦、水瀬が生徒会長の推薦って訳だ。まぁ水瀬に関しては、完全に秋山の気まぐれだがな」
「新入生挨拶の指名……そういう事だったのか。水瀬さんはともかくとして、なぜ俺が学園長に推薦されたんでしょうか」
「さあな。それはおっさんに聞いてくれ」
おっさんって……敬意もクソも無い。
「分かりました。そういう事なら、この生徒会という組織に全力を尽くします!」
最初はあまり気が進まなかったが、学園長直々の推薦ともなると話は別だ。
「わ、私も……」
水瀬さんは、弱々しく手をあげながら俺に便乗した。
なんか知らんけど、守ってあげたくなるのは何故だろうか。
「ところで生徒会長、生徒会って主に何をするんですか?」
俺も十年近く学校生活を送ってきたが、生徒会になるなんて初めてだ。正直興味すらなかったが、なってしまった以上はその役割を心得ておかねばならない。
秋山会長は、「そうだな……」と言って顎に手を当て考えていたが、やがて口を開いた。
「私が知るか」
「退任しろ!」
生徒会長が生徒会の役割を知らないだと? やっぱりこの組織腐ってんじゃね?
「まー会長は君臨してるだけで役割果たしてるようなものだからねー。実際は権力じゃなくて暴力で治めてるようなもんだけど」
「カブ、私は暴力など使ったことはないぞ」
「はいはい、武力でしたー」
「何がどう違うんだ……」
◆
「生徒会の仕事については、私が説明するね」
そう言って、和泉先輩が分厚いファイルを持って来た。
俺と水瀬さん、二人並んでソファーに腰を下ろす。
和泉先輩は、時々ファイルに綴じられている資料を指差しながら説明してくれた。
「この学園には、様々な委員会が存在します。生活委員会、美化委員会、図書委員会、体育委員会、保健委員会、そして風紀委員会などね。簡単に言うと、それらをまとめる委員会のトップが、生徒会なの」
「へぇ……」
「な、なるほど〜、分かりやすいです」
「そうなのか。知らなかった」
「いや、会長は知っとくべきでしょ普通」
何で秋山会長まで新規メンバーのお勉強会に参加してんだよ。本来ならあんたが教えるべきだろ。
「一番の仕事は、各委員会や学級、部活や同好会から意見を聞いて、議案を出す。そして実際に生徒総会で議論する。要は学園の舵をとる事が仕事ね。あとは、学園行事やイベントの企画運営。地域のボランティア活動。予算の編成。備品の管理。その他色々、細かい仕事はたくさんあるわ」
「なるほど。大体分かりました。でも生徒会って、仕事多くて大変そうですね」
「そうね。でも、とてもやりがいのある仕事でもあると思うわ」
ちゃんとやりがいを持って取り組んでいる人もいるんだな。俺も、やるとなったら最善を尽くしたい。
「まだ入学したばかりだし、分からないことがあったら何でも聞いてね」
「さっすが和泉。後輩にだけは優しい」
「はぁ? その言い方じゃ、まるで私が後輩以外に優しくないみたいじゃない。誤解を生むからやめて頂戴」
「いや、誤解してるの和泉だから。僕、和泉に優しくされた記憶なんてないから」
「何言ってるの? こうして生かしてあげてるじゃない」
「和泉の優しさのおかげで生きてたんだ! 僕!」
同級生ということもあってか、和泉先輩と冠木先輩は、仲が良いように思える。けどこの感じだと、多分二人とも自覚ないんだろうなぁ。
「和泉の言う通り、やりがいのある仕事らしい。お前達も、少しは生徒会としての誇りを持たんか」
「会長には言われたくないです……」
◆
「生徒会の役割が分かったところで……生徒会役員にも、役割分担がある」
そう口を開いたのは、副会長、忍足先輩だ。
「生徒会の役割分担……各役職って事ですか?」
「そう言うことだ。お前たち、じゃんけんしろ」
「「え?」」
どのような意図があってじゃんけんをするのかは分からなかったが、俺と水瀬さんは、とりあえずじゃんけんをした。
「わ、私が勝ちました」
「俺、負けました」
「そうか。じゃあ、水瀬が書記。工藤が会計だ」
「そんな適当に決めちゃうの!?」
もしかして会長もこうやって決めたの!? じゃんけんで!?
「まあまあ、そんなに慌てないでよ工藤くん」
「冠木先輩?」
「役職なんて、そんなに関係ないから。適材適所、結局はやれる人がやればいいんだよ。そんでできない人はサボって、できる人がてきぱき働く。だって仕方ないじゃん。できないことはできないんだから。悪気がある訳でもないし。でも結局は、何もできない無能が楽をして、能力の高い頑張り屋さんが苦労する。ほら、これこそあれだ。助け合いってやつだ」
「過去に何かあったんですか?」
一概に否定できないところがまた嫌だ……。
◆
「書記だの会計だのは、あくまで表面上の役職だ。生徒会には、役員内だけの裏の役職がある」
「裏の役職?」
なんだそれ? 特殊任務でも遂行するのか、この学園の生徒会は。
「言っておくが、別に危ない事をする訳じゃない。代々の先輩方に習って裏の役職とか言ってかっこつけてるが、言ってしまえばただの係みたいなものだ。そして裏の役職は、表の役職によって決まる」
そう言うと、忍足先輩は自身に親指を向けた。
「例えば俺、つまり副会長の裏の役職は、『司会進行』だ」
「司会進行……役員内での話し合いの時の司会ってことですか?」
確かに、一番それっぽいのは忍足先輩だ。なるほど。一応機能しているんだな。知らんけど。
「その通りだ。そして、二年会計、カブの裏の役職が、生徒会内でのイベントやレクリエーションの企画をする、『企画』だ」
「そういうこと。打ち上げとかの企画は、安心して僕に任せてね」
「あんたみたいな危ないやつに、安心して任せられる訳ないじゃない! はぁ……あの時じゃんけんで勝っていれば……」
「基本じゃんけんで決めるんですね……」
その制度作ったの誰なんだ……。適性もクソもないし、完全に運じゃねえか。議案提案しろよ誰か。
「そして二年書記、和泉の裏の役職が、生徒会日誌の作成や写真撮影などを担当する『記録』だ」
「はーい記録担当でーす」
いかにも女子らしい声を上げると、和泉先輩は両手の親指と人指し指で、長方形を作った。その間から顔を覗かせて「パシャ」なんて言っている。
「へー。生徒会にも係ってあるんですね。じゃあ、生徒会長の裏の役職って何なんですか?」
「秋山か? ない」
「え?」
ないの? 生徒会長なのに?
「いいや、私には監督という裏の役職がある」
「監督? それはどういう係なんですか?」
「みんなを見守る」
「結局何も仕事してないじゃないですか!」
「会長だからな!」
「開き直るな!」
ほんと、ゆるゆるだなこの生徒会。
◆
先輩方に裏の役職があるなら、俺たち一年にも、当然裏の役職があるのだろう。俺の裏の役職は一体何だろうか。
「あのー、俺の、一年会計の裏の役職って何ですか?」
俺がそう問うと、先輩方は間も開けずに次々と口を開いた。
「矢面」
「矢面だ」
「矢面だねー」
「矢面よ」
「……は?」
や、矢面だって!?
「やおもてって、なんですか?」
水瀬さんが、首を傾げながら言った。それに答えたのは秋山会長だった。
「矢面、それは生徒会に浴びせられる抗議や非難を真っ向から一人で受け、そして一人で立ち向かう役職だ」
「そんな役職作んなや!」
ちょっと待て、役職の重みが先輩方と全然違うんだが。ゆるゆる生徒会どこ行った。
「くそ、なんで俺だけ矢面なんかに……」
焦る俺を、秋山会長は、さも何の感情もないかのような瞳で見る。
「なんでって、お前が会計になったからだ。お前がじゃんけんに負けたからだ。さだめだ。運命だ。モーツァルトだ」
「ベートーヴェンでしょ」
いや多分、ベートーヴェンでも無いんだろうけど……。
「というか、会長は何もやらないのに、俺は矢面なんて、酷いですよ!」
「私は何もやりたくない。なぜなら会長だから」
「理由になってねえよ!」
「ちなみに非難や文句はばんばん来るぞ。うちの生徒はわがままなやつが多いからな」
「あんたがその代表格だよ!」
会長退任だ! 今すぐ選挙の用意だ!
「落ち着いてよ工藤くん、大変なのは君だけじゃ無いよ。みんなそれなりに大変だから」
「いや圧倒的に俺が大変ですよ。俺まだ一年なのに」
一年? そういえば、同じ一年の水瀬さんは、なんの役職なんだ?
「水瀬さんの裏の役職って、何ですか」
「水瀬さんの仕事は、一年書記だから……」
冠木先輩がそう呟いて間もなく、再び先輩方は、次々と口を開いた。
「掃除係」
「掃除係だ」
「掃除係だねー」
「掃除係よ」
「そうじかかり?」
最後に水瀬さんが、首を傾げながら言った。いや、掃除係は分かるでしょ。
「掃除係って……なんでそんなクソみてえな係があんだよ」
「落ち着け工藤、心の声が漏れてるぞ」
忍足先輩がなだめるように言う。
「納得いきませんて、なんで俺だけ矢面で、同じ一年の水瀬さんは掃除係なんですか!」
「不満か工藤。ならば答えてやろう」
名乗り出たのは秋山会長だ。
「経験の少ない一年にこそ矢面を任せ、今後のスキルアップに期待する。これこそが我が生徒会の、一年への教育の仕方だ」
「じゃあ、掃除係はどう説明するんですか」
「は? 一年だから最初は簡単な仕事をだな」
「函館!」
噛んだ。
「ほこたてだろ」
「自分で分かってるじゃないですか!」
ほこたてと書いて矛盾と読む。この生徒会は、その言葉で一杯だ。
先輩方は普通の係、会長に至っては何もしないし、同級生は掃除係。なのに……。
「会長」
「なんだ」
「この生徒会……クソですね」
「ふっ、今更分かりきったことを」
「かっこつけて言うな」
「まぁ不満があるなら、お前が薬となって変えてみせろ。この学園は自由だ。やりたいようにやってみろ」
「分かりました。この堕落した生徒会。変えて見せます」
「期待している。工藤、水瀬、ようこそ生徒会へ」
俺と水瀬さんを交互に見て、秋山会長はニヤリと笑って付け足した。
「歓迎するぞ」
生徒会の矢面 @shida_shima
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