5.妖怪とかお化けの話
「――なるほど。あなたが『花子さん』を見てしまった日から、学校で『トイレの花子さん』のうわさが広まり始めた、ね。確かに、あなたが『
「……やっぱり」
ひばりちゃんの言葉に、心ちゃんは
「……別にあなたのせいじゃないわ。たまたま、『視て』しまったのがあなただったってだけなのだから。鎌倉西小には、あなた以外にも『お化け』が見えてしまう子がいるの。だから、誰が『花子さん』と出会っていたって、おかしくなかった
「そう……なんですか~?」
「ええ、もちろん。――そうね。綾里さんには、『
そう言うと、ひばりちゃんは社務所にいくつかある引き戸の一つを開けて、スタスタと中へ入っていってしまった。仕方なく、心ちゃんもそれに続く。
引き戸を
「……
心ちゃんが
「さて、何から話しましょうか。そうね、まずは『お化け』だとか『妖怪』だとか呼ばれている存在の
そこまで言うと、ひばりちゃんはお湯のみを花びらのようなくちびるに運んで、お茶を一口、コクリと飲んだ。つられて、心ちゃんもお茶を一口飲む。
「お化けや妖怪と呼ばれる存在には、大きく分けて二つの種類があるの。一つは『本当にいるもの』、もう一つは『本当はいないもの』」
「本当にいるものと、いないもの……?」
「ええ。『本当にいるもの』は、
言いながら、ひばりちゃんが指差した方を心ちゃんが見ると、そこにはいつの間にか、先程の黒白猫ちゃんがちょこんと座っていた。
「この猫ちゃんが、妖怪~?」
「ええ。その子の名前は『クロウ』さん。
そんなひばりちゃんの言葉に応えるかのように、クロウさんが「ニャー」とかわいらしい声で鳴いた。その姿は普通のかわいい猫ちゃんにしか見えなかったので、「妖怪だ」などと言われても、心ちゃんもにわかには信じられなかった。
「『本当にいるもの』は、長生きした生き物や古い道具に霊力が宿ったものよ。つまり、元々この世界にいた存在なの。それに、『妖怪』と言っても決して怖いものばかりじゃないわ。人間が
――でも、『本当はいないもの』は、その逆であることが多いの」
「逆って……、人間に悪いことをする、ということですか~?」
心ちゃんの言葉にコクリと頷くと、ひばりちゃんは更に話を続けた。
「『本当はいないもの』のほとんどは、人々のうわさ話から生まれたものなの。
彼らはね、元々は『いなかった』のに、人々が『いる』と信じ込むことで生まれた存在なの。言ってみれば、『人間が
「人間が……妖怪をつくりだす? 本当にそんなことができるんですか~?」
「ええ。綾里さんは、『
心ちゃんはブンブンと首を横に
「『口裂け女』は、私たちが生まれるずっと前に日本で
大きなマスクで口元を
「わぁ……」
「口裂け女」の姿を
「このお話は、元はどこか地方都市での他愛のない怪談だったの。でも、それが
「本当はいないのに、大人の人たちもそれが『いる』みたいに大騒ぎした……ですか~?」
――それはまるで、今まさに心ちゃんたちの学校で起こっている「トイレの花子さん」事件と同じようだった。
「元々は存在しなかったのに、人々がうわさ話を信じてしまうことで、まるで本当に存在するかのように
「ぱわーあっぷ、ですか~?」
「ええ。口裂け女の場合は、すごいわよ? 『
心ちゃんは、「耳まで口が裂けた女の人が、包丁とハサミを持って空から襲いかかってくる姿」を思い浮かべ、また少し怖くなってしまった。それはもう、「お化け」なんてかわいらしい言い方もできない「化け物」にしか思えなかった。
「そして、ここからが『本当はいないもの』の厄介なところなのだけれど――」
「まだあるんですか~!?」
「むしろ、ここからが
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