6.お化けをじっと見てはいけない理由
「いないものが……体を
心ちゃんは
「本当はいないもの」が、本当にいるみたいに
「ええ、あくまでも『本当にはいない』の。でも、多くの人がその
「……え~と?」
ひばりちゃんの言っていることが
「……全部は
「普通の人間は……?」
「ええ、普通の人間は。でも、私たちのような人間には
「――あっ」
心ちゃんには、ひばりちゃんの言葉のほとんどはチンプンカンプンだったが、「視ることで彼らの存在を強化してしまう」という言葉だけは、なんとなく理解できた。
それは小さい頃に、近所のお兄さんに教えてもらったことにも通じていた。
『いいかい? 心ちゃん。心ちゃんにだけ見えて他の人に見えないものは、決して目で追ってはいけないよ? じぃっと見つめたり、目を合わせたりしたら、向こうも心ちゃんのことが見えるようになっちゃうから……。幻だと思って、無視するんだ。――じゃないと、うん。とっても危ないんだ。心ちゃんの家族にも、悪いことが起こるかもしれない』
「古いことわざで『
『本当はいないもの』ですら、『いる』に変えてしまうの」
「じゃあ、やっぱりあたしが見ちゃったせいで……」
「ストップ。その話はさっきもしたわよね? あなたのせいじゃないって」
ひばりちゃんはそう言ってくれたけれども、心ちゃんは
「その、『トイレの花子さん』は、これからどうなるんですか?」
「そうね。まず、今起こっているように、より多くの人に花子さんの姿が見えるようになるわ。そうすると、
「そんな……」
「本当はいない」はずのものが、「いる」ことになってしまう。それがどんなに恐ろしいことなのか、心ちゃんはすぐに理解できてしまった。
「包丁とハサミを持って空から
「うちの学校に出た『トイレの花子さん』は、まだ『女子トイレの中に消える』だけだから無害だと思うわ。でも、『口裂け女』の話みたいに、どんどんと尾ひれが付いていったら……人間に害を及ぼす存在になってしまうかもしれないの」
ひばりちゃんのその言葉に、心ちゃんの背筋がゾッと寒くなる。
もし、鎌倉西小の中で「トイレの花子さんは人間を食べる」だとか「襲いかかってくる」だとか、そんな怖いうわさが広まってしまったら、実際の花子さんも人を襲うかもしれないのだ。
「八重垣さん! なんとか……なんとかできないんですか~!?」
ひばりちゃんに何と言われようと、心ちゃんの中にはまだ「トイレの花子さんが他の子たちにも見えるようになったのは、自分のせい」という思いがあった。だから、何かをせずにはいられなかった。
そんな心ちゃんの思いつめた様子を見て、ひばりちゃんは一つため息をつくと、
「方法はいくつかあるわ。
でも、うわさが収まる前に、花子さんが
「そ、それじゃダメじゃないですか~!?」
「落ち着いて。方法はいくつかある、と言ったでしょう?」
ひばりちゃんは心ちゃんをなだめると、お茶を一口飲んでから、話を続けた。
「こちらは少し難しくなるけれど、花子さんを倒してしまうという手があるわ」
「花子さんを、倒す……?」
「ええ。私やあなたのように霊力が強い人間が見ている前で、生まれてしまった『実体』を倒すのよ。そうすれば、『花子さんを倒した』という事実が強化されて、しばらくの間は花子さんの『実体』は現れなくなる――でも、この方法だと、うわさ話の方が収まっていない限り、また『実体』が現れる可能性があるわ」
「だめじゃないですか~!?」
心ちゃんはがっくりとうなだれた。けれども、ひばりちゃんはそんな心ちゃんの姿を見て、口元に笑みを浮かべていた。
「綾里さん、
「そ、それを早く言ってくださいよ~!」
「ふふ、ごめんなさいね? あなたが
ひばりちゃんがペロッと舌を出して
「ようするに、花子さんを倒しつつ、うわさ話の方も収まるように仕向ければいいのよ。そうすれば、花子さんを一気に『いないもの』に戻すことができるわ」
「……なるほど~。でも、うわさ話を収めることなんて、できるんですか~? みんな、ずいぶん盛り上がっちゃってますけど~」
心ちゃんの心配はもっともだった。今更「花子さんはいないんだ!」と誰かが言ったところで、学校中に広まったうわさ話が収まるとは思えなかった。
けれども――。
「ふふ、安心して? そういうのが得意な、口が
そう言いながら、ひばりちゃんは心ちゃんがドキッとするくらいに怪しい笑顔を見せた。
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