焼きとりの煙が空に流れるのにゃ!

 コネコは、コネコビト。むかしネコで、やがてニンゲンになる、いまはその中間の存在。

 貧乏な本屋さんのシイナさんと二人で暮らしています。


「焼きとり、買ってきてよ」

 シイナさんにそう言われて、千円札を渡されて、今日はお使いです。

 焼きとり屋さんは駅前にあります。持ち帰りだけのお店で、赤いビニールの日除けが目印。

 店頭には串に刺さって下焼きされたお肉が大皿に山盛り積まれており、お兄さんが焼き台でひたすら注文を受けたものを焼き上げています。

 お店の前には二人ほど並んでいる人がいたので、コネコはまずその後ろに大人しく並びました。

 その間に、注文を考えます。


 シイナさんは、カシラと豚トロが好きにゃ。

 コネコは、とりネギとつくねが好きにゃ。

 たまに売り切れになってしまう人気のレバーも外せないし、もう一本は何を頼もうかにゃ……。

 悩んでいるうちにコネコの注文の番です。


「次の人どうぞー」

 焼き台の前のお兄さんが声を掛けてくれてから注文するのが、焼きとり屋さんのルールです。

「ぜんぶ一本ずつでお願いしますにゃ。カシラ、とりネギ、つくね、レバー、豚トロ……あ、とりネギもう一本、にゃ」

 とりネギというのは、鶏胸肉の串にひとつだけアクセントとしてネギが刺さっているもの。シンプルかつスタンダードな定番の味です。

 これはシイナさんも好きだったにゃ、コネコの分を取られたら悲しいにゃ、と思って二本注文することにしたのです。

「味付けは?」

 と、お兄さん。

「ぜんぶ塩ですにゃ」

 通は塩なのです。シイナさんがそう言っていました。

 タレも秘伝っぽい味で甘辛くてタレごとご飯に乗せて焼きとり丼にしたりすると最高に美味しいのですが、そこに卵黄なんかのせたら最高なのですが、今日は頼まれた買い物なのでシイナさんの好みに合わせておくことにします。

 お兄さんは素早い手つきで、下焼きされた串の山からコネコの注文したものを取り、焼き台に並べます。

 焦げるくらいの強火で仕上げ焼きをしてくれるのです。

「680円です」

 お会計はお兄さんの暗算です。

 その暗算能力に、コネコはいつも憧れてしまいます。

 注文が終わったらお客さんは速やかにお兄さんの前から離れて、焼きあがる前にお会計をします。

 別のお兄さんに千円札を渡すと、これも瞬時に暗算でお釣りが返ってきます。

 焼きとり屋さんは暗算マスターじゃないとなれないのにゃ。


 焼き鳥を焼く間、煙がもくもく立って、赤い日除けから溢れて空に昇って行きます。

 煙のにおいにつれられて、新しいお客さんが並びます。

 十本も買う人、大家族なのかにゃ。

 二十本も買う人は、運動部なのにゃ。

 モツ煮を買って行く前掛けのおじさん、もしかしたら自分の店で出してるのかにゃ。


 やきとりー!と叫ぶ子どもと、それを引きずるお母さん。

 散歩中に立ち止まってこちらを見る、犬。

 みんなに人気の焼きとりなのです。

 コネコもねこだった頃、誰かに串からほぐした焼き鳥を貰ったことがあったにゃ、と、ふと思い出します。


 注文が焼き上がると順番に呼ばれて、焼きとりは内側がコーティング加工された特別な紙袋に入れられています。

 ぎゅっと専用の機械で熱を加えると、そのまま密閉もされる優れものです。

 それをさらにビニール袋に入れてくれます。


 中には串をそのまま手渡されて、店頭で食べている人もいます。

 そういう人はコンビニで買った発泡酒などを持ち込んでいるのです。

 通の中の通って感じにゃ。

 店頭にはゴミ箱はあるけれど、椅子やテーブルはありません。

 もぐもぐっと食べてさっと立ち去るのです。粋。


 さて、コネコは焼きとりがあつあつのうちに家路を急ぎます。

 シイナさんが昼酒のお供に焼きとりをご所望なのです。


「ただいにゃあ」

「待ってたよー」

 お膳の上にはすでにお皿がスタンバイ。

 密閉された袋をばりっと破り開けると、ケモノっぽさのある肉の香りがあふれます。

 お気づきかもしれませんが、焼きとりと言いながらも豚肉の、特に内臓部分の串焼きが人気のお店なのです。

 だから、お店の表記も「焼き鳥」ではなくて「焼きとり」。


「お、いいチョイス」

「にゃにゃ。シイナさんはいつも、カシラと豚トロですにゃ」

 お皿の上に串を盛り付けて、コネコには麦茶、シイナさんはもちろんハイボール。

「乾杯」

「にゃ」

 なにに乾杯するのかはわからないけれど、あえて言うならば、駅前に素敵な焼きとり屋さんがあることに。焼きとり屋さんの繁栄を願って。

「今日のレバー、焼きすぎですにゃあ」

「保健所から指導されてるんじゃ」

 六本の焼きとりはみるみるうちにふたりのお腹の中へ消えていきます。


「あー、肉と酒でお腹いっぱい……」

「ぽんぽんにゃあ」

 そのままごろんと寝転がって、窓越しに空を眺めてぼんやりします。

 良い休日だな、とシイナさんは思います。



《よろしければコメント欄にご感想か、お好きな焼きとりの種類をご記入下さい》


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コネコのグルメ〜ジャンクご飯編 #コネコビト ナコ @nakotic

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