第2話 君と出会えたことにありがとう

バイトを始めて2週間が過ぎた4月下旬。

晴樹はいつも通り、店長の櫻井さんに言われて話の水やり、掃除などをしている。


「よし、これぐらいでいいかな」


水やりを一通り終えてひと息つく。意外に疲れる作業だと身に染みた。それぞれ花のあげる水の量も違う。根腐れしたらロスになる。

花も立派な生き物なんだなと理解する晴樹。


櫻井は優しく仕事を教えてくれるから、気持ち的には楽だと感じた。しかしまだまだ接客になると任せっきり。今もお客様のラッピング作業中。


「櫻井さん、水やり一通り終わりましたけど、次なにやりますかー?」


「ありがとう晴樹君、なら、ちょっとこっちきて手伝ってーーー作業見てて」


「はい、わかりました」


晴樹はラッピング作業を見て、手際のよさ、器用さ、何より真剣さが雰囲気から伝わる。


「この花って名前なんて言うのですか?」 


晴樹は商品知識はまだまだ足りてない。


「えっとね、これはポピーって花言うの」

「シベリアヒナゲシって言って、通年流通してるけと、春が一番きれいに咲くかな」


「そうなんですね、赤や黄色明るくてなんか元気が出る感じっすね」


「ちなみに昔の人はポピーの種を食用してたそうよ、晴樹君食べてみる?」


「冗談はよしてください、商品ですよ。大事な商品」


「はーい……」

この店長はたまにふざけるからなぁ…


ラッピングを終え、お客様を呼びに行く櫻井。晴樹も一緒に着いていく。

お客様は見た目で言うなら、晴樹と変わらないぐらい。大切な人のために花束を櫻井さんにお任せで注文したそうだ。


「お客様お待たせ致しました、お任せでポピーの花を選ばせてもらいました」

「春にぴったりの花ですので、頑張って下さい!」


笑顔で手渡す櫻井さん、その時にエプロンについている鈴がチリンチリンと小さく鳴っていた。


晴樹は受けとる男性を見たとき、まるで頭の中に彼の過去なのか、思い出なのかよくわからないなにかが流れてきた。


        ★★★


男性には大切な人がいるらしい、同級生の女性。彼女とは小中高と同じでまさになにかの縁ってやつ。これが恋なのかわからない。男性は女性に感謝してもしきれないでいた、この想いをただ伝えたいだけ……。


男性の家庭環境は良いとは言えるものではなかった。望まれて産まれてきた訳でなかった為、親子関係は徐々に崩れていく。

母親はなんとかして男性守っていたが、仕事のストレスからか父親は暴力を2人に振るうようになった。

母親は庇ってくれる。

しかし心身共に疲弊していく母親。

限界だったんだろう。

男性が小学生になる頃に父親と共に刺し違えてこの世から消え去ることとなる。

男性は思う。


「産まれてこなければ良かったんだ……」


男性は心身共に疲弊していた。

後に施設に預けられることになり、施設の人たちは優しくしてくれたがどこか距離を置かれている感じがする。

学校も同じ。

遊びになんて誰も誘ってなんてくれなかった……自分は遊んで良いのかさえ思えた。

「どうして、生きているのだろう」

頭の中にはいつもぐちゃぐちゃだ。


小学生の3年生の頃に転校生の女性がやって来た。男性には関係ないと感じてた。

運命なんかなんなのか男性の隣の席になり、

男性の生活は大きな変化していく。


放課後に女性は男性を遊びに連れまわした。

男性の意見など関係なしに、彼女の天真爛漫な姿は、醜い男性とは対象的には見えた。


川遊び、虫取、折紙、スポーツ、時に勉強。女性の好きなこと、やりたいことに日が落ちるまで付き合った男性。男性の後ろ向きな考えを与える隙間なんてまるでないぐらい世話しない毎日。


男性は尋ねた。

「なんで僕なんかと遊んでくれるの?僕なんて居ても居なくても変わらないのに……」


女性は応えた。

「君のその態度が私は転校した初日から、気にいらなかっただけ」

「そんなんだから、誰も遊びに誘ってくれないんだよ」

「だから、辛いことよりも、楽しいことを考えようよ、ねっ?」

「その一歩が君を変えるから……」

「まずは自分から声をかけて、踏み出して」


どうして女性は優しくしてくれた真意はわからないけど……

まるでお母さんの様なセリフがら優しい頃の母親に似ていた気がして男性も勇気を出してみようと思えた。


それから騙されたように、男性はクラスメイトに声をかけていった。友達はすぐにできた、案外簡単なことだったのかもしれない。

1人ぼっちだから今までこの答えにたどり着けなかったんだ。


男性の時間はやっと動きだしたのかもしれない。女性のおかげ。


一方で女性との時間は減って行き、小学校を卒業する頃には挨拶程度の関係になってしまった……。

中学も高校め同じだったのに、関係は殆んどなくなってしまう。


未だに当時の感謝の気持ち伝えられずいる。


この春から大学生になってやっと決心が着いた。これも運命なのか、学部は違うが大学も同じ。

女性に伝えよう……感謝を。この想いを。

女性は忘れているかもしれないけど。


君が僕に勇気くれたこと

君が僕に友達の作り方を教えてくれたこと

君が僕に生きても良いと教えてくれたこと


さぁ一歩踏み出して



        ★★★


櫻井が男性に花束を渡している。

晴樹は一瞬の出来事で頭が整理できていない。


「ポピーの花を選ばれて頂きました、明るい女性へと言うことですので赤や黄色がお似合いだと思います」

「感謝の気持ち伝わること応援してます」

櫻井はお辞儀をし、晴樹も連れてお辞儀をする。


一瞬驚いた男性であったが、すぐに明るい表情でお礼をして去って行った……。


「櫻井さん、どうしてポピーの花にしたんですか?」


「晴樹くんはポピーの花言葉って知ってる?」


「いえ……」


「ポピーの花言葉は、感謝、いたわり、恋の予感って意味があるの」

「ここに来るお客様はなにかしらの想いを持って来店されるからね……さっきの男性は感謝の想いを願っていたと思ったからポピーにしたんだよ」


「そうなんですね」


中途半端な受け答えになってしまう。それよりも、まるで櫻井が他人の記憶を視ていたような感じで驚いている。


「晴樹くんは感謝したい人とかいる?」


「どうでしょう……あんまり考えたことないです」


「なら大切な人とかは?」


「面目ないが居ないです」


「なら、まずは友達や仲間作りから始めないとねーーーまずはその一歩を踏み出して」


「……頑張ってみます……」


苦笑いしながらこの不思議な経験から自分も他人に対して心を開いてみようかなーと思い始めた晴樹であった……あの男性のように。


そして櫻井と過ごせば、何か人生大きく変われる気がするとも思い始めていた。



後に男性と女性の2人の時間は再び訪れることとなる。

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不思議な花屋さん たーしゃま @tasyama

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