正統派使い魔と死にたがりJK
浅瀬のあさり
「心中しましょう!」「は?!」〜ついにヒロイン登場〜ヒロ…イン?
おれは夢を見ていた。
ーーお前さぁ、使い魔のくせに魔法さえロクに使えないの?
炎召喚の魔法に失敗して宿屋を黒焦げにしてしまったおれを、宿屋の主人がネチネチ怒っている夢である。
ーーあのね、俺は誰か暖炉に火をおこしてくれって言っただけなの。普通にマッチでつけてくれりゃよかったの。それを呼ばれてもいないお前がしゃしゃり出てきて…
ーー結果黒焦げだよ!どーすんの?!どーしてくれんの?!というかこれ、ほんとにどーしたらいいの教えて!!!保険もはいってなかったのにいぃいぃいいいぃぃ!!
黒焦げの上に突っ伏し大泣きする主人。
…ここは立派な魔族たるおれが慰めてやるべきか?
ーーおい主人、落ち着け大丈夫だ。大丈夫…だいじょう…ぶ…かな?
ーーなんで不安そうなんだよ!…だ、大丈夫だよな?お前魔族だもんな、魔法で再建ぐらいささっとできるもんな…!?
不安そうに縋り付いてくる主人に…
ーーいやちょっと…木材とのりとおれ様の力があれば、半年ぐらいで再建できる…かな?
ーー力業かよ!てかのりってなんだ、まさかのりで木がくっつくと思ってるんじゃないだろうな?!
……。
ぎこちない笑みのまま固まるおれ。
ーーもういいわかった。引き止めて悪かったな、慰謝料だけ置いてとっとと消えてくれ。
疲れた声で主人が瓦礫の上に座り込む。
こいつ諦めがいいな、好感が持てる。おれは颯爽とトンビに姿を変え、もと宿屋だった瓦礫の山を越え飛び立った。
ー慰謝料を置かずに。
ーーあ!待て!待てこの放火魔!…くそっ、油断させて内臓でも売り飛ばしてやろうかと思ったのに!!
…内臓抜き取るつもりだったんかい!
追いかけてくる主人の声がどんどん小さくなる。見事脱出成功…と思われたその時、体からふっと力が抜けていった。
ーあれ、と思う間もなく落下が始まる。立派だったトンビの姿がみるみる形を失い人型へと戻ってゆく。
そういえばもう寿命がないんだ…と気づいた瞬間、おれは地面に墜落した。なぜか隣にはユーリがいて、おれを無言で見下ろしている。
ーー助けてくれ小娘、寿命が来た。もう力がないんだ。契約しよう。
焦って差し伸べる手に、ユーリはにっこり笑って、
ーー嫌だ。
吐き捨てた。
ーー正体を隠してしか人と接せないクズとなんて、ぜったいに嫌。そのまま死ねばいい。
踵を返し去っていく。
ーー待ってくれ、誤解だ小娘。
おれがお前らに正体を隠してたのは、傷つけたくなかったからで…。
ユーリは振り向く。赤い瞳に嘲笑の色が浮かぶ。
ーーお願いするときに相手の名前すら呼べないの?さすが低級悪魔だね。知り合いたくもなかった。
去っていくユーリの姿は、滲んで見えた。
「うう…ユーリ…待ってくれ、ユーリ…」
「ー彼女さんですか?」
…え?
まどろみから意識が急激に覚醒していく。ぱちり、と目を開けた。いつもの宿屋、いつもの天井。
そしてなぜか、少女がおれを覗きこんでいた。
「…あんら、られ??」
ひどく呂律が回らない。身を起こそうとした瞬間襲ってきた強烈な頭痛に、うっと顔をしかめた。
「あーあかなり二日酔っちゃてますねーこれは寝てたほうがいいかな」
ベッドの隣で、少女がわちゃわちゃ何かをやっている。
「ほら、ろきそにんですよー飲んでください頭痛が治りますから」
…ろきそ、にん?なんじゃそりゃ。
聞いたこともない名前に戸惑っていると少女が水と錠剤を手渡してくる。上体を起こすのも手伝ってくれるので、その錠剤をゆっくりと口に含んで嚥下した。
「少ししたら効いてきます」
「…ありがとう」
平静を装って返事するおれだが内心は、
(…おれ昨日なんかやらかしたっけ…?!)の一色だった。そりゃそうだろ見たこともない女の子が隣にいるんだから!よくてお持ち帰り最悪つつもたせだろ!
…謝ってみて、金請求されそうだったら変身して逃げよ。
「ーあのー申し訳ない。昨晩はちょっと理性が飛んでまして…どうか穏便に…」
おいつつもたせ野郎、偉大なるおれ様が謝ってあげてるんだから許してくれるよな?といった感じのドスの効いた声で言ってみる。
「…は?なんのことです?わたしはついさっき、あなたに用があって来ただけですが…」
ーつつもたせじゃなかった。
「用って、なんだ?」
ぶっきらぼうに聞く。嫌な予感はしたが、つつもたせと疑ったのに少し罪悪感があ?ったからだ。一応聞いといてやろう、そんな感覚で。
ーー後におれは、これをとても後悔することになる。
「よくぞ聞いてくれましたっ!ーーわたしと一緒に死んでください!!」
ーほらね。
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