第2話
ゴブリン討伐戦開始から二時間。戦況は時間が経てば経つほど少しずつ悪くなる。人間が有利な場所、ゴブリンが優勢の陣地。勝てるかどうか、分からなくなってきた。
「カイル、紅茶は好き?」
「まあ、好きかな? ないよりはあったほうがいいと……思う」
「そうよね。ワタシは紅茶が大好き。紅茶は飲むたびに味が変わる。その時の気候、湿度はもちろんのこと、飲むときの感情。すべてにおいて揃うことは絶対にない」
「そうなの?」
「ええ」
ナイルは手に持ったティーカップを軽く揺らす。カイルは机にあったお菓子をポリポリと食べていく。
――ここは戦場。人が死に、血が舞う戦場。
その場に優雅なティータイムを過ごす彼らに物申す者も物申せる者もいなかった。
「人は儚く死ぬ。仲間に囲まれて最高の人生を送ってきていたつもりが、死ぬ間際になって気付く。死ぬときは独り、だと」
「それは……悲しいね。頑張って友達を増やしても死んじゃうときは独りだなんて」
「うふふ。大丈夫よ、カイル。あなたが死ぬときはワタシが死ぬとき。ワタシたちは一心同体」
「そうだね、兄弟の双子の絆だもんね!」
「ええ」
ナイルは手に持ったティーカップを軽く揺らす。カイルは机にあったお菓子をポリポリと食べていく。
――ここは戦場。人が死に続け、血が飛び交う戦場。
しかし、優雅で華やかなティータイムを過ごす彼らが討伐戦に参加していない訳ではなかった。
「……カイル、暇だわ。何か面白いことをしない?」
「面白いこと……。ああ。そういうことね! いいよ」
「それじゃあ、戦場で舞いましょうか」
――――ハッ!
二つの弾丸が戦場へ投下される。それは死の弾丸。当たればすべてが壊される。弾丸がゴブリンの体を貫通した。
ゴブリンの体は上下に分かれた。そして、もう二度と出会うことはなかった。
カイル――またの名を、剣豪勇者。
前人未到の神剣をも操る。
ナイル――またの名を、最強乙女。
美しく可憐なる姿ですべてを壊す最強の乙女。
戦闘開始から30分。ほとんどの
「ふぅ……この辺は殲滅完了~♪」
「ナイル! 返り血で君のドレスが汚れてしまっているよ……」
「泣きそうな顔にならなくても、大丈夫よカイル。このドレスは返り血で赤く染めるために買ったのよ」
「あ、そうなんだ! それなら心配しなくても大丈夫、だね?」
ナイルは優しく微笑む。《秘術》でカイルの体についたゴブリンの血を綺麗にとっていく。
「次は……あの辺。でも、ゴブリンの声が全然聞こえないんだ」
「変ね。ゴブリンは叫び声を出しながら、進軍する。声を出さない、なんてことはないはず。もし、もし、そんなものがいたら、それは……」
「それは?」
「新種のゴブリンよ。私たちは対抗できないかもしれない」
そんな馬鹿な……口に出そうとした言葉が喉に突っかかって出てこなかった。
新種のゴブリン、対抗できない。
ナイルの放った言葉がカイルの頭を駆け巡っていた。
「まあ、そんなに心配しなくても大丈夫よ。新種の可能性はほぼゼロに近い。突然変異、なんてことはあるかもしれないけど、早々起こるものじゃないし、起こったとしてもそんなに数はいないはず。だから安心しなさい」
「わかった。でも、念には念をいれなければ」
「そうね。じゃあ、防衛よろしく~」
二人は駆け出す。声のしないゴブリン軍のもとへ。
双子の勇者、カイルとナイル。 @ichimura0417
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