悪役令嬢の最後の舞台 <下>

 断罪イベント──卒業パーティから一夜明け。

 私はすぐに、国王陛下から招集を受けていた。


 あの後、家に戻った私は家族から叱責を受けるのだが、もともと家族としての繋がりは薄いので、これといって気に留めることもなかったが、国王陛下からの招集はさすがに無視するわけにはいかなったのである。



「面を上げよ、ドリス・ダトリスタ公爵令嬢」



 厳かに言い放ってくるのは、言うまでもなく国王陛下。

 玉座に座る姿は堂に入っており、白髪が混じり始めた歳ながらも、なかなかの迫力を滲ませていた。

 だが今は昨夜の事に頭を悩ませているようで、眉間には深いしわが刻まれいる。


 国王の前で跪く私は、言われた通り、ゆっくりと頭を上げる。


 ちらりと周囲を確認すると、この場には主だった面々が揃い踏みしていた。

 国王はもとより、宰相である父、それに重鎮や高官たち。

 そして今回の騒動を引き起こしたシオン王子と、他の王位継承権を持つ者たち。


 しかしながら、シオン王子の隣には、いるはずの人物の姿が見当たらなかった。


 なんでも、アナリア嬢はあのパーティの後、忽然と姿を消したそうなのだ。

 要は、雲隠れだ。

 いま現在も捜索しているようだが、残念ながら発見には至っていないらしい。


 だからなのだろう。

 シオン王子は顔面真っ青でいて、それでいて冷や汗を流しており、今にも倒れそうにふらついていた。

 唯一の釈明の場であるこの場所に姿を見せないということが、どういう意味なのか、それを理解しているからだ。



(本当なら、私も昨夜のうちに逃げてたんだけどね……)



 その準備はしていたのだ。

 しかしながら、鬼のような形相の両親に掴まってしまい「なんでもっと食い下がらなかったの!」「ダトリスタ家としての誇りはないのか!」などなど、朝までコースだったので、逃げ遅れてしまったわけである。

 先程も述べたが、私を道具としか見ていない家族からの叱責など取るに足らないけれど、そのせいで逃げ遅れてしまったのは致命的と言えるだろう。

 まあ、こうしてこの場に連れて来られた以上は、腹を括るだけなのだが……



「話は聞かせてもらった」



 厳かに、国王陛下が言葉を紡いでくる。



「その上で、そなたに問いたい。再び──シオンと婚約をする気はあるかね?」



 陛下の問いかけに、その場が小さくざわめきを見せた。

 そんな中、事前に話をしていたのか、シオン王子の顔に僅かな希望の光が宿る。

 その様子から察するに、恐らく今回の一件、私との再婚約にこぎ着ければ不問にする、とでも話があったのだろう。


 ……ふざけた話だった。


 本当にふざけている。


 どこまで私という人間を馬鹿にすれば気が済むのだろう?



(お父様も……了承済みみたいね)



 冷めた眼差しで私を睥睨してくる宰相──父。


 もとより、この人に家族の愛情なんて期待はしていない。

 頭にあるのは、家の安泰のみなのだから。

 私のことも、ただの道具としか思っていないのだから。


 だからこそ……激高することだろう。

 私の返答に。



 一拍の間を置いてから、私は静かに首を横に振った。



「いいえ。ありません」



 その場が再びざわつき、シオン王子の顔が絶望に染まる。

 そして案の定──



「ドリス! 自分が何を言っているのか、わかっているのだろうな!?」



 普段、感情を露わにしない父がここまで声を荒げる姿は、初めて見た気がした。

 なんだ、人間らしいところもあるじゃないか……と私はなんだか場違いなことを思ってしまう。それだけ、私たち親子の関係性は希薄ということであるl


 私は毅然とした態度を崩すことなく、激怒する父を真正面から見据える。



「シオン殿下は、長年の婚約者である私を簡単に捨てるような御方です。国益を軽んじられるばかりか、わたくしという人間性まで否定なされたのです。そのような御方に嫁ぐなど、在り得ません」



 ビクッとシオン王子が震えるが、この場で何を発言していいのかわからないようで、沈黙を続けるのみ。

 周囲からは「不敬だ」とか「当然だな」と言った賛否両論の小さな嵐が。

 そんな中でひと際大声を上げたのは、額に血管を浮き上がらせた我が父である。



「口を慎め! 我がダトリスタ家の顔に泥を塗る気か!」


「勘違いなさらないでください、。先にダトリスタ家に泥を塗ったのは、そこにいらっしゃるシオン殿下ですわ」



 私の宣言で一同の冷ややかな視線がシオン王子に向かい、当の彼は居たたまれないらしく、現実から逃げるように瞳を閉じた。

 それでも私は、追撃の手を緩めることはしない。



 本音を言うならば、私を裏切った彼が許せないという気持ちもあったからだ。



 ……なんだかんだで、私はきっと彼のことが好きだったのだろう。

 好きになってしまっていたのだろう。

 自分でも気づかないうちに、無意識に。

 だからこそ、どうしても許せないんだろう。

 私を裏切った彼のことを。



「これまでわたくしは、シオン殿下の婚約者として恥ずべきことのないよう振る舞って参りました。時には微力ながらも殿下のお力になれることもありました。わたくしは婚約時から、ずっと殿下にお仕えしてきました……それなのに。あろうことか殿下は、甘言に惑わされ、揚げ句謂れのない誹謗中傷でもってわたくしを断罪なされ、一方的に婚約解消をしてきたのです」



 私は、ぎゅっと拳を握りしめる。

 それが演技なのか、あるいは本心からなのか。


 いつしか私へと注がれる周囲の視線は、同情の色が濃くなっていた。



(私は……認めるよ。なんだかんだで、あなたのことが好きだったのよね。だから──だからこそ、引導を渡すわ)



 私は……シオン王子にトドメを刺す。

 私は……自分の恋心にケリをつける。



「きっとシオン殿下は、また同じことをするでしょう。国益など関係ないと。己の欲望のままに生きると。また婚約者を平気で捨てることでしょう。そんな方の妻になるぐらいならば、処刑を言い渡された方がマシですわ」



 騒然となるその場。

 それはそうだろう。

 私がいま言った内容を要約すると。


 シオン殿下には、国王の器はないと断言したのだから。


 愕然と両目を見開くシオン王子。

 宰相の父は怒り心頭でぶるぶる震え。

 この場にいる面々はそれぞれが囁き合っており。

 ある意味混沌と化してしまったその場に置いて、陛下だけが、泰然としていた。

 


「それが、ドリス・ダトリスタ公爵令嬢──いや、”そなた”の意見なのだな?」



 てっきり息子を愚弄されたと怒り狂ってくるかと思われた陛下は、しかしその声音は実に穏やかなものだった。



(……ああ、そうだ。陛下は……)



 思い出すは、幼少期。

 いつもシオン王子に冷たくされていた私を慮ってくれて構ってくれたのは、ほかならぬ陛下だったのだ。

 実の父親よりもよほど父親の姿であり、この人が父親だったらな、と幼心に思ったものである。



「──陛下、私は──」



 私の言葉は、最後まで言えなかった。

 焦慮を滲ませた顔のシオン王子が、割って入ったからだ。



「父上! いましばらく僕に時間を下さい! いまドリス嬢は怒りで我を忘れているだけなのです! 時間が経てば冷静になり、どのような選択が正しいのか、きっと理解できるはずです!」



 私の少し熱くなっていた胸の内は、一瞬で氷河期へと。



(いまさら何を言っているんだろう……この人は)

 


 あまりにも見苦しかった。

 これが、ほんのりと恋心を抱いてしまった男の成れの果てなのか……

 私はなんだか、悲しい気持ちにさせられる。



 こんな時でさえ、彼は私のことをのだから。



 王子を見る周囲の視線もが冷たいものに変わっていくのだが、当の本人は必死なのか、まるで気が付く様子もなく、ひたすらに国王陛下へと懇願の言葉を紡ぐ。



「僕がドリス嬢を説得致します! だから──」



「黙れ」



 王の静かな一言により、場の空気が凍り付いた。



「え……っ?」



「黙れと言ったのだ」



「な、なぜ……」



 私に向けられていた穏やかな空気は一変しており、シオン王子に向けられる国王陛下の態度は、怒りすら含まれていた。

 隣にいる宰相の父ですら、気圧されて思わず僅かに後退するほどである。



「シオン。私はこの場において、お前に発言を認めてはおらんぞ」


「──っ」



 顔面蒼白となったシオン王子は、もはや押し黙るしかない。


 小さく嘆息した国王陛下は、改めて私を見てきた。

 そこにはつい先ほどまでの怒りの奔流など皆無で、どこまでも私を想ってくれる優しい眼差しだった。



「ドリスよ……すまなんだ。まさか我が息子が、ここまで愚かだったとは思っていなかったのだ」



 公の場、しかも皆の前だというのに深々と頭を下げてくる陛下を前に、周囲のみならず私もさすがに慌ててしまう。



「へ、陛下! 頭をお上げください……!」


「そなたがシオンに冷たくされているのは知っていた。それでも私は、傷つきながらも懸命に頑張るそなたを愛おしく想い、娘に恵まれなかった私は、国益など関係なく、そなたを義娘にしたいと思ってしまったのだ。この事態はすべて、”愚息”はもとより、愚かな幻想を抱いてしまった私に非があるといってもいいだろう」


「陛下……」



 私は……声が詰まってしまう。

 陛下は、ちゃんと私のことを見てくれていたのだ。

 シオン王子との距離を詰めようと頑張るも、いつも邪険にされてしまい、それでも頑張るけれど決して届かなくて。

 頑張っても頑張っても報われない日々。

 それで傷つかない人など、いるはずもないのだ。

 どうにか都合の良い様に自分の心を誤魔化してはきたが……



「だからこそ──残念だ」



 陛下は、心の底からの慙愧の念でもって、重たく口を開いてきた。



「そなたという義娘を諦めなければならないのだからな」



 予想できた言葉だった。

 いくらシオン王子に非があるとはいえ、その王子を公の場で貶した上に、国王陛下から提示してきた再婚約の話すら棒に振ったのだから。

 とはいえ、さすがにこれだけのことで処刑までの重刑は科せられないだろうが、国外追放は確実だろう。

 王族や貴族社会とは、体面やメンツの上に成り立っている世界なので、”見せしめ”は必要不可欠であり。

 王家に盾突いた以上は、それ相応に厳しい対応をしなければならないのだ。


 実父が私を睨んでくるが、もう私には関係なかった。

 どうせ明日には、もう赤の他人なのだから。



「シオンよ、此度のお前が仕出かした愚行の意味は、大きいと思え」



 まるで八つ当たりのように厳しい声の陛下の視線を受けて、シオン王子はガタガタと震え出したかと思うと、ついにはその場にみっともなく尻もちをついていた。




 ※ ※ ※




「──まあ、思い残すことはない、かな」



 街道をひとり歩く私は、誰にともなく独りごちる。

 国外追放となった私は、当然ながらダトリスタ家からも勘当され、何も持たされることなく家を追い出されていた。

 とはいえ、予測済みだったので、家から離れた廃屋に事前に必要最低限の旅の準備はしておいたので、これといって問題はなかった。


 結局、最後までバックレたアナリア嬢は見つからず。

 今回の騒動の責任を取らす形で、シオン王子は王位継承権をはく奪。

 現在は、王家とダトリスタ家の間で、落としどころを話し合い中らしい。



 悪役令嬢ドリス・ダトリスタの破滅エンドを回避するために必死で頑張ってきた身としては、ただの国外追放ならば、御の字と見るべきだろう。

 貴族の記憶しかない状況での国外追放ならば、それはそれで破滅エンドと言えなくもないが、私には前世の庶民としての記憶もあるのだから、この結末は決して破滅エンド等とは言えないだろう。


 そもそもが、破滅エンドではその全てにおいて悪役令嬢は死亡するのだから、こうして生き永らえた以上、ハッピーエンドと言ってもいいのではないだろうか。


 そしてここで問題となってくるのが……この先どうしようかという悩み。



(ま。なんとなるでしょ)



 世界ゲームの運命を変えたのだから、いまの自分にならば何だって出来るだろう。

 そんなことを思っていると、ふいに私の体に衝撃が走った。

 次いで襲ってくるは──激痛。



「かは……っ」



 息が詰まる私はそれでも背後に視線を向けると、そこには見知った顔があった。

 可愛らしい顔には似つかわしくない憎悪と怒りを張り付かせるは、パーティ後にすぐ失踪したはずのアナリア子爵令嬢。



「あんたさえいなければ……!」



 口調もがらりと変わっていた。

 というか、これが彼女本来のしゃべり方なのかもしれない。

 どうやら、人前で猫を被っていたのは私だけではないらしい。



「あんたのせいで私は全てを失った……! もう帰る場所すらない……!」



 語尾は怒りだけではなく、泣き声に近かった。

 帰る場所がないというのは、まあ当然のことだろう。

 王族を謀った罪により、彼女は指名手配されてしまったからだ。


 下手に逃げるから……とはいえ、逃げなければ王の間で断罪されていたのは彼女であり、その罪により投獄されていただろうが。



(乙女ゲームのヒロインが指名手配エンドって……)



 私は、思わずクスッと笑ってしまう。

 その様子に、アナリア嬢は愕然としたように両目をまん丸に。



「ど、どうして笑えるの……? ナイフで刺し貫いてるのに……っ」



 そう。

 背後から彼女は、私を殺すべくナイフで襲い掛かってきたのである。

 確かにナイフの切っ先は私の衣服の中に沈み込んでおり、それなりの手ごたえも柄から感じ取っていることだろう。

 にもかかわらず、私が平然としていることが信じられない様子だった。



「あなた、人を刺したことなんてないでしょう?」


「あ、当たり前じゃない!」


「だから、感触を誤認したのでしょうね」


「え……?」



 振り返りざまに手刀を叩き込み、アナリアからナイフを叩き落す。

 小さく呻いた彼女はそれでもナイフを拾おうとするが、すかさず私が足でナイフを踏んでいたので、その行為はむなしく未遂に終わることに。



「ど、どうして……」


「答えは簡単。あなたが襲ってくることは、なんとなく予想がついてたから」



 悪戯の種明かしをするようなノリで、私は上着をベロンとたくし上げる。

 私が下に付けている”もの”を目の当たりにした彼女は、愕然とした面持ちに。



「鎖帷子……」


「そ。だからナイフの切っ先は、私の肌には届かなかったってわけ」



 激痛の正体は、刺されたことによるものではなく、鈍痛というわけだ。



「……どこまで……」


「ん?」


「どこまで私を邪魔すれば気が済むの!? ドリス・ダトリスタ!!!」


「訂正させてもらいましょうか」


「え?」


「いまの私は、ダトリスタ性を名乗ることは出来ないの。勘当されたから」


「そ、そんなのどうだっていいわよ!」


「まあ、そうだけどね」



 ひょいっと肩をすくめてみせる。

 アナリア嬢は、力なくその場に崩れ落ちた。



「なんなのよ……なんなのよいったい……あんたはいったいなんなのよ……どうして私の行動が先読みされるのよ……」


「あなたの敗因を教えてあげるわ」


「……敗因?」



 項垂れながらも気になるのだろう。

 涙目で見上げてくる彼女に、私は静かな口調で告げる。



「あなたは──”私”に固執しすぎたのよ」



 私がシオン王子の婚約者だから、悪役に仕立て上げようとしたのだろうが。

 もし違った相手を悪役に仕立てていれば、違った結果となっていたことだろう。

 なにせ、私は自衛のためだけにしか動いていなかったのだから、他人がどうなろうが知ったことじゃないからだ。



 とはいえ、賭けであったこともまた事実。



 もし日時が違っていれば……これまた結果は違ったことだろう。

 でも彼女は──アナリアは、ゲームの強制力の影響なのかは知らないが、ゲーム通りの日時でねつ造をした。

 だから賭けに勝ったのは、私だったのだ。


 下手な小細工をしなければ、違った結末もあっただろうに。

 まあ、転生者の私と違い、彼女はこの世界の住人なのだから、それを言ったところで詮無き事なのだろうが。



「……う゛……」


「う?」


「う゛え゛え゛え゛え゛ん!」

 

「ええっ?」



 突然大声で泣き出されてしまい、私は思わず狼狽えてしまう。



「ちょ、ちょっとあなた、なんで急に……」


「シオン様が好きだったのにぃ……っ」


「──っ──」


「わ、わたし頑張ったのにぃ!!! やりたくないこともねつ造頑張ったのにぃ!!!」


「……それはまあ、頑張る方向を間違えたのね」


「全部水の泡だよぉ! う゛え゛え゛え゛え゛ん!」



 子供の如く泣きじゃくる彼女を前に、私は何だか馬鹿馬鹿しくなってしまった。

 情けなく大声で泣く彼女に、私はずっと命の危険に晒されていたのだから……


 私は大きく溜め息を吐くと、踵を返した。



「いつまで泣いてるのよ。ほら、行くわよ」


「……え? ひっく、行くって、どこに……?」


「どうせあんた、行くアテなんてないんでしょう?」


「国では使命手配されてるもん……当たり前じゃん……」


「私も国外追放された身だから、とりあえずは隣国に向かおうと思うのよ」


「そ、それと私が、ひっく、なんの関係あるの、さ……」


「どうせあんたのことだから、旅の準備じゃなくて私を殺す準備しかしてこなかったんでしょ?」


「そ、それは……ひっく」


「あんたの欠点は、浅慮なところよ」



 びしっと指をアナリアの鼻先に突きつける。



「もし私があんただったら、嵌める相手のことを徹底的に調べ上げて、確実にひとりとなる時間帯を狙うわ。もしそれがダメそうなら、人気のない場所に呼び出してアリバイを造らせないとかね」


「そ、そんな悪知恵、私じゃ思いつかないよ……」


「中途半端だから、あんたは私に負けたのよ」


「っ……ってか、なんかさっきから喋り方……」


「これが私本来のしゃべり方なのよ。猫を被っていたのは、お互い様ってわけ」



 押し黙ったアナリアは、恨みがましい目で私を見上げてきた。

 紅潮する両頬がぷくぅっと大きく膨れていなかったら”睨んできた”と表現するところである。

 そんな彼女へと、私は片手を差し出した。



「ほら」


「……え?」


「さっき言ったでしょ? 行くわよって」


「……もしかして、私も同行していいの?」


「あんたをこのまま放っておくと、何仕出かすかわかったもんじゃないしね」



 見る見るうちに アナリアの両目には涙が溢れてくる。



「わ、私は……」



 ダンっと跳ね起きざまに、私に抱き着いてきた。



「お姉サマ! 一生ついてきますわ!」


「こらこら、調子いい子ねぇ」



 こうして同行者を得た私は、安堵していることに気付き、驚かされてしまう。

 結局のところ。

 全てを覚悟してのことだったとはいえ、独りは寂しかったのだろう。



(転生者とか関係なく、私だってひとりの女なんだしね)



 落着したことで振り返ってみると、一番の被害者はある意味、シオン王子なのかもしれないと思ってしまう。


 地位を失い、信頼を失い、愛する女性すら失い、全てを失ったわけなのだが……




 自業自得!




 まさに、この一言に尽きるだろう。

 だから私は、彼に一切の同情や憐憫の念を抱くことはなかった。



 ──完

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悪役令嬢に転生したので断罪イベントで全てを終わらせます。 吉樹 @yosikikk

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