6.火の玉の正体見たり
翌日。ひばりちゃんと心ちゃんの二人は、放課後に
中には「
けれども、伏見先生たち心ない教師は、校長先生と教頭先生にしこたま怒られていたので、ひばりちゃんも心ちゃんも嫌な気持ちにならずに済んでいた――。
「おつかれさま。大変だったね、二人とも」
職員室での聞き取りが終わり「ミステリー
「
「とんでもない! 我が
「まあね。……それより孔雀。例の『火の玉』の件は何か分かったの? 私たちを危ない目にあわせてまで
いつになく軽い調子の孔雀くんにイラついたのか、ひばりちゃんの声は少しドスが
けれども、そんなひばりちゃんを前にしても、孔雀くんはマイペースのままで、こう答えた。
「もちろん! 謎は全て解けたよ!」
***
三人は再び、「火の玉」が
職員室での聞き取りに時間がかかったため、すでに日は大きく傾き、空がオレンジ色に染まり始めている。
「で? 『火の玉』の正体は何だったんですか~?」
目を輝かせながら、心ちゃんがたずねる。
お化けや妖怪の仕業でないのなら、何かもっとすごい秘密が隠されていたのでは? と、ワクワクしているらしい。
けれども――。
「残念ながら、心ちゃんを満足させられるほど、面白い正体じゃなかったよ。さて、ちょっとまた僕一人で雑木林の中に入るから、二人はここで待っててくれるかい?」
孔雀くんは苦笑いしながらそう言うと、昨日と同じように木々をかき分けて雑木林の中へと入って行った。
すぐに、孔雀くんの姿は二人からは見えなくなる。
「二人とも~、僕の姿が見えるかい?」
「……木がジャマでまったく見えないわね。心ちゃんは?」
「ん~、あたしも見えませんねぇ~」
二人の言葉通り、校庭側からは孔雀くんの姿は全く見えない。
木々がジャマだし、何より雑木林の中がとても薄暗いためだ。
「よし、じゃあこれならどうかな?」
そう孔雀くんが言った瞬間、雑木林の中からまばゆい光がひばりちゃんと心ちゃんの目に飛び込んできた!
「わっ!? まぶし!!」
「ちょっと孔雀。それはスマホのライトかしら? あまり目に良いものじゃないから、直接見せないでほしいのだけど……」
「ああ、ごめんごめん。もっと弱い
言いながら、雑木林の中から姿を現す孔雀くん。
その手には、ライトがオンになったスマホを持っていた。
「今見てもらった通り、この雑木林は中に誰かいても、校庭側からだとほとんど分からない。けど、まだ夕方の、完全な
「たしかに。木々の間から光が『もれてきた』というよりは、はっきりと光源そのものが見えた感じね」
ひばりちゃんの言葉に、孔雀くんがうなずく。
「うん。木々は、一見すると雑木林の中を完全に
「……どういうこと?
孔雀くんのもってまわった言い方に、ひばりちゃんが少しイラっとする。
どうやら昨晩の件をまだ根に持っているらしかった。
「……そうだね。あまり面白い答えでもないし、はっきり言おう。ひばり、心ちゃん。
「……タバコの火、ですか~? でも、タバコの火じゃあ『火の玉』というほど大きくないような気が~?」
「うん、僕もそう思うよ。でも、坂城くんはこう言っていたんだ。『林の中に、チラチラ小さな光が見えて、動いてた』って」
――そう。
坂城くんという男の子は、いつもこのように大げさに話を
「坂城くんは『オレンジ色』とも言っていた。つまり、彼が見たのは『火の玉』というより『オレンジ色の小さな光』と言った方が正確なんだ――そして、僕は昨晩、それと同じものをここで見た」
「それがタバコの火だった、と? 一体誰が、こんな所でタバコなんて吸っていたのよ」
「
「ええっ!? 先生たちが? なんでわざわざこんな場所で~?」
思わず心ちゃんが驚きの声を上げる。
先生たちが、夜になってから雑木林の中に分け入ってタバコを吸う――あまりにも不気味すぎる光景だ。
何か深い理由があるのだろうか? と思ったが、その答えは孔雀くんが知っていた。
「ほら、何年か前にさ、市内の小学校が
「ああ~、そう言えば~。前は職員室に来るとちょっとタバコ臭かったですけど、最近は臭いしませんしねぇ~」
数年前、
それにともなって、西小学校内の灰皿も
「……なるほどね。それで、タバコを吸う場所を
「その通り! 雑木林の中なら、校舎まで
「はぁ~、なるほど~。『住宅街の
先日ひばりちゃんから聞いた、「家の中でタバコを吸えなくなったおじさんたちが、庭に出てタバコを吸う光が蛍みたいに見える」という話を思い出しながら、心ちゃんが感心したようにつぶやく。
そんな彼女の反応に、孔雀くんとひばりちゃんは思わず顔を見合わせ、軽く吹き出してしまった。
「ふふっ。蛍と違って、キレイでもなんでもないけれどね? ――で、孔雀。どうするの? 坂城くんには、ありのままを
「……そこなんだけど。坂城くんにそのままを伝えたら、きっと
「『先生たちが
「……うん」
はっきり言って、坂城くんは
もし、雑木林の中で先生たちが隠れてタバコを吸っていたと知れば、それを大声で周囲に広めるばかりか、余計な尾ひれまで付けかねない。
最悪の場合、タバコを吸っていた先生だけじゃなく、校長先生や教頭先生まで責任を取る羽目になるかもしれなかった。先生たちの立場というのは、
「だから、坂城くんにはウソの真相を伝えようと思うんだ。二人はどう思う?」
「いいんじゃないかしら? あの坂城くんに本当のことを伝えたところで、誰も得をしないわ」
「あ、あたしもさんせいです~!」
こうして、孔雀くんたちミステリー倶楽部の三人は、坂城くんに「ウソ」の真相を伝えることにした。
いつものように、「お化けや妖怪などいない」と思わせるためのウソではなく、誰かを守るためのウソだ。
けれども、まさかそれがあんな結果になるだなんて、この時の三人は思いもしなかった――。
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