異世界版〈SOSお悩み電話〉にレッツゴー!

「よくぞ聞いてくれましたっ!わたしと一緒に死んでください!!」


意味のわからない提案に、おれは一瞬フリーズしていた。


…えーと、まずは状況を整理しよう。おれはフリーの使い魔。もう寿命がないのに契約できなかったショックで、昨日酒屋で飲み過ぎた。うん。二日酔いになってたはずだ。そんでもって目が覚めたら少女が隣にいて、一緒に死のうと言ってきた。つつもたせではなく。なるほど。…。………。


…うん、客観的に見ても意味わからんな。


「…一緒に死のう、とは?」

とりあえず聞き返してみる。聞き間違いであってほしい、なんなら夢であってほしい。


「心中しませんか?」

…より意味がわからなくなって返ってきたよ!


とりあえず聞いてみる。


「…なんでだ?」

「死にたいからです」

ほんと簡潔だな。こいつ、しかもためらいもなく…。


「…なんか悩みでもあるなら相談屋にでも言ってみたらどうだ。悩みを聞いてくれるサービスもあるらしいぞ」

「悩みを聞いてくれる…つまり、えすおーえすお悩みでんわみたいなものですか?『死にたい』ってけんさくしたら一番上に出てくるやつ…」


何言ってるのかぜんぜんわかんねー。


「…そんなところがあるなんて知りませんでした。相談屋、とはどこにあるのです?」

「そこの角曲がって左、すぐ」

テキパキと答えた。こいつは地雷の臭いがプンプンする。見たとこ可愛いのにもったいないが。しかし早めに追い出さないと、おれは自分に残された短い時間を楽しむ権利があるのだ。


「ありがとうございます。早速行ってみますね」

「おうどこにでも行ってこい」


…つかお前は誰なんだ。まあ出て行ってくれるならどうでもいいけどさ。


投げやりに言ってソファーの上に寝そべる。なんとなく気になって、去っていく後ろ姿を見つめた。



ー目をこらした瞬間、ぞくっときた。

ーーなんだ、これは。ーあり得ない。

背筋が粟立つ。呼吸が浅くなる。知らず知らずのうちに、立ち上がっていた。


「ーどうかしましたか?」

不審げに言って少女が振り返る。胸まで伸びた黒髪が揺れる。この地方では珍しい色だ。

「…あ、いや…なんでもない」


そうですかそれでは、と少女は扉から出て行く。ピンと伸びた背筋と細い身体が、閉まる扉で隠される。

パタン、と軽い音を立てて閉まった瞬間、おれは詰めていた息を吐き出した。深呼吸し、ありえないものを見た驚きで張り詰めていた筋肉をほぐす。


「あいつ…やべえ」


ー使い魔は、主人となる素質がある者をオーラで見定める。

オーラとは種族関係なく生物全てが持っている、いわば生命エネルギーのようなものだ。


ある程度魔力がある者はオーラを見ることで、個人が所有する魔力量や適性がある魔法の種類、職業の適性まで見破ることができる。


たとえばおれのオーラは色濃い黒、濃淡はほぼないので、魔力量は中くらい、適性は変身魔法だ。ちなみに濃淡がないのは魔族の特徴である。



ーー使い魔を使役できる特徴の、波打つような深いオーラ。

200年生きてきたが、あの少女のよりも強いものは見たことがない。おそらくこれからも、見ることはないだろう。


「…すげぇな…」

オーラ、つまり魔力の強い主人と契約すれば使い魔の力も跳ね上がる。もう誰とも契約しない、その決心が揺らぐほどのオーラだった。


ーまあ、もう会うことないだろうし、別に関係ないか。

…でも、名前くらい聞いといても良かったかな…。…。






ーー二時間後。


「…ひとつ、聞いていいかな」

「はいなんでしょう」

「ーなんで相談屋に行ったはずのお前が、ここにいるんだよぉおおぉぉおおお!!!」

おれは頭を抱え、高らかに叫び声を上げることになるのだった。






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正統派使い魔と死にたがりJK 浅瀬のあさり @asari__asari

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